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名人戦第2局、渡辺三冠の猛追を振り切った豊島名人の底力

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 19日に2日目が指し継がれた第78期名人戦七番勝負第2局は、豊島将之名人(30)が渡辺明三冠(36)に158手で勝利し、通算成績を1勝1敗とした。

 竜王・名人vs三冠という頂上決戦は、その名に相応しい大熱戦になった。

 渡辺三冠の積極的な攻めに豊島名人が反撃を決め、そのまま終局か、そんな声も聞かれていた。

 しかし終盤戦、渡辺三冠が猛追して逆転の目も出るほどの大接戦となった。

 最後は豊島名人が底力を発揮し、辛くも逃げ切った一局だった。

 本局の解説、そして七番勝負の今後を展望する。

 

意表の作戦選択

 先手番の渡辺三冠が採用したのは相掛かり戦法だった。

 前回、渡辺三冠が先手番で相掛かりを採用したのは半年以上前のこと。

 豊島名人も意表を突かれただろう。

 渡辺三冠は藤井聡太七段(17)との棋聖戦五番勝負も戦っており、ダブルタイトル戦となっている。

 そちらの戦いにおける作戦選択との兼ね合いで、七番勝負の前半で相掛かりをもってきたか。

 いま最も得意としている矢倉は、2つの番勝負の後半に温存しているのだろう。

 作戦家の豊島名人の意表を突く意味もあったとみる。

 ただ、本局では渡辺三冠の作戦選択がうまくいったとはいえない。

 序盤戦は主導権を握ったようにみえたが、豊島名人の自然な応対に成果が上がらなかった。

名人の底力

 中盤戦は豊島名人の攻めが急所をつき、主導権を奪い返した。

 形勢自体は互角に近い状態で推移したが、相手の馬を奪い、と金が活躍し始めて豊島名人がリードを拡大した。

 そして終盤戦、2枚の角が大活躍して豊島名人が相手の駒を次々に奪い、勝負は決まったかにみえた。

 しかしそこは渡辺三冠、決め手を与えずに食い下がる。

 豊島名人の攻め急ぎもあり、形勢は急接近した。

 双方一分将棋となり、もはやどちらが勝ってもおかしくない、二転三転の終盤戦になった。

 勝負を決めたのは、豊島名人の底力だった。

 攻めにいくか受けにまわるかの選択で常に受けを選択したのが秀逸だった。

 元々優勢だった側は、形勢が接近しても勝ちを求めて攻めを選択しがちだ。

 しかしそこを豊島名人はこらえた。

 最終盤で、攻めたくなるところをぐっとこらえて角を逃げた手(△1一角)。

 そして遊んでいた飛車を使って相手の攻め駒を責めた手(△4一飛)

 この2手が筆者の印象に残っている。

 結果的には△4一飛が勝ちを決める一着となった。

七番勝負の今後

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 名人戦は持ち時間が長いこともあり、先手番の勝率が高いことで知られる。

 互いに後手番を制する展開は、少し意外だ。

 両者とも作戦家だけに、後手番での対策がしっかりしているのが要因か。

 ここまでは2局とも豊島名人がリードして終盤に入り、渡辺三冠が追い込む展開だった。

 豊島名人としては逃げ切れない展開が続いているのだが、開幕が遅れて対局間隔が空いた影響もあるかもしれない。

 対局における勘が、やや戻っていない可能性がある。

 豊島名人は過密日程が続く。

 21日(日)には挑戦者として登場する叡王戦七番勝負(対永瀬拓矢叡王)が開幕する。

 23日(火)には王座戦挑戦者決定トーナメント(対糸谷哲郎八段)を戦う。

 そして25・26日に名人戦第3局が行われる。

 体調面での不安はあるものの、対局における勘は磨かれていくだろう。

 毎局スリリングな展開で頂上決戦にふさわしい戦いが続いている。

 第3局以降の戦いから目が離せない。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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