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「ヘンリー英王子はアンドルー王子が崩壊していくのを見て同じ道は歩みたくないと思った」スペアの悲劇

木村正人在英国際ジャーナリスト
ヘンリー公爵とメーガン夫人の結婚が王室に亀裂を走らせた(2018年、筆者撮影)

[ロンドン発]英王室に近い王室ジャーナリスト、ロバート・ジョブソン氏が5月に新著『40歳になるウィリアム王子』を出版することになり、3月9日、ロンドンの外国人特派員協会(FPA)主催の記者会見で質疑に応じた。ヘンリー公爵とメーガン夫人の王室離脱に始まり、アンドルー王子の未成年者性交疑惑、チャールズ皇太子の慈善団体を巡る不正疑惑…とスキャンダルが続く英王室の内情について語った。

ロバート・ジョブソン氏(筆者撮影)
ロバート・ジョブソン氏(筆者撮影)

――ヘンリー公爵=王位継承順位6位=の自叙伝が2022年後半に出版される。ヘンリー公爵は「王子としてではなく、1人の男性として執筆している」と話しているが

「時間が経つにつれヘンリー公爵とメーガン夫人の信用は落ちている。米人気司会者オプラ・ウィンフリーさんの単独インタビューは率直に言ってジャーナリストとしてはかなりお粗末だった。聞くべきことを聞いていない。公式の結婚式を挙げる前に結婚したという主張も事実ではなかった。王室が人種差別的だという発言も疑わしい」

「母親のダイアナ元皇太子妃が死んだ時、ヘンリー公爵は小さかった。彼は記憶を裏付けるために元妃の友人に話を聞いたそうだ。子供の頃の話はそんなに覚えていないはずだ。あとづけの記憶にはバラ色のバイアスがかかる。イギリスにおけるヘンリー公爵の存在感は下がっているが、自叙伝は爆弾ショーになり、偽善的メディアがそれを増幅するだろう」

――どうしてヘンリー公爵は兄のウィリアム王子=王位継承順位2位=に対して“戦争”を仕掛けたのか。2人は仲直りできるか

「ヘンリー公爵と兄のウィリアム王子の問題ではさまざまな憶測が飛び交っている。年齢を重ねれば重ねるほど、兄弟がそれぞれ結婚すればいろいろなことが起きるのは何も特別なことではない。私の理解ではヘンリー公爵はウィリアム王子とは別の道を探していた。アンドルー王子=王位継承順位9位=を見ても分かるようにとにかく2番目(スペア)は難しい」

「これから先、上級王族としての役割を果たせなくなるのは本当に辛いことだ。アンドルー王子は若い頃、スーパースターのような存在だった。鏡に映る幻想そのものだった。フォークランド紛争から帰って来た時、彼は英雄になった。しかしアンドルー王子の人生が崩壊していくのを見て、ヘンリー公爵は同じ道は歩みたくないと思ったのかもしれない」

「彼はおそらく未来を見て、違うタイプの人生、違うスタイルの人生を送りたいと望んだのだと思う。何度もヘンリー公爵と話す機会があったが、彼は確かに変わった。昔に比べて塞ぎ込むようになった。独身時代や以前の彼女と付き合っていた時はもっとリラックスして王室担当記者とも接していた。何が大きな問題だったのか分からない」

「ヘンリー公爵はメーガン夫人との関係を急いだが、それだけではヘンリー公爵とウィリアム王子がいがみ合う十分な説明にはならない。それをきっかけに彼が行動を起こしたのは確かだが、ヘンリー公爵の胸中は私たちには分からない。だからヘンリー公爵の自叙伝を読むしかない。でもウィリアム王子には辛い読み物になるだろう」

――キャサリン妃がウィリアム王子とヘンリー公爵のZoomミーティングを設定したとの報道があるが

「2人は話していないと思うが、もし話していたとしても互いに信頼するのは難しい。なぜならメディアにその話が流れているのだから」

――ヘンリー公爵はエリザベス女王の在位70年を祝うプラチナジュビリーのためイギリスにやって来るのか

「ヘンリー公爵は来るべきだ。私は31年間取材で多くの王室警護官を見てきた。多くの警護官は50歳を過ぎると引退する。王族はプライベートで警護を頼む時、彼らを雇っている。彼らは信頼できる。王族は彼らに無線で連絡できる。ヘンリー公爵は警護官を復活させるため裁判を起こしているが、彼が数週間、元警護官を雇うのはしごく簡単なことだ」

