サクラ前線「北海道(函館)上陸」 観測史上最も早く 異常ともいえる移動速度
一日26キロで日本列島を駆け抜けるサクラ前線
マラソンの歴代世界最高記録は2時間1分09秒ですが、これが突然記録が破られ、1時間48分台で走る選手が現れたら、皆様はどんなふうに感じられるでしょう。
本日(4月14日)、函館(五稜郭公園)のソメイヨシノが平年より14日早く開花しました。記録に残る1953年以降、最も早い北海道上陸です。さらに札幌のサクラも、明日(15日)にも開花の発表がありそうな勢いで蕾が膨らんでいます。(すでに2輪咲いているとの報道も)
実は驚くべきは、東京から北海道までわずか一カ月で駆け抜けたそのスピードにあります。今回の開花スピードは、これまでの開花記録とは質的に違うと言ってもいいほどのインパクトがあるのです。
記録的だった2021年よりも早い
二年前のちょうどいまごろ、私は青森でサクラが記録的に早く開花したということで、記事にしました。その二年前は全国的に記録的に早い開花でしたが今年はなんと青森どころか、それを上回る勢いで札幌でもサクラ(ソメイヨシノ)が開花しそうなのです。
二年前にも書きましたが、サクラ前線は大体一日20キロくらいの速度で北上していきます。もし、札幌のソメイヨシノが15日にも開花すると、札幌と東京の距離、およそ830キロを32日間になりますから(東京は3月14日開花)、一日約26キロでサクラ前線が北上したことになります。これは今までに比べて、とてつもなく速いスピードと言えるでしょう。
おそらく今回のサクラの開花については、平年より何日早いかという記録が注目されると思いますが、ことの本質は単なる開花の早さだけではなく、その北上スピードの異常性にあります。
植物はもともと一日だけ突出して気温が高いとか、雨が降ったとかということに惑わされず、積算温度や日照時間も含めたバランスの中で生育します。そうでないと植物は滅びてしまいますから、全体の季節の変化に適応して開花したり実をつけたりするわけです。したがって、サクラに関して言えば、ひと昔前は3月下旬に関東から西の地方で開花が始まり、ゴールデンウィーク前に青森に到達、5月になって北海道に上陸というのが普通でした。
そのため、弘前城のさくら祭りなどは、ちょうど連休期間中に満開を迎えて観光としても最高の舞台だったわけです。それが今年は、すでに青森では満開を過ぎ、連休期間には葉桜になっているという状況になるかもしれません。そんな事情もあり、今年に関してはまつり期間を早めて開催予定との事ですが、約200億円以上の経済効果を見込んでいるところに水を差す状況となる事だけは確かです。
なぜ開花が早いのか
ではなぜこれほど開花が早まったのでしょう。直接的には3月が極めて温度が高かったのが原因です。
この温度が高かったのは、ラニーニャ現象の終息による海水温変化、上空のジェット気流の例年より早い北上など、気象的には現象そのものは理解できるものです。
しかし本当にこの開花スピードの速さは、暖春だけで説明できるのでしょうか。ひょっとすると、植物(この場合はサクラ)が地球温暖化を織り込んで変化してきているのかもしれません。
少しややこしい言い方になりますが、本来あるべき札幌と東京の地理的距離の差が気候の変動によって、気候そのものの差が小さくなり、結果、北国の春が早くなっているという事は考えられないでしょうか。
よく知られるように、サクラの開花は一定の寒さを経験したあとに、気温が高くなることが重要です。通常は積算温度と言って、東京などは2月1日からの平均気温がおよそ600度前後になると開花することが知られています。
ところがこの積算温度は単純に足し合わせたものではなく、近年は夜間の温度なども関係しているようで、東京のような都市部では特に早まる方にズレてきているようです。
また東北地方や北海道のような冬が寒い地方は、春になっても気温の上昇が一様ではなく、それが開花スピードを遅らせたりする理由でした。ところが今年、これまでに比べて見たこともないような速度で開花が進んだというのは、北の方が相対的に温暖になっているという事ではないでしょうか。
よく指摘されるように、地球温暖化は地球全体が一様に暖かくなるわけではありません。北極など低温地域の方が気温の上昇率が大きくなります。近年のサクラ開花スピードのみで論じるのは危険かもしれませんが、植物は総合的な季節センサーを持っていると仮定すると、人間の測器で観測した温度などより、深く自然に反応して開花スピードの異常となって表れているのではないかと私には思えます。
参考
2021年4月13日掲載 Yahoo!ニュース記事「サクラ前線観測史上もっとも早く青森に到達 ウメも同時開花」