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『ちむどんどん』の仲間由紀恵。40代、美人女優から「お母ちゃん」役への壁を乗り越えた資質

斉藤貴志芸能ライター/編集者
公式ホームページより

いよいよクライマックスに入る朝ドラ『ちむどんどん』。何かと物議を醸してきたこの作品の中で、黒島結菜が演じるヒロインら4兄妹の母親役を務めているのが仲間由紀恵。年齢を重ねても美人ぶりが際立つ女優は、生活感のある母親役に馴染まないことが多いが、仲間は見事にハマった。

きれい系のまま生活感を醸し出す難しさ

 柴咲コウが12月公開の映画『Dr.コトー診療所』に出演している。ドラマ版の終了から16年、吉岡秀隆が演じる医師のコトーと結婚していて、妊娠中という設定だとか。現在41歳の柴咲だが、美貌はドラマの頃と変わらず、いまだこうしたヒロインがハマる。今年4月クールのドラマ『インビジブル』でも、犯罪コーディネイターの役を颯爽と演じていた。

 反面、柴咲が高校生くらいの子どもがいる母親役を演じるのはイメージし辛い。3年前に『坂の途中の家』で3歳の娘がいる役を好演したが、そちらにシフトするわけではなく、翌年の『35歳の少女』では心が10歳という役を演じた。

 若い頃から“かわいい”というより圧倒的にきれい系で、変わらない華があると、実年齢とは別に、子どもを育てて生活している母親感を醸し出すのは難しい。福山雅治が2013年公開の映画『そして父になる』でオファーを受けた際、当時43歳ながら当初「僕は父親には見えないのでは」と話していたそうだが、通じるところだろう。

 朝ドラでは、2015年の『まれ』で常盤貴子が当時43歳で、土屋太鳳の演じるヒロイン・まれの母親役だった。渡辺大知が演じたまれの同級生が、その母親に恋心を抱いているとの設定もあった。

 同級生の母親となれば、自分の母親とも同年代。そんな女性に恋するのは実際にはレアケースだが、劇中でのきれいな常盤を目のあたりにすると、年の差と関係なく納得できた。それはそれで得難い資質ではあるが、リアルな母親感はまた別ものだ。

 最近だと、現在43歳の矢田亜希子が『この初恋はフィクションです』で鈴鹿央士、『しもべえ』で白石聖の母親役だったが、やはりお母さんというより、きれいな女性との印象のほうが強かった。

子どもたちに掛ける言葉に溢れる愛情

 仲間由紀恵もそんな美人女優の系譜だ。高校生でデビューしたときから、整った顔立ちの美少女ぶりは評判で、メガネを掛けた脇役でのドラマ出演が続いた際は、「ヒロインが霞むから?」と思わせたほど。

 すぐに売れたわけではなかったが、2000年の『TRICK』、2002年の『ごくせん』と大ヒットしてシリーズ化に導いた。コミカルさも打ち出しつつ、その美貌は広く知れ渡ることに。そして、42歳になって出演した『ちむどんどん』では、美人女優からリアルな母親役への壁を易々と乗り越えた。

 演じている比嘉優子は穏やかで、名前通り優しいお母さんだ。高校時代の暢子が進路に悩み、就職内定先を辞退して「うちはこの村も、沖縄も、自分が女だということも全部大嫌い」と泣いたとき、「大嫌いな自分も大事な自分だからね」と肩を抱いたり。

 長女の良子(川口春奈)が結婚後に教師の仕事に復帰しようとして、夫の実家から「女は家庭に入れ」と許されなかったときも、「世界中の人が敵になっても、うちは良子の味方」と支えた。

 長男の賢秀(竜星涼)がウソの投資話やマルチ商法に手を出すたびに、「信じているから」と大金を渡したり、怪しげな健康食品を大量に買い取ったのは、さすがに行き過ぎの感があったが、子どもへの愛情を溢れさせていた。

オーラが影を潜め持ち前の大らかさとマッチ

 そんな優子は本当に“いそう”な母親に見える。美人オーラがいい意味で影を潜め、割烹着姿や農作業をしているのもハマっていた。よく子どもは友だちの母親を「おばさん」と呼び、優子も暢子たちの幼なじみの智(前田公輝)にそう呼ばれているが、村の共同売店で働いているところなどでも、“おばさん”ぶりに違和感がない。

 仲間は実際、4年前に双子の母親になったが、軽部真一と共に司会を務める『MUSIC FAIR』では毎週、変わらぬ美貌を見せている。そこに母親感はなく、『ちむどんどん』とは外見や佇まいがだいぶ違う感じがする。ドラマのおでこを出した髪形だと、ややふっくらして見えることもあるにせよ、役と同一化しているからだろうか。

 彼女自身が沖縄出身で、若い頃の取材でもよく「沖縄時間が染みついていて」と話していたが、根元に優子と同様、大らかなところはあるようだ。実際、仲間は売れてからも、あまりガツガツしたところを感じさせなかった。美しさに恵まれていたのが、たまたまかのように。そこが比嘉家を温かく守る“お母ちゃん”とマッチした。

 変わらぬ美人女優であり続けつつ、生活感のある母親も演じられる存在は、意外といない。そこをあっさりクリアした仲間由紀恵。これから年齢を重ねていく中で、令和の“日本のお母さん”的なポジションにまで行くのかもしれない。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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