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リトル・ダンサーの奇跡に涙する「ビリー・エリオット」が待望の日本お披露目!

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ビリー・エリオット ミュージカルライブ/リトル・ダンサー

ついに、ついに、この名作を日本で観てもらえるチャンスがやって来た…。

この秋から冬にかけても、「SINGIN’ IN THE RAIN〜雨に唄えば〜」や「Once ダブリンの街角で」と話題のミュージカルが続けざまに上演。ロンドンのウエストエンドや、NYのブロードウェイを賑わせた作品の多くが、こうして来日公演を果たし、あるいは劇団四季など日本のプロダクションで上演され、日本のミュージカル・ファンを喜ばせているなか、いまだに日本では観る機会が訪れていない名作が存在する。「ビリー・エリオット」だ。このタイトルを聞けば、映画ファンならピンとくると思うが、『リトル・ダンサー』の主人公の名前(映画も原題は『ビリー・エリオット』)。イングランド北東部の炭鉱町で、踊る喜びにめざめたビリー少年が、さまざまな葛藤や苦闘にぶつかりつつ、ダンサーへの夢をつかもうとする。日本では2001年1月に公開され、忘れがたい作品になった人も多いはず…。

「踊る」ことが、そのまま舞台に生かされる

ボクシングを習っていたビリーは、たまたま居合わせたバレエのレッスンに夢中になり…
ボクシングを習っていたビリーは、たまたま居合わせたバレエのレッスンに夢中になり…

2005年5月にロンドンのヴィクトリア・パレス・シアターで始まった「ビリー・エリオット」の上演は、現在、10年目に突入。今やロンドン観光の目玉にもなっている。ブロードウェイ版はトニー賞のミュージカル作品賞も受賞。これほどの人気ミュージカルなので、日本でも何度か上演の噂があったが、残念ながら実現していない。主人公が少年であるゆえ、キャスティングの難しさもあるのだろうか? 子供たちを招いての来日公演は難しいのだろうか? いずれにしても、ここ数年、量産化される「映画からの舞台化(『雨に唄えば』や『Once』もそのパターン)」として、これほど最高の題材はない。主人公にとって重要な「ダンス」が、ミュージカルの材料としてそのまま生きるのだから!

そんな「ビリー・エリオット」を日本でもようやく観るチャンスが巡ってきたのだから、ミュージカル・ファン、そして『リトル・ダンサー』を愛する人には、今回の機会を絶対に逃してほしくない。生の舞台ではない、映画館でのライヴ・ヴューイングだけれど、作品の神髄は存分に伝わってくるからだ。

まず特筆すべきは、エルトン・ジョンの音楽。冒頭、炭鉱町の人々が歌う「The Stars Look Down」で、一気に世界に引き込まれる。スコットランド民謡を意識した、どこか哀愁が漂い、それでいて懐かしさを感じさせるメロディは、いま放映中のNHK朝ドラ「マッサン」の主題歌「麦の唄」にも似ている。中島みゆきも、おそらくスコットランド民謡を意識して作曲したのだろう。エルトンの音楽は、物語のキーになる「白鳥の湖」の名フレーズも挟みながら、クライマックスでビリーが歌って踊る、本作でも最大の感動場面となる「Electricity」まで、物語に寄り添った歌詞に合わせ、耳に残るメロディとなって舞台に降り注いでいく。

一日限定のスペシャルな演出も!

エリオット・ハンナは10歳でビリー役に抜擢。これは同作でも最年少
エリオット・ハンナは10歳でビリー役に抜擢。これは同作でも最年少

そしてもちろん、『ビリー・エリオット』で究極の見どころといえば、ビリー役の少年である。今回の映像でその役を務めるのは、現在11才のエリオット・ハンナ。この作品が挑戦的なのは、ビリー役がほとんどの場面に出ずっぱりの演出がなされたことで、全身で表現するビリーの感情と高難度のダンスには、正直、超人的なレベルが要求される。11歳には高すぎるハードルであり、時々肩で息をしながらの健気な熱演は、涙なくしては観られません! 奇跡的な瞬間の数々は、スクリーン用に編集された間近なショットによって、生の舞台以上に体感できるかもしれない。ライヴ・ヴューイングの魅力が、11歳の少年の信じがたい才能を、より鮮明に証明する。

初演時のビリー役、リアム・ムーア(手前)。その成長した姿が観られる
初演時のビリー役、リアム・ムーア(手前)。その成長した姿が観られる

やがて無上の感動が訪れる時がやってくる。成長したビリーが登場するシーンだ。映画『リトル・ダンサー』では、アダム・クーパー(偶然にも『雨に唄えば〜』来日公演にも出演中!)がラストで演じて話題になったが、この舞台版では別の演出になっている。「舞台」という特殊な環境を効果的に使った、あまりに美しく、あまりにドラマチックなこのシーン…。今回の劇場版では、さらなるサプライズが仕掛けられた。成長したビリーを演じ、踊るのが、2005年の初演でビリーを演じた3人のひとり、リアム・ムーアなのだ! 現在22歳のリアムと、11歳のエリオット・ハンナ。時を超えて出会う2人のビリーの共演は、想像の枠を超えたカタルシス! これぞ、舞台の醍醐味! さらにオリジナル版のキャスト3人を含め、これまでビリーを演じた27人が集まってのカーテンコールまで、アドレナリンは上がりっぱなし。この日、一日のセレブレーションも、今回の劇場版だけのスペシャルなのだ。

圧巻&感動の同窓会。中央は映画版から監督を務めるスティーヴン・ダルドリー
圧巻&感動の同窓会。中央は映画版から監督を務めるスティーヴン・ダルドリー

映画の魂を受け継ぎ、新たな感動へ

ライヴ・ヴビューイングの欠点は、観客として自由に観たい細部やアングルが無視されることで、たしかに今回の劇場版でも、カメラの位置のせいか、ある重要な演出が収められていない。しかしそんな欠点は些細な部分。映画『リトル・ダンサー』の精神やテーマが、しっかりと刻印された舞台版の完成度の高さに、深く、深く感銘を受けるはずだ。そのテーマとは…

他人と違った生き方を選んでもいい。その潔さと勇気のすばらしさ

自分たちの希望を、次世代に託す、人としての本能

そして何より、ありきたりだけど

家族、友人との絆

歌を聴いて、ダンスに酔い、ひとときの夢の時間に浸るのがミュージカルだが、この「ビリー・エリオット」は、そこからさらに一段階、別次元に連れていってくれる。まさしく傑作のひとつだと、全身全霊で断言したい。

ビリー・エリオット ミュージカルライブ/リトル・ダンサー

TOHOシネマズ 日劇(12月5日(金)~12月11日(木))ほか順次ロードショー!

(C) 2014 UNIVERSAL CITY STUDIOS LLC.ALL RIGHTS RESERVED.BILLY ELLIOT THE MUSICAL IS BASED ON THE UNIVERSAL PICTURES/ STUDIO CANAL FILM

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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