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「僕は面白くなかった」。だからこそ勝てた石田明の兵法

中西正男芸能記者
今春から「NSC」の講師を務める「NON STYLE」の石田明

 漫才コンビ「NON STYLE」の石田明さん(41)。ここ数年は舞台の脚本や演出なども手掛けてきましたが、今春からは吉本興業の養成所「NSC」で講師を務めることにもなりました。教壇に立つ際にベースとなっているのが「僕は面白くなかった」という思いだと言います。

僕は面白くなかった

 春からNSCで講師をさせてもらうことになりました。NSCを含めた吉本の教育事業「よしもとアカデミー」全体でいろいろ話したい思いもありますし、今、まさに、そういう“設計図”を描いている最中です。

 そもそもの話、僕は面白くなかったんです。

 面白くないところからスタートしているからこそ、オモシロへのあこがれが強い。

 自分の発想は面白くないけど、この小さなオモシロをどう大きく見せられるのか。そのための方法を考える。考えまくる。それで、なんとか今があると思っています。

 一方、今売れているほとんどの人はオモシロが先にある人なんですよ。オモシロがしっかりとあって、それをきちんと表現できている。

 ただ、オモシロが強ければ強いほど、見せ方を怠りがちという部分もあるんです。

 まず、その最初にあるのがNSCで、ホンマに面白いけど辞めていく人がいっぱいいるんです。思いついているものは面白いけど、見せ方が分からない。ネタへの落とし込み方が分からない。そういう人を僕はなくしたいんです。

 僕はお笑いファンなので、お笑いの未来が明るくなることはやっていきたい。その思いから、もし僕にできることがあるならばということで、NSC講師の話をお受けしました。

“なんとなく”の言語化

 じゃ、実際に教えるとなったら何を教えるのか。

 お笑いとは常識を裏切っていくことです。それが基本です。

 でも、今の時代はその結果生まれた“お笑いの常識”というものがあって、今はその“お笑いの常識”をいかに裏切っていくかが求められるんです。

 なので、まず学校では今の“お笑いの常識”を教えないといけない。それを踏まえた上で、裏切っていくわけですから。

 僕らで言うと、もともとは「夢路いとし・喜味こいし」という常識であったり「オール阪神・巨人」という常識があって、それを裏切り続けてきました。

 裏切りはどんどん進化しますし、それをするためにも、今の笑いの常識をしっかりとらえる。それがまず大前提にあることなんだと思うんです。

 世に出ている人は、みんな、それができる方々ばかりです。

 なので、そのあたりを話すにしても、すごく感覚的な言葉や表現で話している。「ま、そら、そういうことやもんな」みたいな感じで。

 そんな中、4年ほど前に(博多)大吉さんと岡村(隆史)さんと「M-1」のいろいろな話をしながらお酒を飲んでたんです。

 そこで岡村さんが「これ、今しゃべってるだけではもったいないわ。ウチのラジオでやろうや」と言ってくださいまして。

 その時に、思ったんです。

 確かに3人で話をしていたら、感覚的な表現でもハッキリ通じる。ただ、これをラジオという場でお話しするならば、ちゃんと言語化しないといけないだろうなと。

 そこから、これまでの「なんとなく」をきちんと言葉に置き換える必要性を強く考え出したんです。

 そういう風に頭を切り替えて言語化していくと、ふんわり理解していたことが、どんどん整理もされますし、ロジックとして形成されていくんです。

 そうなると、何か物事を伝えようと思った時に、しっかり伝えられるようになったんです。体系化された話なので、明確に伝えられるというか。

 そこからもう一歩進んで、これをまだアタマが固まり切っていないお笑いの1年目の人たちに刷り込んでおけば、すごくNSCというものが変わっていくんじゃないかなと。

 そんな思いもあったんですけど、僕は自分から動く人間ではないので、今回、お話をもらって、これはちょうど良かったなと(笑)。

 そして、もっと思い切って、堂々と研究していいんやとも思いました。「NSCで教えるため」という大義名分ができたなと。

 なので、最近はいろいろな先輩や後輩にも、どうやってネタを作っているかを正面から尋ねられるようになりました。本来、これはなかなか聞きにくい領域なんですけどね。

 お笑いオタクからすると、たまらない免罪符をもらったような感じです(笑)。FBIの捜査官の身分証明書みたいな感じで、どこに入っても「捜査です」言えるというか(笑)。

