泣いても笑っても今夜決着! 女子サッカー日朝決戦を「10倍楽しむ」ための北朝鮮の戦力分析
泣いても笑ってもパリ五輪出場権をかけた日本対北朝鮮の女子サッカーアジア最終予選は今夜で決着が付く。勝った方がパリ行きの切符を手にする。
第2次予選ではグループCの日本はインド(7-0)、ウズベキスタン(2-0)、ベトナム(2-0)を相手に完勝し、決勝進出を決めている。一方、グループBの北朝鮮は韓国(0-0)、中国(2-1)、タイ(7-0)を相手に2勝1分けで決勝進出を果たしたが、総得点は9点と日本よりも2点少なく、失点(1)もしている。
過去の対戦成績では、北朝鮮が12勝6分け7敗とリードしているが、2015年以降の直近の6試合は日本が3勝1分け2敗と北朝鮮を上回っている。FIFA(国際サッカー連盟)のランキングも日本の8位に対して北朝鮮は一つ下の9位である。
また、国際試合には日本は五輪に5回出場し、2012年のロンドン五輪では準優勝をしている。W杯にも9回出場し、2011年のドイツW杯では優勝を飾っており、2015年カナダW杯では準優勝をしている。一方の北朝鮮の五輪の出場は2回でいずれも予選落ちしており、4回出場したW杯は2007年の中国W杯のベスト8が最高という具合に日本の方が国際経験も豊富で、成績も断然上回っている。
綜合的にみると、明らかに日本の方が実力は上で、負ける要素が見当たらない。しかし、24日にサウジアラビアのジッダで行われた第1戦は0-0で引き分けに終わった。
今夜の試合は利点のあるホームで行われる。それでも北朝鮮の監督は昨日の記者会見で「明日は3千人が応援してくれると聞き、アウェーではなく、ホームで試合を行うような気持ちで、同胞たちの気持ちまで合わせてベストを尽くしたい」と決意のほどを語っていた。
常識的に考えて、スタジアムの観客は北朝鮮を応援する朝鮮総連がいかに動員しようとも、数の上ではおそらく日本が圧倒するであろうが、応援合戦もまた、見所でもある。
ホームでやる以上、日本が勝ってしかるべきだが、第1戦をテレビ中継で見る限り、今夜の試合は正直、どちらに勝利の女神が微笑むかはわからない。
おそらく、スタジアムの観客、サポーター、そしてテレビの前の国民ははらはらどきどきしながら、時に歓声を上げ、時に溜息をつき、あるいは手に汗を握りながら見ることになるが、勝敗は別にしてこの試合を10倍楽しむには何よりも相手チームの戦力や日本にとって脅威になるかもしれない選手を事前に把握しておく必要がある。
日本の選手についてはサッカーファンならば、名前、顔を見ただけで直ぐにわかるが、北朝鮮の選手については白紙状態である。
北朝鮮の選手は総勢22人で、北朝鮮国内の5つの倶楽部から選抜されている。最強の「ネゴヒャン(我が故郷)女子蹴球団」(ネゴヒャン)と人民軍の「4.25体育団」(4.25)からそれぞれ8人、「鴨緑江体育団」(鴨緑江)から3人、「平壌体育団」(平壌)から2人、そして「小白水体育団」(小白水)から1人選ばれている。
北朝鮮には「鯉明水体育団」「海鷗体育団」「月尾島FCMF」「大同江チーム」をはじめ国防省、鉄道相など行政や青年団体など組織から成る様々な倶楽部があるが、上記5つの倶楽部は全国大会で常に優勝を競っている強豪チームである。
監督はアジア大会の時と同じ、39歳のリ・ユイル。
1966年イングランドW杯でアジア勢初のベスト8入りした北朝鮮代表チームのGKを父に持つ李監督は「サッカーで世界を制せよ」のスローガンの下、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の肝いりで2013年に設立された平壌国際サッカー学校での教員歴があり、22年1月から朝鮮女子1部リーグに所属する「ネゴヒャン」の監督に就任し、この年の国内のすべてのスポーツ種目における10大最優秀監督に選出された、指導力に長けた監督である。
