アマゾンが検討中の新たな配達手段は“あなた”、誰もが配達人になるクラウドソーシング型宅配サービス
あなたの家にネット通販の荷物を届けるのは、いつもの宅配業者ではなく、たまたま近所に用事があった見ず知らずの人かもしれない。あるいは、隣町のある家に荷物を届けるのは、あなたかもしれない。
業者に代わって荷物を届ける「On My Way」
一般の人に商品を届けてもらうこうした配送の仕組みを米アマゾン・ドットコムが計画しており、同社はそのためのモバイルアプリを開発中だと、米ウォールストリート・ジャーナルなどの海外メディアが伝えている。
報道によると、アマゾンは現在社内で「On My Way」と呼ぶサービスについて検討している。この名称は“どこかへ向かう途中”という意味で、想定されるサービスの仕組みは次のようなものだという。
ある人が、アマゾンと契約している商品集積所に行き、荷物を預かり、それを最終目的地へと運ぶ。するとその人には何らかの報酬が与えられる。
いつどのような配達需要があるのかといった情報はスマートフォンのアプリで配信し、それを見た人は、自分の用事がある場所の近くに届け先があれば、アプリ内で挙手する。
このニュースを最初に伝えたウォールストリート・ジャーナルは事情に詳しい関係者の話として、On My Wayサービスの開始時期に関する情報は今のところ得られておらず、アマゾンは計画を中止する可能性もあると伝えている。
ただ、もしこれが実現すれば、アマゾンは高騰する配送コストを抑えたり、繁忙期に配達遅延を防いだりできる可能性があるという。
山積する課題
その一方で、アマゾンがどのように配達人を審査するのか、商品の破損・紛失時には誰が責任を負うのか、といったことが明確になっていないと指摘されている。
このほか、アマゾンは実店舗を展開する小売業者に依頼し、商品保管スペースを借りる計画のようだが、果たして競合する小売業者がアマゾンに協力するのかといったことにも疑問があり、このサービスには課題が多いと専門家は指摘している。
また、米メディアのバージは、配達人が商品をそのまま持ち帰ったり、無事に届けたと虚偽の報告をしたりすることも考えられると伝えている。これ以外にもストーカー行為を防ぐ仕組みづくりも必要と言えそうだ。
クラウドソーシングを宅配分野に導入
ただ、ウォールストリート・ジャーナルによると、アマゾンがもしこの計画を実現させれば、同社は「クラウドソースト・デリバリー(クラウドソーシング型宅配サービス事業)」に参入することになるという。
クラウドソーシングとは、インターネットを使って不特定多数の人に業務を依頼したり、不特定多数の人と共同作業を行ったりすること。同様にネットを使って、新規事業の資金を調達するクラウドファンディングという仕組みもある。
クラウドソーシングを使った宅配サービスは、配車サービスの米ウーバー・テクノロジーズなどがすでに手がけている。
アマゾンのライバルである小売大手の米ウォルマート・ストアーズも2013年に、店内にいる顧客に商品配達を依頼するクラウドソースト・デリバリーを一時的に検討したことがあると、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。
このウォルマートの試みについては、昨年10月に日経ビジネスも報じていた。それによると、ウォルマートの構想は次のようなものだった。
店内の棚にある商品には2つの価格が表示されている。1つは通常価格の10ドルで、もう1つは割引価格の9ドル。後者を選べば1ドル安く買えるが、その代わり帰宅途中に近所の人が注文したものを届ける“お手伝い”が発生する。
消費者の家庭に商品を届ける「ラストワンマイル」と呼ばれる最後の配送手段を巡っては、小売業者の間で熾烈な競争が繰り広げられていると、日経ビジネスは伝えていた。
ただしウォールストリート・ジャーナルによると、クラウドソースト・デリバリーの分野で大手の運送業者に対抗できる規模でサービスを展開した企業はまだなく、アマゾンの計画もその成否は未知数だという。
同紙よると、アマゾンはまだその料金体系も決めていない。配達人への報酬は現金で支払うのか、アマゾンのサイトで買い物に使えるクーポンを付与するのか、といったことについても検討中だという。
(JBpress:2015年6月18日号に掲載)