会話の本質

 ここ数年は「いろいろやってるよな」と言われるようになりました。

 実際、脚本も、演出も、いろいろやっています。でも、結局、自分が得意なことしかやってないんです。自分の得意な分野を研ぎ澄ますために。

 それが何かというと、会話です。

 僕はコンビのネタも書いてきましたけど、漫才ももちろん会話です。会話のために、人間はどんな行動をとっているのか。それを常に考えてきました。

 分かりやすい話でいうと、多くの人は、怒っているというセリフを怒っている表現でやりがちなんです。セリフを演じるとなった時点で。

 でも、普通の生活の中で、多くの人は怒っている時に怒っている表現をしないんです。だから、本来、そっちの方がリアルのはずなんです。

 じゃ、なぜ怒っているのに怒っている表現をしないのか。そこには目的があるわけじゃないですか。それを見せると、結果、いろいろ自分が損をするとか。

 でも、セリフになった時点で、多くの人が怒りを怒りの感じで表現します。それをもとに会話を構成していくと、人間のセンサーが無意識のうちに“不自然”と判断するんです。

 そうなると、漫才にしても、お芝居にしても「なぜか、入ってこないな…」ということになってしまいます。 

“ウソ”をついてきた

 というようなことをどんどん言語化する作業をしていくと、自分自身の理解が深まるのもありますし、もう“ウソ”がつけなくなります。

 これまでは、優勝したいがために、ウケたいがために、結構“ウソ”をついてやってきたんです。

 普通に考えて、相方はこんな言葉遣いはしないだろう。でも、それを相方に言わせてから、自分がこのワードを言うと確実にウケる。それが分かってるから、そこに行くための手順として、相方に不自然なワードを言わせる。

 これも分かりやすい例で言うと、僕が次々にボケていくネタで、井上が「これ以上、ボケたら絶交な!」と言う部分があるんです。

 それを受けて、僕が「願ったりかなったり」と言うんですけど、この「願ったりかなったり」がウケるから、その前に「絶交な」と言わせてるんです。

 普通、いい歳した人間が絶交とは言わないです。ま、かなりのスピードでネタは進んでますし、ほとんどの方は、その違和感に気づかないかもしれません。

 でも、本当は“ウソ”がそこにはあるんです。

 しっかりした試合としての会話ではなく、僕がホームランを打ちやすいように井上がポンとボールを投げたティーバッティングです。

 こういうことって、なるべくならない方がいい。漫才でせっかく二人の人格がぶつかっていても、そこの部分だけポコンと人格がなくなるんですよ。

 だから、最近はネタを作る時にも井上にいろいろ聞くんです。

 「どんな家に住みたい?」「どんな奥さんがいいの?」とか。そうやって、少しでもナチュラルに。それを考えて作っています

 それで言うと「ブラックマヨネーズ」さんのネタなんかはすごいです。

 言ってることとしたらとんでもない会話をしてるんですけど、ちゃんとケンカになってるんです。会話が成立してるんです。

 最初は小杉さんも真っ当なことを言ってるけれども、途中から「ほな、こうしたらエエんちゃうんか!」とエスカレートしていく。

 中身だけ見てみると、ものすごくぶっ飛んだことを言ってるんです。でも、ヒートアップする小杉さん、逆に冷静になっていく吉田さんという感情のバランスがナチュラルだし、内容が突拍子もないことでも、そこにウソがないんです。

 ツッコミの人がボケの人のサクラになることが多いんです。そうすると、ウケやすくはなるんですけど、お客さんが重い時にはメチャクチャすべるんです。これはやっぱり、会話が成立してないからなんですよね。

コンプレックス

 こうやって、とことん考えるのは、やっぱり、コンプレックスがあるからです。

 芸人さん、玄人からの評価が低い。

 昔からそのコンプレックスを抱えていて、年々、少しずつ「石田、すごいな」と言ってもらえるようにはなってきたんですけど、根本に「『NON STYLE』の笑いって軽いもんな」というのはあるんですよ。

 ただ、その中でも僕は周りを固めてきて見せ方を考えてきました。ここからは、面白さや発想力そのものを伸ばす手立てはないのか。それを考えていくのかなと思っています。

 ホンマに面白い人は、変わった設定をポンと出せるんです。でも、僕は変わった設定を出すために8工程くらい踏むんです。ここをどうギュッと短縮できるか。

 こういうことを意識していく中で、相方との関係にも少し変化があったと思います。

 よくしゃべるようになったとは思います。向こうから僕にしゃべる量は変わってませんけど、僕から話しかける数は増えました。井上を改めて知るために。

 その結果、改めて思いましたけど、井上はどこまでもピュアです。これはね、決していい意味だけではなく、両方の意味がありますけど(笑)。

 何を考えているかも分かりやすいし、何をやりたいかも分かりやすい。本当にあらゆる意味でピュアです。

 ま、そのあたりをイチから話し出すと、何時間かかっても講義が終わらないので、そこは割愛したいと思います(笑)。

(撮影・中西正男)

■石田明(いしだ・あきら)

1980年2月20日生まれ。大阪府出身。高校卒業後、トリオ、ピンなど芸人として活動をした後、中学・高校で同学年だった井上裕介と2000年に「NON STYLE」を結成。ABCお笑い新人グランプリ審査員特別賞、上方漫才大賞優秀新人賞、MBS新世代漫才アワード優勝、NHK新人演芸大賞演芸部門大賞、上方お笑い大賞最優秀新人賞など受賞多数。08年には「M-1グランプリ」で優勝を果たす。12年には12歳下の一般女性と結婚。17年8月に双子の女児が誕生。20年には三女が生まれる。近年はコンビとしての活動以外に、舞台の脚本、演出なども手掛けている。今春からは吉本興業の養成所「NSC」で講師を務める。また、よしもとクリエイティブアカデミー、吉本興業高等学院などNSCを含めた「よしもとアカデミー」事業でカリキュラム作成などを担当予定。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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