エントリーしている北朝鮮のFWは全部で10人いる。
サウジアラビアでの第1戦では「ネゴヒャン」の3番のリ・グムヒャン(22歳)、「鴨緑江」の14番のホン・ソンオク(20歳)、「4.25」の15番のウィ・ジョンシム(26歳)、「ネゴヒャン」の17番のキム・ギョンヨン(22歳)の4人がスタメン出場し、「平壌」の7番のスン・ヒャンシン(24歳)と「4.25」の10番のリ・ハク(21歳)が途中出場した。
先発出場した4人の中で日本が最も警戒すべき選手は第1戦でクロスバーに当たったヘディングシュートが印象的だった17番のキム・ギョンヨンであろう。「ネゴヒャン」のエースストライカーとして知られ、昨年のアジア大会では12ゴールを決め、大会の得点王に輝いていた。また、1対4で敗れた日本との決勝戦では前半に同点ゴールを決めてもいた。パリ五輪2次アジア予選でのタイとの試合はハットトリックを演じ、まさに北朝鮮きってのスコアラーである。
もう一人は、2次予選で主将を務め、2-1で勝った対中国戦で先制ゴールを決めた「平壌」のエースストライカーである7番のスン・ヒャンシンであろう。小柄だが、頑丈で臨機応変に動き回ることができ、かつスピードを生かした突破力は突出しており、北朝鮮が優勝した2017年に千葉で行われたEAFFE―1サッカー選手権大会出場経験もある。
それと高さを生かした空中戦や競り合いに強い3番のリ・グムヒャン(22歳)も要注意である。
この3人以外にもアジア大会で4得点を挙げた10番のリ・ハクと第1戦には出場しなかったが、対中国戦で決勝点を叩き出した「4.25」の11番のハン・ジンホンまた、第1戦に途中出場した「ネゴヒャン」の22番のキム・ヘヨン(22歳)も侮れない。
MFは第1戦で先発出場し、強烈なミドルシュートを放った「4.25」の6番のミョン・ユジョン(20歳)、同じく「4.25」の9番のチュ・ヒョシム(25歳)、それに「ネゴヒャン」の12番のチェ・グモク(22歳)の3人の他に「ネゴヒャン」の8番のリ・スジョン(21歳)の合わせて4人。9番のチュ・ヒョシムは第2次予選のタイ戦では1得点を挙げている。
DFは第1戦に先発出場した「ネゴヒャン」の2番のリ・ミョングム(21歳)、「鴨緑江」の16番のパク・シンジョン(26歳)、同じく「鴨緑江」の20番のリ・ヘギョン(24歳)の3人の他に「ネゴヒャン」の4番のポン・ソンエ(22歳)と「平壌」の5番のソン・チュンシム(21歳)がエントリーしている。
GKは「ネゴヒャン」の1番のパク・ジュミ(20歳)。第1戦に先発出場し、ゴールかと思えた日本のシュートを左足踵一本で防いだことが日本のサポーターの中には印象深く残っている。ベンチには「4.25」の21番のキム・ジョンスン(20歳)と「小白水」の18番のユ・ソングム(20歳)が控えている。
今夜の試合は北朝鮮の国民も注目しているはずだ。国営メディアの「朝鮮中央通信」だけでなく、国民の目に触れる党機関紙の「労働新聞」も意外にも26日にサウジで行われた日本戦が0対0で終わったことだけでなく、次回の試合が28日に日本で行われることを予告し、「2試合の結果、総合成績が高いチームがオリンピック競技大会の参加資格を獲得する」と報じていたからだ。
仮に北朝鮮が日本に負けた場合、試合結果を伝えるのかどうかも番外として興味深い。ちなみにアジア大会での決勝戦の結果は伝えることはなかった。北朝鮮が1対4で惨敗したからだ。