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日本サッカーの浮沈を担う19歳MF。リオ五輪出場に挑む。

小宮良之スポーツライター・小説家
Uー22代表として戦う新鋭MF、鎌田大地。(写真:長田洋平/アフロスポーツ)

来年1月に行われるリオ五輪サッカー・アジア最終予選。日本はグループBでサウジアラビア、北朝鮮、タイと同じ組に入っている。上位2位チームが次のラウンドに勝ち上がり、2試合を勝ち抜いた上位3チームまでが本大会へ出場する。

実は、このリオ世代の選手の台頭がかつてなく乏しい。

「96年アトランタ五輪以来続いている予選突破に黄信号が灯った」とさえ危惧される。今週から行われている中東遠征でも、Uー22イエメンにスコアレスドローだった。不安はまったく払拭されていない。

そのリオ世代でキーマンとなるのは、サガン鳥栖の19歳MF鎌田大地だろう。才能に疑いの余地はない。一瞬で試合の流れを変えられるプレーセンスを持っている。Uー22代表選出はむしろ遅すぎた。

ただ、楽観視もできない。今年のリーグデビュー当時よりもプレーは鈍っており、思い通り動かない周りに苛立ちのような空気を漂わせ、それが才能を空転させつつある。十代の天才肌選手が経験する焦燥の一つだが、彼自身の判断やプレー選択が独りよがりになった場合、自らの首を絞めることになる。

日本サッカーの至宝と言える鎌田は、進化・飛躍の分岐点にさしかかっている。

世界最高のミッドフィールダーの境地

世界最高のミッドフィールダーは誰か?

そうした議論は不毛と言わずとも、ほとんど答えは出ないものだが、アンドレス・イニエスタとルカ・モドリッチの二人は傑出した存在だろう。

二人はフットボールを体得しているというのか、常に正しい答えを持つ。自分と味方が浮遊するスペースと時間、そしてボールという点と線において、鳥瞰型の視界を使える。効果的プレーになるタイミングを誰よりも速く感じ取り、明晰なポジショニングでパスを引き出し、的確に弾き、鋭くドリブルし、剛直にシュートを放つ。まさに融通無碍。考え方や行動にとらわれるところがなく、自由である。

二人の能力が浮き彫りになるのは、敵ゴールから遠くなる三列目と近くなる二列目を行き来するインサイドハーフでプレーしたときかもしれない。インサイドハーフは中盤の逆三角形の頂点の前で、FWとMFをつなぐようにプレーするポジションを指す。プレーするポイントが絶え間なく変わるだけに、難解さを究める。中盤で枚数をかけてくるチームを相手には数的不利で戦わざるを得ない。

しかし機略に優れるイニエスタとモドリッチは、サイドアタッカーやサイドバックと連係し、その人数的不利を逆転できる。集団との協調力。結局のところ、フットボールは生かし、生かされなければ成立しないということか。

鎌田は、この二人と同じく"時間を操れる"選手ではある。しかし焦燥に取り込まれると、その判断が途端に鈍る。それは若さ、未熟さとも言い換えられる。いくら技術スペックが高くても、時間空間認識で誤りがあるとプレーに不具合が生じるのだ。

例えば天皇杯の対コンサドーレ札幌戦、鎌田は前半途中まで右ボランチ、その後は左インサイドハーフとしてプレーしている。彼はどちらのポジションにも適応することができなかった。ボランチもインサイドハーフも、課された役目は自らの一発のパスやドリブルで持ち込んで守備網を切り裂くことではない。"プレーを動かし、創る"というのが仕事であり、周りを使い、生かすべきである。

鎌田はFWに近いトップ下でプレーする場合、凡人には見えないパスコースを見つけ出し、作り出し、そこにパスを送れる。しかし所属する鳥栖ではエースFWの豊田陽平が故障で離脱して以来、パートナーを失ったように、トップ下としては攻めあぐねることが多くなった。自分のビジョンと周りの動き出しや位置取りにズレが出たのだろう。

そこでボランチでも起用される機会が増えたが、トップ下と同じゴールのビジョンを描いていた。しかしゴールから遠いだけにその映像が結べず、ビジョンを修正している内に強いプレスを浴びた。ボランチはプレッシャーがトップ下よりも弱いためボールを持てるが、より速くボールを叩かなければプレーは淀んでしまう。インサイドハーフとしてはより未熟さをさらけ出している。札幌戦は敵のいない左サイドに逃げるだけ、有益なプレーがなにひとつできなかった。

抜群の知性が彼の異能である。それによって、彼は世界に羽ばたける可能性を持っている。しかしわずかに判断が狂うだけで、平凡な選手に成り下がってしまう。

「決定的なパスを出したい」

そう語る鎌田本人にはパサーとしての思いが強いという。しかし高いレベルでプレーしたいなら、なにかに執着するべきではない。執着は凡庸さを生み、相手にプレーを読まれてしまう。やがては味方もそれに辟易する。ボールが求めるプレーを聞き、自由に行動できるか――。

融通無碍。

鎌田はイニエスタやモドリッチのような境地に近づける可能性を持っている。

今までユース年代の代表歴もなかった青年はほぼ無名選手だっただけに、周囲の注目度の変化に対して戸惑いがあるのだろう。慢心ではないにしても、いくらか驕りが見え、それが迷いにつながっている。エゴはプロスポーツ選手に必要な要素だが、取り込みすぎると毒になってしまう。一流選手の条件は、世の中の関心に堪えられる精神と肉体を持つことである。

鎌田にとって、注目が集まるリオ五輪予選は一つのターニングポイントになるだろう。

そしておそらくは、日本サッカーにとっても大きな分かれ道となる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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