海外から見た日本茶の魅力とは?北米では健康志向、ヨーロッパでは茶の文化面が注目され広がりを見せている
ここ近年、日本茶の魅力が海外にもどんどん広がっているように感じます。
実際に11月に開催された日本茶の品評会「日本茶AWARD」のイベント「TOKYO TEA PARTY 2024」では、外国人の姿も多く見かけました。
このイベントを目指してやってくる外国人バイヤー、日本茶に関わる仕事や活動をしている方々、通りすがりだが日本茶のイベントに興味がわいて!という人まで。
前回の記事では「海外の抹茶ブームによる宇治の抹茶の品薄」を取り上げましたが、今回は海外から見た日本茶の魅力について考察します。
海外から見て日本茶ってどんな印象?
海外から見て日本茶の代表格は「抹茶」。
文化面でも飲み物としても揺るぎない不動の地位を築いています。
抹茶ラテや抹茶スイーツは今では欧米、アジアとどんどん広まり、その発祥の地の日本でぜひ買いたい!と抹茶を買い求める人も多くいます。
タイやシンガポールでも抹茶の専門店が増えていたり、日本の日本茶・抹茶をテーマとしたカフェブランド「ナナズグリーンティー」の海外店舗も大変好調で、オーストラリアのメルボルンにオープンしたお店もその人気は予想以上なのだそう。
特に海外では宇治の抹茶の評価が高く、今は海外需要とインバウンド効果で品薄になるほど!
その中で「抹茶」そのものや、抹茶と深い関わりのある茶道と文化的背景に興味を持つ人も少しずつ増えてきているようです。
北米では日本茶の健康面が注目されている
北米では10年以上前から抹茶の健康面での効能などが注目されています。
カテキンやテアニンなどの緑茶の成分の効能が注目され、抹茶は健康に良いというスーパーフードのようなイメージ(日本で言う青汁みたいな存在)。
セレブや健康に意識の高い人に好まれています。
先日お話を伺った日本茶輸出促進協議会の理事長の谷本宏太郎さんのお話しでは、海外では特に有機栽培やシングルオリジンの茶葉が人気があり、最近は北米では「コーヒーは年配の方が飲むもの」といった印象だそうで、若い層では今は抹茶などの緑茶がトレンドなのだとか!
また、北米で主流になってきているアルコール飲料「ミクソロジー」でも緑茶などを使い健康面にも意識したものが増えてきているそうです(ノンアルコールのものもあるそうです)。
※ミクソロジーとは「自由な発想で、既成概念を飛び越えてする創造するカクテルの総称」なのだそう。Mixology Online Magazine(外部サイト)より
ヨーロッパでは日本茶の文化面に注目が集まっている
ヨーロッパでは日本茶の文化面に魅力を感じる人が多いようです。
特にフランスでの日本茶への理解と評価はヨーロッパの中でも高いように感じます。
朝から茶道のお点前のように抹茶を点てて飲む人や、急須で日本茶をいれて飲む人も。
そこには「わび・さび」や「マインドフルネス」を感じる人が多数。
これはフランスに限ったことではありませんが、日々外国人留学生など外国人との交流が多い仕事をしていると、日本のわび・さびはかなり浸透していて、敢えて説明するまでもないくらいです。
マンガやアニメなどのサブカルチャーをきっかけに日本に興味を持つ外国人が今も多く、その中で自然にわび・さびに触れて理解できている人が多いように思います。
フランスで日本茶専門店が増加
フランスでは日本茶専門店がかなり増え、専門店でなくても抹茶だけではなく煎茶など急須でいれるお茶を飲むことができるなど、ここ数年でどんどん広がりを見せているそう。
ここ最近は日本の食文化であるおにぎりの専門店が話題になったり、「モチ(mochi)」と呼ばれる大福の専門店、たい焼きのお店もあるのです。
以前は餡子が苦手な外国人が多かったのですが、最近は母国でも食べたことがあるなど、少しずつ餡子を使った和菓子も食べられる人が増えているようです。
日本食の人気と共に、日本茶も広がりつつあるようです。
フランスでの日本茶の広がりが、周辺諸国にももっと広がっていくことに期待します。
日本では日本茶を飲めるお店が少ない…
「日本に来たらどこのお店でも日本茶が飲めると思っていたのに、わざわざ専門店を探さなければ飲めない…」と嘆く外国人観光客の声を時々耳にします。
日本で普通のカフェに行くと、コーヒーと紅茶、ジュースなどは置いてあっても、なかなか日本茶が選択肢にあるお店に出会えません。
おいしい日本茶が気軽に飲めると思っていたのに、飲めるお店は限られている。
これはとても残念なことです。
京都や静岡などの茶産地に行けば専門店も多くありますが、それでも普通のカフェのメニューに日本茶はあるでしょうか?
お店の方で「日本茶はカフェスタイルのご飯やスイーツには合わない」という先入観があるのでしょうか?
