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スマホ片手に画面見たとして「ながら運転」で摘発 裁判で処分が取り消された訳

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:イメージマート)

 自動車の運転中に右手に持ったスマートフォンの画面を見たとして「ながら運転」で摘発され、免許の更新時に違反運転者に区分された男性がその取り消しを求めて群馬県を訴えた裁判で、前橋地裁は男性の主張を認めた。

「ながら運転」の規制内容は?

 報道によれば、次のような事案だ。

「14日の判決によると、男性は2016年、右手に持ったスマホを見ながら軽乗用車を運転したとして太田署の巡査に摘発され、20年の免許更新で『違反運転者等』とされた」

「男性は画面が点灯したスマホを持って運転したことは認めたが、『画面は見ていなかった』と主張。巡査も『画面を見ていたことは確認していない』と証言し、判決は『違反行為をしたことには合理的な疑いがある。誤認の可能性が否定できない』と結論づけた」(読売新聞

 男性が摘発されたのは2019年に「ながら運転」が厳罰化される前のことだが、規制の内容自体は当時も基本的に変わりがない。整理すると次のとおりだ。

(1) たとえ交通の危険を生じさせなくても、スマホを手で持って通話のために使用したり、スマホを手で持って表示画像を注視したりすれば、それだけで犯罪

(2) スマホを手で持って通話のために使用し、交通の危険まで生じさせたり、手で持っているか否かを問わず車内のスマホやカーナビなどの表示画像を注視し、交通の危険まで生じさせたりすれば、さらに重い犯罪

(3) 「通話」ではなく「通話のために使用」という規制文言なので、着信音に気づいてスマホを手に持つとか、手に持ったまま発信して相手の着信を待つなど、実際に通話する前の状態でもダメ

(4) 逆に、ハンズフリーやスピーカー機能を使うなど、手に持たない状態での通話使用は、この規制の対象外

(5) 交通の危険を生じさせず、かつ、手で持っていなければ、スマホやカーナビなどの表示画像を注視していても、この規制の対象外

(6) 通話使用や画像注視さえしていなければ、スマホを手に持っていても、この規制の対象外

(7) 「停止」、すなわち赤信号などでの停車中や待ち合わせなどでの駐車中は、たとえエンジンをかけていても、この規制の対象外

(8) 渋滞時のノロノロ運転を含め、わずかでも車を進行させていたらアウト

「注視」の立証責任は?

 男性の場合、(6)に当たるか否かが争われた。通話使用の事実については、携帯電話会社が発行する通話明細や通話アプリの発着信履歴などで客観的に否定されるので、争点は画像注視の有無に絞られた。

 この点、規制の対象となる「注視」とは何秒以上にわたって見続けることなのか、法令には明確な規定がない。しかし、少なくともスマホの画面を見ていたという事実については、摘発する側が具体的に証明しなければならない。

 今回のケースの場合、男性はスマホを右手に持って運転していた事実と、そのスマホの画面が点灯していた事実は認めているものの、画面を見ていた事実については否定している。

 これに対し、男性を摘発した警察官は、男性が画面を見ていたことまでは確認していないと証言した。ドライブレコーダーの映像などがない以上、男性の違反行為を証明する客観的な証拠はないから、裁判所も男性に対する処分を取り消したというわけだ。(了)

【参考】

拙稿「2秒以上のながら運転はアウト…実は根拠が弱かった 一部の報道に誤りも

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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