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メーガンさんの父が娘に連絡できない悲哀を吐露 -結婚後、「困った」家族をどうするか?

小林恭子ジャーナリスト
英テレビ番組「グッド・モーニング・ブリテン」に出演した時の父トーマスさん(写真:Shutterstock/アフロ)

 米国人女優のメーガン・マークルさんが、エリザベス英女王の孫にあたるヘンリー王子と結婚して2か月半が過ぎた。

 結婚前から、「なんだか危ないなあ・・・」と筆者が思っていたのはマークルさんの家族の行動だ。

 父親トーマスさんは、結婚式の直前、娘のために良かれと思って、パパラッチと示し合わせて自分の日常生活を紹介する写真を撮らせた。一見、「たまたま写真に撮られた」ようにも見えたが、あらかじめ準備していたことが発覚すると、「やらせ写真だ」として非難の嵐となり、式の出席を辞退せざるを得なくなった。トーマスさんの「イメージ向上」のために写真撮影を父に勧めたのはメーガンさんの異母姉妹だった(トーマスさんとメーガンさんの母親はすでに離婚している)。

 しかし、父親として娘の結婚式に出ないのはあまりにもつらいことである。メーガンさんがトーマスさんに出席するよう説得し、いったんは「出席する」としたトーマスさんだったが、直前になって心臓手術のために結局出席できなかった。式前後の様々な心労が災いしたのかもしれないが、「お騒がせ男」と言ってよいだろう。

 

結婚式の様子を伝える、英各紙 (撮影 筆者)
結婚式の様子を伝える、英各紙 (撮影 筆者)

 さて、結婚式が終わり、ヘンリー王子とメーガンさんは新たな人生のスタートを切った。

 しかし、父トーマスさんは黙っていられない。

 先月末、英国の日曜紙「メール・オン・サンデー」の長時間インタビューに応じ、娘と全く連絡が取れない状態であることを暴露したのである。

 「娘は私を完全に切ってしまいました。とても傷ついています」

 「娘にかけられる電話番号を持っていたんですが、『王室が娘を変えている』などと私が批判した後、使えなくなりました」

 「電話が不通になりました。もう娘と連絡できる番号がないんです」

 そして、こんなことまで言った。「私が死んだ方が娘にとってはいいのだと思います」。しかし、「和解を望んでいます。娘と話をしないままに死ぬのは嫌ですね」。

 ここまで言われたら、娘はどうしたらいいのだろう。

 さらにトーマスさんはこうも言っている。「メーガンや王室にはもう我慢がなりません。黙っていてほしいと思っているんですよね。いなくなればいい、と。でも、黙ってはいませんよ」

 「沈黙なんかしない。いらいらするのは、メーガンが自分は私よりも上だと思っていることですよ。私がいなければ、何でもない存在なのに。今のメーガン妃があるのは私がいたからなんだ。メーガンのすべてが、私が作ったようなものなんだ」。

 ヘンリー王子の母になる故ダイアナ妃(1997年、事故死)にもトーマスさんは言及する。もし現状を知ったら、ダイアナ妃は怒るだろう、と。

 身内がメディアに出て、家族の内情を吐露する・・・これは英王室にとって、ご法度だ。

 ただし、もちろん、故ダイアナ妃は夫であるチャールズ皇太子との不仲をBBCのテレビ番組「パノラマ」で暴露し、それ以降、皇太子とダイアナ妃の間でメディアを使った戦いが発生してゆくのだがー(2人は1996年8月末に離婚した)。前例がないわけではないのだが、それにしても、である。

 いくらメーガンさんが新しい家族・王室の一員としてがんばろうとしても、家族(の一部)が足を引っ張る…といった構図が見える。

 トーマスさんの行動は英王室から眉をひそめられるばかりか、多くの国民にとっても驚愕であり、決して好感は持たれないだろう。

 

 というのも、「米国からやってきた」、「黒人の血を引く女性」、「元女優」ということでメーガンさんは大人気だし、トーマスさんはそんなメーガンさんを批判していることになる。かつ、英メディアに出ることでトーマスさんが巨額の報酬を得るのは確かで、「お金儲けのために告白をしているのではないか」と思われても仕方ない部分がある。

 読者の皆さんも、ご経験があるだろう。結婚後、当人同士がいくら互いを気にいっていても、それぞれの家族同士が相手を嫌っていたり、衝突したりすることが。自分の家族や親せきが「見苦しい」振る舞いをしてしまうことも多々ある。当人たちにはどうしようもない。

 筆者自身、トーマスさんの行動は「ちょっとなあ」と思う。娘に連絡できないつらい心情は理解できるとしても、メディアを通じて訴えるというやり方はどうなのか。娘のことを考えるなら、どれほどつらくても表に出ないやり方でアプローチするべきではないか。娘よりも、自分の気持ちを優先する行動をしているように見えて仕方ない。

 ・・・とはいうものの、一定の同情も感じる。

 トーマスさんは英国の市民ではないし、娘が王室に嫁いだからと言って、沈黙を強いられる必要はない。言論の自由があるはずだ。どこかで自分の言いたいことを言わないと、病気になってしまう可能性もある。今回のインタビューがたとえみっともないものであったとしても、少なくともトーマスさんの声は娘に届いたはずだ(気持ちを傷つけただろうが)。今、メーガンさんを慰め、彼女の相談相手になっているのが、ヘンリー王子の兄にあたるウィリアム王子の妻キャサリン妃だというが、本当だろうか。2人はともに「一般人」で王室に嫁ぎ、年も36歳同士である。

 一番の責任は英王室にあるように思う。誰か父トーマスさんをケアする人はいないのだろうか?

 一抹の憐れみを感じさせるトーマスさんの姿だ。

 そろそろ、メーガンさんが米国に「里帰り」をして(トーマスさんはメキシコに住んでいるそうだけれども)、2人がお互いの気持ちを十分に話す機会を持ち、心を通い合わせることができるようにと筆者は強く願っている。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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