実際は日本茶の多彩なバリエーションの中で洋風のものに合うものも多く存在します。
洋菓子には濃い目のほうじ茶や和紅茶が合い、国産烏龍茶なども生産が増えてきつつありますが、まだあまり知られていないようです。
日本の中での日本茶の評価がもっと高まってほしい、日本茶のバリエーションやその魅力に気づいてほしい、そして普通のカフェや飲食店のドリンクにも日本茶が選択肢として増えるといいなと思います。
日本人より日本茶に詳しい外国人の姿も!
海外の(特にヨーロッパに多い)「日本茶マニア」は一般の日本人よりずっと日本茶全般に詳しく、抹茶だけではなく煎茶などのリーフの日本茶についても深い知識と理解を示しているのです。
現に宇治の抹茶、それも高価格帯の上級のものはその背景とおいしさを理解した外国人が購入しているという話も聞いています。
日本茶の品評会「日本茶AWARD」のイベントの会場でも、試飲をしたり茶葉を見比べたりと真剣に日本茶を選ぶ外国人の姿が多く見られました。
もしかして、日本茶について何も知らないのは日本人だけ?
農作物でも伝統工芸でも特に良いものは海外の評価が非常に高く、海外へ出てしまって日本には残っていない…。
そんな話もよく聞きます。
もっと足元に目を向けるべきではないかと、自戒を込めて感じます。
海外でも茶道は日本の文化として注目されている
特にヨーロッパではジャパンエキスポなどの日本文化紹介などで茶道に興味を持つ人が多いようです。
茶道は日本文化の代表的なイメージとして捉えられているようです。
抹茶はおいしい飲み物というだけではなく、その文化面や精神面を重要視している印象。
今回の日本茶AWARDのイベントでインタビューしたスペイン人のアマイェ · アルバさんはなんと宗暁(そうぎょう)という表千家の茶名(師範の資格)を持ち、斬新なスタイルも取り入れて茶道の魅力をイベントやワークショップで発信しているそうです。
さらに、日本茶コンサルタントとして煎茶など日本茶の産地へも赴き、抹茶だけでなく日本茶全般を海外へ繋ぐ活動もされているのだそう。
アルバさんからはこのようなメッセージもいただきました。
素晴らしい志ですね!
日本茶に対する熱いメッセージ、非常に頼もしいです。
日本茶がもっと評価され親しまれるようになると、新たな魅力や価値に気づく人も増えてもっと広がっていくと思います!
※「宗暁」ことアルバさんのインスタグラムはこちら(外部サイト)
日本茶の歴史から紐解くと
抹茶と茶道の歴史
海外から魅惑と羨望の眼差しで見られている日本文化。
その中でも茶道はとても注目されていると感じます。
歴史から見ても煎茶などよりずっと古くから日本に根付いている抹茶とその文化。
抹茶は約800年前に中国から禅僧によって伝わり、その後公家や武士など上流階級を中心に茶の湯が広まり、15世紀に千利休が茶道を確立したことで文化として成熟し独自の発展を遂げていきます。
その中で抹茶を生産・加工する技術や和菓子の発展みならず、茶道で使う道具、陶磁器、漆器、彫金、竹細工、ガラス工芸などの伝統工芸や、茶室の数寄屋建築が日本の伝統的な家屋の発展にも寄与していくのです。
もし茶の湯や茶道が存在しなかったら、抹茶はもとより、和菓子、特に季節の意匠を表した上生菓子は存在していないかもしれません。
さらには、伝統工芸もここまでの発展をしていなかったのではないかと思います。
それほどまでに自然に日本文化の中に浸透しているのが茶道と茶の湯の美意識やエッセンスなのです。
日本に住んでいると身近すぎて気付かなかったり、目を向けようとせず過ごしていたりするのですが、海外からは新鮮に魅力的に映るのでしょう。
そうやって海外からの目線でこちらが気付かされることは多くあります。
日本国内でももっと日本茶の魅力を知ってほしい
日本では日本茶は身近にあるのが当たり前で、「お茶にお金を出す」というのはようやく最近になって一般的になりましたが、以前はお茶はタダという認識がほとんどでした。
しかし、日本茶の生産や加工には熟練の技術や工夫が必要で、手間ひまとコストがものすごくかかっているものなのです。
お茶はタダ、ではありません。
それは誰かが我慢して成り立っていた悪しき習慣です。
今は生産者が高齢化と後継ぎ不足でどんどん減る一方。
これでは将来日本でおいしいお茶が飲めなくなってしまう…。
「日本茶は人気があるから大丈夫でしょう?」と言われることが多いのですが、それは抹茶が人気だからそう思われているだけど、茶農家の数は減り続け、産業としても現実はとても厳しい状況にあります。
日本茶はもっと日本国内でも評価されるべき、日本の食と文化において大切な魅力の一つだと思います。
そして変えてはならない伝統的な部分と、時代に即して変えていく新しい試みの両軸が必要だと感じます。
まずはティーバッグでも良いので自分のスタイルで楽しんでみること。
気負わず一歩足を踏み入れてみると、そこには無限の楽しみと魅力が広がっているかもしれません。
さ、お茶を一杯、いかがですか?