「昨年のイベントでは、用意していた300個の販売商品が瞬く間に売り切れ、非常に慌てました。まさかそんなに売れるとは思っていなくて(笑)。急遽工場や近隣の店舗から約100個を取り寄せましたが、それもすぐに完売してしまいました。ですが、これほど多くのお客さまに商品を手に取ってもらえるようになったことは、大変嬉しい限りです」

そう「第45回善行公民館まつり」での思い出を振り返るのは、社会福祉法人藤沢育成会の就労支援事業所「みらい社」が運営するパン屋さん『パン工房あゔにーる』を担当する太田さん。

『パン工房あゔにーる』と言えば、2022年1月に記事にした「ボリューム良過ぎてあふれ気味のアップルパイ」が人気のお店。場所が“畑の中”なので、車がないと通うのは不便ですが、着実に販路を拡大。最近では市内を巡る移動販売車も見かけるようになりました。

「今年の秋も、さまざまなイベントへの出店を予定しています」と語る太田さん。さらに「1年がかりでようやく完成した新商品（2024年春より販売）も販売します！」と力強く宣言します。同店のイベント出店情報はのちほどご案内するとして…

まずは気になる新商品について、1年前から密着してきたプロジェクトの背景と、美味しさの秘密をご紹介します。

こちらがその新商品、「煎茶マドレーヌ」と「ほうじ茶マドレーヌ」（各種200円／消費期限5日間）。

一見するとどこにでもありそうな焼き菓子に見えますが、同商品には驚くべき“一流の秘密”がいくつも隠されています。時はさかのぼること、発売の約1年前。

「みらい社」を訪れたのは、日本茶専門店『茶来未（ちゃくみ）』の代表・佐々木健さん。極めて優れた技能を持ち、市民生活や産業の発展を支える技能者・技術者「藤沢マイスター」のおひとりで「名誉茶師」。

実は、「煎茶マドレーヌ」と「ほうじ茶マドレーヌ」に、『茶来未』が手掛けた茶葉を使用したいと申し出た「みらい社」。

これを受けた佐々木さんは、生産者の高齢化・後継者不足などの理由で「耕作放棄地」となった神奈川県松田町寄（やどろき）地域の茶園を再生させて育成した茶葉「丹沢大山茶」を、生地に練り込むことを提案します。

しかし、ここで大きな壁となったのは、お茶の風味を最大限に引き出すための小麦粉とバターの配分。

「まるでお茶そのものをたべているかのようなマドレーヌ」「ほかでは絶対に真似できないマドレーヌ」を目指すため、バターの量を抑え、小麦粉にはグレードの高い国産小麦「白金鶴」を使用。両者とも味と食感への強いこだわりから、納得のいくレベルにたどり着くのは困難を極め、来る日も来る日もグラム単位で変化をつけた試作と徹底した打ち合わせが繰り返されました。

最終段階では、佐々木さんと同じく「藤沢マイスター」のおひとりで、2020年秋に旭日双光章を受章した、藤沢市村岡東の老舗洋菓子店『シュテルン』のシェフ・渡部 昭さんに試食と評価を依頼。販売直前まで小麦粉やバターの微調整を重ね、口どけやべたつきを整えていきました。そして初顔合わせから約1年の時を経て、ようやく完成を迎えます。

そのお味は…

「煎茶マドレーヌ」は、甘みよりもまず煎茶の爽やかな風味が際立つように仕上げられた、まさに“煎茶が主役”のひと品。甘さを極限まで抑えているものの、苦みやえぐみは一切なく、非常に上品な味わい。一方で「ほうじ茶マドレーヌ」は、なんといっても豊かな香ばしさが魅力。ほうじ茶に含まれる成分（「ピラジン」）にはリラックス効果があるため、食べること自体が心も癒してくれるひと品です。

どちらも筆舌に尽くしがたいほど、茶葉の風味が活きた味わい。「まさかこれで200円？！」と食べた人を驚かせる、一流を詰め込んだ逸品です（本当に200円でいいのかしら…）。

持続可能なお茶産業の存続を目指す「丹沢大山茶」・就労支援事業所・藤沢マイスターがコラボするという新しい取り組みから生まれた、食べる人を楽しませ、社会に貢献する新たなスイーツ「煎茶マドレーヌ」と「ほうじ茶マドレーヌ」。

同商品について「『茶来未のお茶を使ったお菓子なら買ってみようかな！』とマドレーヌを購入し、リピートしてくださるお客さまも多くおられることに、やり甲斐を感じます」と喜びを語る太田さん。また佐々木さんは「とても思い入れの強い作品。大切にしていきたい商品ですね！」と話します。

ご紹介した商品は、『パン工房あゔにーる』の店頭販売に加え、関連事業所でもご購入いただけます（詳しくは記事末尾の基本情報をご確認ください）。なお、同店の直近のイベント出店については以下の通りです。

お店の最新情報を公式 Instagram（外部リンク）などで確認し、ぜひ一度お試しくださいませ。1個200円ですよ！