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農業スタートアップInfarmが日本から撤退したわけ~生き残るプロダクトの条件~

岩佐大輝起業家/サーファー
左:平石さん 右:岩佐 宮城県山元町のGRAイチゴワールドにて

都市型垂直農法を手掛けるInfarm(インファーム)元日本法人代表 平石郁生さん。日本撤退に至った要因、そこから学んだ成長していくために不可欠なビジネスのあり方について語り合ってきた。最後に、平石さんが見出す「本当に生き残るプロダクト」の条件とは何だろう。

岩佐)スタートアップへの投資額の話でいうと、バーティカルファーミングへの投資でよくある数十億の投資なんて、いわゆる製造業のビッグプレイヤーからすると豆粒みたいな金額なんでしょうね。しかも、中途半端にやっていたら、マーケットを作った途端にかっさらわれる可能性もあるような業界ですよね。 結局、スタートアップがプロダクトを作っていくうえで大切なことは何なのでしょう。

平石) 僕が思うのは結局、「あそこのやつね」って思われるブランドを作るしかない、ということです。そうじゃなければ、コスト競争力と営業力で、業務用に行くしかない。コンシューマーが認知できるようなハイエンドなブランドを作ることができるか、そのマーケティングが極めて重要です。製造業的なオペレーションも難しいし、ハイエンドなブランディングをするマーケティングも難しい。どちらも必要だし時間もかかる。極めて難易度が高いゲームだと思います。なので、今、グローバルで見たとき、いわゆるバーティカルファーミングと言われている LED/水耕栽培の会社は何百社とありますが、10年後に残っているのは多分10社程度だと思います。

岩佐)たしかにその両輪をどちらも極められる企業がどれだけいるかということですし、ましてや農作物をプロダクトとすれば、さらに難易度があがるのではないかと思います。例え、LED/水耕栽培で作ったという一つの特徴があったとしても、品種そのものには違いはなく、その差別化には苦労するものではないでしょうか。

平石)そうなります。例えば日本のレタスで言うと、株式会社スプレッドか株式会社ファームシップ。その2社の商品のいずれかが首都圏のメジャーなスーパーに入っており、どちらもLED/水耕栽培によって作られたレタスです。双方の品種や食感が多少違ったとしても、消費者が食べてわかるような違いではありません。そうすると、スプレッドとファームシップのレタスを両方店舗に置く意味は無いわけです。従って、サミットはファームシップのレタスを置いており、スプレッドのレタスは販売されていません。東急ストアはプライベートブランドのレタスを置いています。そこでポイントとなるのがここ。某スーパーでは、この間までスプレッドのレタスを売っていました。しかし、ある時から見掛けなくなりました。どうなったかと言うと、プライベートブランドを置くようになったのです。ナショナルブランドを取り扱いながら、それが店舗で売れると分かるとプライベートブランドを作る。こういうと失礼かもしれませんが、他社のブランドはテストマーケティングで、売れると分かったらプライベートブランドを作る。大手だから為せる術ですね。

岩佐)それをされると他社のブランドが育たなくなりますね。マーケットを取られてしまう。

平石)そうですね。LED/水耕栽培というのは、業務用に特化するなら別ですが、自社ブランドで販売するなら、製造業的な技術ノウハウ、生産ラインのオペレーションノウハウに加えて、ブランディングの能力が求められるということです。その3つができる会社はそうそう無いから、勝てる会社はせいぜい数社に限られてくると僕は思います。

これはどの業界であっても同じ。広くあまねく売りましょう、となればトヨタやフォルクスワーゲンになる必要があるし、極一部のニッチな人たちだけに売ることができればいいとなれば、 ポルシェみたいなポジションであり、もう少し裾野を広げるのであれば、アルファロメオみたいなブランド。だから、野菜に関してもどこのマーケットを狙うかで全然やり方が違ってきます。

岩佐) 確かにそう。それに、野菜というものをブランディングによって差別化できるまでの戦略を立てて実行できる人も限られますよね。そもそも、プロダクトに機能的な違いがないわけだから難しいですよね。

