ワールドカップ開幕前夜 ブラジルが盛り上がらない複雑な事情
僕は今、ブラジルのレシフェにいる。サッカー日本代表のワールドカップ初戦、コートジボワール戦に参戦するためだ。このまま約1カ月、決勝戦までブラジルに滞在する予定だ。
様々な準備をするため、僕は6月3日にブラジルはサンパウロに入国した。この1週間、サンパウロの街を練り歩いてみたが、ワールドカップムードで盛り上がっているようにはさほど感じられなかった。
開幕戦が行われるアレーナ・デ・サンパウロに向かう大通りには、ワールドカップのペインティングがされた建物が立ち並んでいるし、街中にもブラジル国旗をたなびかせて走る車や、ワールドカップグッズを所狭しと並べる売店もある。しかしそれは表面的な事象に過ぎず、前回、前々回におけるドイツ、南アフリカで感じた熱狂的な盛り上がり方とは程遠く感じる。
その理由は明確で、教育や医療など公共インフラの整備をないがしろにして、ワールドカップへの投資に莫大な税金を使い続けるブラジル政府に対して、多くの国民が反対しているためだ。
実際に6月5日から9日までの5日間においてサンパウロのメトロのストライキがあった。そのあおりを僕はもろに喰らい、活動範囲が著しく狭まった。6月8日にサンパウロ近郊で行われた日本代表の公開練習会場では、規模は小さかったが初めてブラジル国民によるワールドカップ反対デモに遭遇した。
ブラジルに入国する前は「どうせ開幕が近づけば、サッカー王国の国民は皆浮かれてデモやストはやらなくなるだろう」という希望的観測を持っていたが、たった1週間の滞在でその両方を間近で見る結果となり、僕の期待は大きく裏切られた。
だがしかし、開幕前日にレシフェに移動するためにサンパウロのグアルーリョス空港を訪れると、世界中から集まった各国サポーターがそれぞれの代表ユニフォームを着て、見るからにウキウキした面持ちでターミナルを闊歩する姿が見て取れた。
何もワールドカップはホスト国だけのものではない。開催国であるブラジルが盛り上げるつもりがないのであれば、世界中から何十万人と訪れる残り31カ国のサポーターが主役となってワールドカップムードを作り上げればいい。空港の風景を見て、僕はそんな確信を得た。
多くのブラジル国民にとっての敵はあくまで「ブラジル政府」であって、僕ら外国人観光客ではないはずだ(過激なデモ隊ならば話は別だが)。僕ら参戦者が国民性を意識した衣装を身にまとい、ブラジルワールドカップを大いに盛り上げれば、この閉塞感漂うブラジル国内の雰囲気を打破することができると僕は信じている。
いよいよワールドカップ開幕前夜。4年に1度のワールドカップが始まろうとしている。僕ら現地参戦するサポーターは人それぞれ、4年間の想いを胸にこの地にやってきた。ブラジル国内の事情は非常に複雑だが、デモやストの情報にアンテナを張りつつ、僕らは僕らで思う存分「世紀の祭典」を楽しむつもりだ。