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日本について何を語る? 注目の尹錫悦大統領の「8.15」演説

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
尹錫悦大統領(大統領室提供)

 明日(8月15日)は日本にとっては「終戦記念日」であるが、隣の韓国にとっては日本の植民地支配から解放された「独立記念日」(光復節)である。韓国の歴代大統領は誰もがこの日に記念演説を行うことになっている。

 政権交代を実現し、5月10日に第20代大統領に就任した尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領も慣例に従い、自らのビジョンについて、また「解放の日」は朝鮮半島の「分断の日」にもあたることから北朝鮮に対してメッセージを発信することになるが、日本についても一言、二言触れることになるであろう。

 北朝鮮に対しては「大胆な提案」を行うと伝えられている。北朝鮮が非核化に応じるならば、人道支援にとどまらず、大規模の経済支援、協力などのアメを提供する用意があることを表明するようだ。しかし、北朝鮮が非核化に応じる可能性は極めて低いだけに「大胆な提案」は空虚に聞こえるであろう。

 そのことは尹大統領もおそらく承知の上で、むしろ核実験やミサイル発射を行った場合に韓国が振りかざすムチをちらつかせ、北朝鮮に警告を発する可能性が高い。北朝鮮に7度目の核実験を自制する兆候が見えないだけに22日から予定されている米韓合同軍事演習も予定通り実施するものと思われる。

 北朝鮮に対するメッセージよりも日本に対して、岸田政権に対してどのような言葉を発するのか?日韓関係について何を語るのか?この点が日本にとっては大いに関心のあるところだ。

 大統領就任時の直近の3人の大統領の対日発言を調べてみると、いずれも元慰安婦問題や元徴用工問題等「歴史問題」について言及している。

保守の李明博(イ・ミョンパク)大統領(2008年2月25日~2013年2月24日)は日本に向かって「歴史を直視し、不幸な過去を蘇させるような愚を決して犯してはならない」と強調していた。また、竹島(韓国名:独島)問題についても触れ「我々が富強な国になれば、我々の領土を不当に欲しがるようなことはなくなるだろう」と述べていた。

 周知のように李大統領は日本が元慰安婦問題で善処しなかったことに失望、反発し、4年後の2012年8月10日に歴代大統領誰一人足を踏み入れたことのない竹島に上陸してしまった。

 竹島上陸から5日後の解放記念日の式典では「日本軍慰安婦被害者問題は人類の普遍的価値と正しい歴史に反する行為である。戦時女性人権問題として日本政府に責任ある措置を求める」と日本に迫り、日韓シャトル外交を中断させてしまった。これにより日韓関係は悪化の一途を辿ることになった。

 李前政権から元慰安婦問題を引き継いだ同じ保守の朴槿恵(パク・クネ)大統領(2013年2月15日~2017年3月10日)は「日本は重要な隣人で、大多数の日本国民は韓日両国が北東アジアの平和と繁栄を共に作っていくことを願っていると信じている」と断りながらも歴史を巡る最近の状況が「韓日両国の未来を暗くしている」と述べ、「両国が真に協力できるパートナーとして発展できるよう日本側が過去の傷を癒すような勇気のある指導力を発揮すべきだ」と、元慰安婦問題で前向きな対応を取るよう日本に注文を付けていた。

 また、李前大統領同様に領土問題についても触れ、「身体の一部を切り離そうとするなら、どんな国、国民も受け入れられない」と、日本の領有権主張を牽制していた。

 朴大統領は在任中、日本との関係改善には「従軍慰安婦の問題で日本が誠意を示し、環境を整えることが重要」であると強調し、「会って話をしよう」との日本側の首脳会談の申し入れを頑なに拒んでいた。

 しかし、日本が最終的に安倍晋三首相(当時)の「詫び文」と元慰安婦らに慰労金10億円を拠出するなど誠意を示したことで2015年12月に「慰安婦合意」を交わし、後退一途を辿っていた日本との関係を修復させていた。

 保守から政権を奪還した進歩の文在寅(ムン・ジェイン)大統領(2017年5月10日~2022年5月9日)は「慰安婦合意」に反対し、当選したこともあって就任年の「8.15」演説では再び「過去」の問題を持ち出し、「(徴用工や慰安婦の問題について)被害者の名誉回復と補償、真実究明と再発防止の約束という国際社会の原則がある。韓国政府はこの原則を必ず守る」と、「慰安婦合意」の見直しについて言及していた。

 文大統領はこの日の演説では物足りなかったのか、2日後の17日に記者会見を開いて、「慰安婦問題が知られ、社会問題となったのは韓日会談から後のことだった。だから慰安婦問題が(国交正常化に向けた)韓日会談で解決されたというのは正しくない。両国間での合意(日韓請求権協定)が一人一人の権利を侵害することはできない。両国間の合意があるにもかかわらず、徴用された強制徴用者個人が三菱などをはじめとする企業に対して有する民事的権利はそのまま残っている、というのが韓国の憲法裁判所や韓国大法院(最高裁)の判例(判断)だ。政府はそのような立場から過去の歴史問題に取り組む」と、見直しの理由を強調していた。これにより、日韓関係は再び険悪化し、「史上最悪の関係」と言われる状態に陥ってしまった。

尹錫悦大統領(2022年5月10日~)は文前大統領の対日姿勢について「対日関係を国内政治に巻き込んだ」と批判し、「大統領になれば直ちに韓日関係を改善する」と再三にわたって公言していた。

 今年3月1日の独立運動記念日での演説では「古臭い反日扇動だけで国際社会の巨大な変化に立ち向かうことができない」と述べ、大統領に当選した直後の岸田首相との電話会談では日本と未来志向の関係を築くことを強調していた。

 歴代大統領の発言を踏襲し、「過去」の問題についても言及するのか、それとも一切触れないのか、今後の日韓関係を占う上で一つの試金石になるであろう。

(参考資料:尹錫悦政権下で本当に日韓関係は改善されるのか? 前途多難な4つの「不吉な予兆」)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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