平石)難しい。でも、機能的な違いということでいえば、村上農園という会社のブロッコリースーパースプラウトを良い例として挙げることができます。村上農園は、このブロッコリースーパースプラウトで成長してきた会社で、首都圏では主要なスーパーには必ずと言っていいほど商品が置いてあります。このブロッコリースーパースプラウトは、抗がん作用を示すスルフォラファンという物質が有意に多く含まれていて、医学的にがんを予防する効果が認められているそうです。一時期テレビでも相当取り上げられていたと聞いています。

ここでもう1つポイントなのは、野菜である以上、露地栽培をしていれば天候の変化等で価格が上下するものを、村上農園は水耕栽培で作っているので、年間を通して同じコストで売れるという点です。だからどこのスーパーに行っても同じ価格。工業製品と同じなんです。村上農園は売り上げが100億円くらいの会社ですが、僕の推測では、ブロッコリースーパースプラウトだけで約60億円ぐらいの売り上げを上げていると思います。

岩佐)実力のあるプロダクトに集中特化している。まさに選択と集中ですね。

平石)そうです。本当に差別化できるものを作ることができれば、それだけで成長することができるということです。 さすがに 村上農園のようにここまで成長すれば、例え大手がプライベートブランドを作ったとしても消費者は「村上農園がいいでしょ」ってなりますからね。

岩佐)突き抜けたプロダクトで攻める、この業界での勝者ですよね。

岩佐)さて、最後に今後のフードテックマーケットに対して、平石さんが見据える展望を聞きたいです。

平石)マーケットとしては面白いと思います。インファームとしても、まだまだ色々な展開がありえる。まだ、終わったわけではありません!新たな事業戦略を練っていると聞いています。でも、普通にやっているだけではダメだということですよね。

僕がインファームをやりながら考えたのは、各市場毎に「勝てる商品(品種)」が異なるだろうということです。

葉物野菜は栽培がし易いですが、つまりは、付加価値が出し難いということでもあります。同じ葉物野菜でも「マイクログリーン(芽が出て間もない状態)」は、成長した葉よりも、栄養価が「約40倍!」もあると聞いています。あるいは岩佐さんが手掛けられている「イチゴ」は、高い単価でも売れますよね。特に夏場にイチゴを作るのは難しいでしょうから、それをLED/水耕栽培で「365日」同じ値段で販売できるようにするとか? 違う観点では、極端に暑いか?寒いか? 例えば、砂漠に近いような土地では、従来の農業はできませんよね? 「水」の問題をクリアできれば、そのような場所でもLED/水耕栽培によって農業を行うことが可能になります。

小売業態という点では、例えば、食品添加物を使っていない食品だけを取り扱うコンビニとか。最初は、マーケットがごく限られたものからのスタートになるでしょうけど、駅ナカみたいなところに店舗を作れば集客はできるし、アトピーを持っている子供のお母さんなど、そのバリューに反応する層はいるはず。それで顧客を作った後はオンラインで売る、みたいな形態。

また、僕の実力不足で実現できませんでしたが、スマートフォンで新幹線の切符が買えるようになったことで、JR東日本は「みどりの窓口」を縮小されていますが、そこを野菜の栽培および販売という「みどりの窓口」として展開できたら面白いと思っていました。

これからも食べ物についての安心安全だったり、 テクノロジーの文脈での発展は色々あるのではないかと思っています。

シリーズ:農業スタートアップInfarmが日本から撤退したわけ

~プロダクトマーケットフィットの欠如編~

~加熱した投資家マインドとInfarmの誤算編~

~アセットビジネスの普遍的な勝ちパターン編~

~生き残るプロダクトの条件編~

関連リンク

ドリームビジョン: https://dreamvision.co.jp/

平石ブログ「起業家はコトラーを読まない。」: https://ikuoch.com/blog/

起業家/サーファー

1977年、宮城県山元町生まれ。2002年、大学在学中にIT起業。2011年の東日本大震災後は、壊滅的な被害を受けた故郷山元町の復興を目的にGRAを設立。アグリテックを軸とした「地方の再創造」をライフワークとするようになる。農業ビジネスに構造変革を起こし、ひと粒1000円の「ミガキイチゴ」を生み出す。 著書に『99%の絶望の中に「1%のチャンス」は実る』(ダイヤモンド社)、『絶対にギブアップしたくない人のための成功する農業』(朝日新聞出版)などがある。人生のテーマは「旅するように暮らそう」。趣味はサーフィンとキックボクシング。

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