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「お世話になっております」はもう不要。ビジネスはメッセンジャーで進化していく

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
メッセンジャーだと通常の会話のようにやりとりがどんどん進む(写真:アフロ)

日本とアメリカのメールの違い

日常的に東京- ニューヨーク間で仕事のやりとりをすることが多いが、そのほとんどがメールで行われる。メールを開くとその多くが、冒頭の常套句「お世話になっております」から始まっている。

「お世話になっております。~社の~でございます。」から始まる文面は、最初の数回のやりとりは丁寧な姿勢で良い印象を与える。しかし、往復のやりとりが何度も繰り返されているのに最後の最後まで「お世話になっております。~社の~でございます。」の応酬が続くと、型にはまった窮屈さや堅苦しさ、また緩慢な印象は拭えない。

おそらく日本に住んでいるとそこまで気にならないのかもしれないが、アメリカ人とのメールのやりとりが日常化していると、その特異性がつい気になってしまう。

アメリカ人とのやりとりで、「お世話になっております。~社の~でございます。」の連続使用はまず見ない。英語でのメールでも、例えば「Dear(名前)」や「Hi(名前)」から始まり、「How are you? Hope all is well.」(お元気ですか? すべてのことがうまくいっていますように)や「I hope this email finds you well. My name is ~~」(お元気のことと思います。私の名前は~)というように、ある程度の決まり文句は存在する。しかし文面は十人十色。そして一往復後からのやりとりは「Hi (名前)」に始まり、メール内容に対しての返答が続くのが自然である。例えば「Thank you for your email.」(メールをありがとう)や「Thanks for reaching out.」(連絡してくれてありがとう)など。

メールの往復が重なれば、2~3回目から「~様」にあたる「Dear(名前)」や「Hi(名前)」を省略することも。相手の名前でさえも省略して、いきなり返答や要件から文面が始まるなんてこともざら。カジュアルさや合理性を重んじるアメリカ人らしく、この本題から入る書き方は、相手に対して何ら失礼ではない。

(注:ビジネスの形態によっては、硬めの文面や顧客の名前を省略しないこともある。また同一人物とのメールのやりとりで別のトピックスになると、再度「Dear(名前)」や「Hi(名前)」とされる傾向にある)。

このアメリカ的なメールのやりとりは単刀直入でスピーディー、実に生産的で効率的だと思う。物事や問題がスムースに進展しやすく、ビジネスをする上ではありがたい。アメリカ人とのメールは、まるでメッセージングのようなやりとりなのだ。

北米、アジアでメッセンジャーが好意的

メッセージングといえば、つい先日サンフランシスコに本社を置くクラウド通信企業、Twilioが最新の調査内容(編注1*)を発表。9割の消費者がインスタント・メッセンジャーを使って企業とやりとりしたいと考えていることがわかった。

(編注1*)

9月12日、Twilioによって発表された調査結果

この調査はアメリカのみならず、ヨーロッパ、アジアを含めた6000人を対象に行ったものらしい。興味深いのは、アメリカほか、韓国、インド、シンガポールで全体の30%以上がメッセンジャー派と、ほかのツール(メールや電話、対面など)よりメッセージングに人気があるのに対し、日本はメッセンジャー派が18%、メールが53%と圧倒的にメールが好まれている点だ(メールを好む国は、ほかにイギリス、ドイツも含まれる)。

現実的にはアメリカの企業でさえもその多くが、まだメッセンジャーをカスタマーサービスやビジネス上のコミュニケーションツールとして導入する準備ができていないようだが、こういった消費者からの要望は、今後世界中でビジネスのコミュニケーション・ツールに変革を与える一つのきっかけになるのかもしれない。

ニューヨークでのメッセンジャー率

私自身アメリカでビジネスをする上で、やりとりはまだメールが主流だ。メールで連絡が取れない、埒が明かない、先方が電話を好むなどの場合だけ電話をかける。しかし近年メッセージングの台頭が目覚ましくなってきたという実感はある。ニューヨークで働いて約10年になるが、ビジネス上でのメッセージングの存在を感じたのは2011年以降だったと記憶する。メッセージングの相手は普段からやりとりするクリエイター同士で、SNSのメッセンジャーを使ってチャットのように会話がなされ、要件がどんどん片付いていった。

私が今年3月まで籍を置いていた在米IT企業では業務用チャットツールを開発していたので、社内スタッフ同士のやりとりは基本的に自社チャットツールを通して行われていた。画像や書類などのファイルは即共有できるし、絵文字を使ってエモーショナルな表現も簡単にできる。また「了解しました」を「いいね!」ボタンで表現することも。社内でのチャットは実に便利だった。メールは主に社外の人とのコミュニケーション時のみ使用。そもそも会社に固定電話というものが存在しないのは、働き始めた際のちょっとしたカルチャーショックだったものだ。

ビジネスの場でのメッセージング(業務用チャット)の存在はほかにも感じる。つい最近も、世界25ヵ国でリリースされている雑誌『VICE (ヴァイスマガジン)』のブルックリン本社を訪れた際、会社の受付がスタッフにゲストの来訪を伝えるツールとして、すべてインスタントメッセンジャーを使っていることに気がついた。このおかげで、時差があるにも関わらず、ロンドンにいたスタッフとも瞬時にやりとりすることができたのだ。また、ウェブメディア『BuzzFeed』でも同様に、会社の受付とスタッフとのやりとりはインスタントメッセンジャーが使われていた。

日本で業務用チャットが浸透したらどうなる?

メッセージングの主な利点は、すぐさま内容が通知され確認できることだ。前述のVICEマガジンの在ロンドンスタッフとニューヨークにいながら瞬時にやりとりできたのはそのお陰。しかし欠点としては、確認できない(したくない)時間帯や場所でもPCやスマホにメッセージが届いてしまう。

もちろん通知設定をオフにしておけば、メッセージに翻弄されることもない。ただし、退社後や週末などの勤務時間外でも上司からの連絡を無視することができないという真面目な性格の人(注:アメリカ人にはこのタイプはほぼいないが)にとっては、メッセージングはあまり歓迎されるものではないかもしれない。今後世界中のビジネスシーンで、インスタント・メッセンジャーがどのように浸透していくのか興味深い。

(Text by Kasumi Abe)  無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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