ウーバーめぐり反対派・ロンドン市長と賛成派・ニューヨーク前市長が大激論
「ウーバーのアプリは料金メーターでない」との判決
ロンドン名物の真っ黒なタクシー「ブラックキャブ」がピンチに立たされている。ロンドンの高等法院は16日、米配車アプリケーション大手、ウーバー・テクノロジーズのアプリは、英国の法律でブラックキャブにしか認められていない料金メーターとは認められず、合法との判決を言い渡した。
世界中で急速に広がっているウーバーのアプリで配車をリクエストすると、数分で車がやってくる。事前予約も、タクシー乗り場で待つ必要もない。アプリ上で目的地までの見積もり料金を確認できる。ウーバーの配車アプリは便利な上、待ち時間も少なく、料金もブラックキャブに比べると安い。
ウーバーの配車サービスに登録するハイヤー免許を持つ運転手はロンドンだけでこの3年の間にゼロから2万人に増え、利用者も100万人に達した。しかし、1998年に制定された英国の法律では料金メーターの使用は流し営業ができるブラックキャブにしか認められていない。
ウーバーに登録したミニキャブ(ハイヤー)は事実上、流しのブラックキャブと同じように営業できるため、業界団体の認可タクシー運転手協会(LTDA)などが反発、ウーバーのアプリは料金メーターに当たり、違法と主張。利害関係者が裁判所に判断を求めていた。
裁判官は判決の中で「ブラックキャブの料金メーターは、走行中に全地球測位システム(GPS)の信号を受け取ったり、車外のサーバーにGPSのデータを送ったりして、距離や時間に基いて料金を計算する装置ではない」と認定。ウーバーのアプリは料金メーターには当たらないと結論づけた。業界団体は上訴する。
ウーバーを野放しにしない
ロンドン交通局は判決を受け、「破壊的な技術と新しいビジネスモデルはタクシーとハイヤーの運営と利用者の選択肢を劇的に変えてしまった。歓迎すべきことだが、規制当局としては顧客サービスの水準が満たされることを保証しなければならない」と述べ、ウーバーの配車を野放しにはしない方針を強調している。
保守党のボリス・ジョンソン・ロンドン市長はブラックキャブ擁護派だ。米ニューヨーク市のマイケル・ブルームバーグ前市長も参加したロンドンでの会議で持論を展開した。
「ブラックキャブ(タクシー)とミニキャブ(ハイヤー)の根本的な区別は技術によってなくなった。ブラックキャブの運転手はロンドンの名所や通りを覚えるため時間を費やし、多大な出費で特別な車を持ったのに(ウーバーのアプリを持ったハイヤー運転手と同じ扱いを受けるのは)不公平だ。彼らだけが流しで客を拾えるようにすべきだ」
ブラックキャブの免許を取るために運転手はロンドンにある主要320ルートと、2万5千の通り、美術館や観光名所、レストラン、大学、大使館などのランドマーク2万カ所を覚えなければならない。「ノレッジ」と呼ばれる試験をパスするのに2~4年はかかる。
さらに費用は筆記試験が200ポンド、実技試験が400ポンド、「ノレッジ・スクール」と呼ばれる教習所に通うとさらにかかる。雲助運転手を締め出し、ビジネスマンや観光客に不快な思いをさせないという国際都市ロンドンの心遣いがブラックキャブには込められている。運転手に行き先を告げれば、確実に到着する。遠回りすることはまずない。混雑していれば抜け道を走り抜けていく。まさにプロの技である。
ハイヤーの運転手にこんな試験はない。ロンドンでは今のところウーバーのアプリで営業しているのはハイヤー免許を持つ運転手だが、ウーバーは世界中で一般のドライバーがマイカーで空き時間に利用者を同乗させる「ライドシェアリング」を拡大させており、ブラックキャブの運転手は戦々恐々だ。
難しいブラックキャブの試験を避ける動きがすでに出ている。ロンドン交通局によると、「ノレッジ」の訓練を受ける人が、ウーバーの配車サービスがロンドンで始まった2012年の3326人から昨年は2159人に減ってしまった。
ロンドンは規制へ
ジョンソン市長は続ける。
「問題はブラックキャブの運転手を助けるために、どのようにバランスを取るかだ。技術がそこにあることを考慮しなければならない。時代は変わった。利用者はウーバーを求めている。ロンドンには100万人以上のウーバー利用者がいる」
「清教徒革命を指導したオリバー・クロムウェル(1599~1658年)の時代からブラック・ハックニー・キャリエッジ・トレード(ブラックキャブの始まり。当時は馬車)は国によって規制され、統治されてきた。もし今、国家がそれを行うのなら、変化をマネージすることを考えるのは義務だ」
ジョンソン市長はこれまでにウーバーの配車アプリを使うハイヤー運転手に「ノレッジ」試験の簡易版と英語試験を課す考えを示している。ロンドンのミニキャブは2010年の5万9千台から8万8950台に増えており、今後2年間で12万8千台に達する見通しだ。
ロンドンでは中心部の特定エリアに車を乗り入れると渋滞税(コンジェスチョン・チャージ)が課せられる。渋滞と排気ガスを規制するためだ。ウーバーがロンドンに進出してから渋滞税の課金エリアを走るミニキャブが激増している。
ロンドン交通局はウーバーの配車サービスが拡大するのを抑えるため(1)利用者が乗車する5分以上前に予約を確認する(2)ウーバーのアプリ上で近くの車を表示する仕組みを止める(3)ライドシェアリングを制限する(4)ハイヤーの運転手はハイヤー会社とウーバーの配車のいずれかしか受けられないようにする(5)1週間前の予約を勧める――などの対策を検討している。
ウーバーの利便性を制限するのが狙いだ。
ニューヨークは利用者優先
ニューヨーク市では今年3月、ウーバーの配車サービスがイエローキャブ(タクシー)を上回った。ブルームバーグ前市長は「ウーバーは利用者の需要に応えただけだ。タクシーやハイヤーに取って代わるかもしれない。タクシー業界は市場の圧力と利用者の利益をめぐる競争に門戸を開くべきだ」とロンドン市長の規制論に異を唱えた。
「ウーバーの技術は運転手にも利益をもたらすだろう。利用者がアプリのボタンを押したとき、近くにいる運転手は良い客と悪い客の中から良い客を選ぶことができる。カメラ用品メーカーのコダックを見てもわかるように、破壊的な技術の到来を避けられる産業など存在しない」
ウーバーはトラブル防止のため、ハイヤー運転手や一般のドライバーを登録する際、性犯罪や暴力の前歴を厳しくチェックしているという。ウーバーのトラビス・カラニック最高経営責任者(CEO)は「16年3月までにロンドンでのウーバーの配車サービスを4万2千台に拡大する」と息巻いている。ジョンソン市長とロンドン交通局が後押しする伝統のブラックキャブと、利用者に熱烈歓迎されるウーバーの熾烈な戦いの行方はいかに――。
ウーバー
2009年に誕生したウーバーはスマートフォンのアプリを使ってタクシーやハイヤーを配車する米国生まれのサービス。今年5月の時点で世界58カ国・地域、300都市でサービスを提供している。日本では13年に試験的にサービスを開始した。一般のドライバーが利用者を乗せるライドシェアリングは13年に米国で開始されたが、世界各地のタクシー運転手と摩擦を引き起こしている。
(おわり)