「エリザベス女王は自分の誕生日を祝うイベント『トゥルーピング・ザ・カラー』や戦没者追悼行事に参加すると思うが、『トゥルーピング・ザ・カラー』の最後を飾るバッキンガム宮殿のバルコニーでアンドルー王子やヘンリー公爵、メーガン夫人の姿を見ることはないだろう。王室は女王1人に焦点を絞り、女王が何をするのかに集中している」

「エリザベス女王が曾孫に会えるとしたら、とても素敵なことだ。しかし分裂を生じさせた主な原因はヘンリー公爵の行動にある。メーガン夫人からは王室に戻ろうという雰囲気は感じられない。彼女が戻ってきたら英大衆紙の格好のネタになる。女王の在位70年にヘンリー公爵もメーガン夫人も敬意を表す必要がある。王室は、雑音は避けたいはずだ」

――ヘンリー公爵とチャールズ皇太子の関係は改善されたか

「あまり良くない。和解に関する多くの話があるが、それはファンタジーだ。解決されていない多くの問題がある。必ずしもそれに関する対話が行われているとは思わない」

――40歳になるウィリアム王子についてどう思うか

「将来、国王になるウィリアム王子は地道に活動している。サッカーをしたり、ファンタジーパークでバイクに乗ったり。彼はスポーツ愛好家で水泳もするし、歩くのも好きだ。彼は家族と過ごすプライベートな時間を大切にしているが、仲間といるのが好きなんだ。元イングランド代表FWピーター・クラウチとのポッドキャストのサッカー話も良かった」

「ヘンリー公爵やアンドルー王子が公務を離れ、ウィリアム王子はますます多くの公務をこなすようになった。そのためキャサリン妃のソロ活動も増えた。環境問題は彼にとって非常に重要なテーマであり、諦めというより何かできるはずだと感じている。彼は前向きだ。あまりフォーマルではない国王になるだろうが、王室の伝統を尊重するのは間違いない」

――勾留中に自殺した米富豪ジェフリー・エプスタイン被告の性的虐待事件で未成年者と性交したとして米法廷に訴えられたアンドルー王子が当時17歳だった原告のバージニア・ジュフレ(旧姓ロバーツ)さんと原則的に和解に達したが

「裁判官が言ったように誰もこれ以上争わない限り、この事件は解決だ。誰が和解金を支払ったかは分かっていない。公費から出してはいけないとアドバイスされていた。700万から1200万の間、ポンドかドルかだが、まだ決まっていない。和解金を支払ったのはチャールズ皇太子だとも報じられているが、訴訟は双方が合意したので一件落着した」

――エリザベス女王からチャールズ皇太子に王位が継承されたあと英君主を国家元首にする英連邦王国はどうなるのか。バルバドスは昨年11月、エリザベス女王を君主とするのを止め共和国になった

「ジャマイカでも共和国への移行が取り沙汰されたが、まだ静かだ。ウィリアム王子とキャサリン妃がジャマイカを訪れて英連邦の求心力を高め、ジャマイカとのつながりを維持しようとするのも無理はない。カナダやオーストラリアでは変化を求める動きは特に目立っていないが、簡単に王制を廃止できるニュージーランドは共和制に移行するかもしれない」

――エリザベス女王が2月6日に在位70年を迎える前日、カミラ夫人が王妃になることを公式に発表したが

「チャールズ皇太子が2005年にカミラ夫人と結婚した時に、私は『皇太子妃』になることもできるが『コーンウォール公爵夫人』を選ぶだろう、そしてチャールズ皇太子が国王になった時に王妃になると書いた。それ以降、起きたことはすべて憶測であり、王室は人気という面で駆け引きをした。結婚から17年経った今、状況は当時から大きく変わった」

「カミラ夫人が王妃にならないならイギリスだけでなくオーストラリアやニュージーランド、カナダでも法律を改正しなければならない。だから彼らは時が来るのをひたすら待ったのだと思う。チャールズ皇太子とカミラ夫人は夫婦としても素晴らしく、カミラ夫人はチャールズ皇太子が自信を持てるようサポートしている」

――チャールズ皇太子の慈善財団に150万ポンド(約2億2800万円)の寄付をした見返りに、サウジアラビアの大富豪に与えられる爵位を格上げした疑惑でロンドン警視庁が捜査に乗り出したが

「私は何年もチャールズ皇太子を追い続け、何が起こっているかを見てきた。これは資格が十分にない特定の人物に爵位を過剰に与えたケースだ。私はチャールズ皇太子が問題を知っていたとは思わないが、信頼を損ねた。チャールズ皇太子が警察の事情聴取を受けたとしても、それが即、有罪であることを意味しない。だから悪印象を与えるだけだ」

「王室には何十億ポンドの資産がある。慈善団体の寄付を募るために、チャールズ皇太子が副業で何か悪いことをするとは私には思えない」

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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