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「重婚」がダメな理由

竹内豊行政書士
重婚をししたら2年以下の懲役になるかもしれません。(写真:アフロ)

先月、プロ野球のコーチが一身上の理由で退団しました。その理由は「重婚疑惑」ともささやかれています。

その真偽はさておき、重婚はなぜしてはいけないのでしょうか。当たり前といえばそれまでですが、法律の観点からアプローチしてみたいと思います。

「憲法」による「一夫一婦制」の要請

日本国憲法24条では、「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない」とした上で、「配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と規定され、一夫一婦制を要請しています。

憲法24条(家族関係における個人の尊厳と両性の平等)

1婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

2配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。

「民法」による「重婚禁止」規定

憲法の一夫一婦制の要請を受けて、民法は、「配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない」(民法732条)とし、重婚を禁止しています。

民法732条(重婚の禁止)

配偶者のある者は、重ねて婚姻をすることができない。

ここでいう婚姻とは、戸籍に表れる関係のことで、法律上の配偶者のある者が配偶者以外の者と事実上の夫婦生活を営んでも、重婚にはなりません。この関係は、重婚的内縁の問題として処理されます。

重婚的内縁

法律上の配偶者のある者が他の異性と事実上の夫婦共同生活を営む場合を、重婚的内縁といいます。

重婚的内縁は保護されにくい

判例は、重婚的内縁の保護を法律婚の破綻の状況との関係で考えます。つまり、法律婚が実態を失い、事実上の離婚状態にあると認められるときは、内縁配偶者の方を保護します。他方、当事者の一方または双方に法律上の配偶者がいることから、内縁としての認定は厳しくなります。

問題は、法律婚の破綻の認定です。法律婚主義を採用する以上、法律婚の保護を優先せざるをえないため、判例の法律婚破綻の認定基準はかなり厳しくなっています。たとえば、わずかでも法律上の妻子との音信や交渉、生活費の支給などがあれば、破綻を認定しない傾向があります。

重婚が生ずるケース

重婚は、次のような場合に生じます。

1.協議離婚をして再婚をしたが、後に離婚が無効とされた場合

2.失踪宣告(注)を得て再婚したところ、生存がわかり宣告が取り消された場合

なお、「2.失踪宣告を得て再婚したところ、生存がわかり宣告が取り消された場合」は、再婚当事者が善意(前婚の配偶者が生存していたことを知らなかったこと)であれば、前婚は復活せず、重婚にはなりません。

(注)不在者(従来の住所又は居所を去り、容易に戻る見込みのない者)につき、その生死が7年間明らかでないとき(普通失踪)、又は戦争、船舶の沈没、震災などの死亡の原因となる危難に遭遇しその危難が去った後その生死が1年間明らかでないとき(危難失踪)は、家庭裁判所は、申立てにより失踪宣告をすることができます。

失踪宣告とは、生死不明の者に対して法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる制度です。

「刑法」による「処罰」~相手と共に2年以下の懲役

以上ご覧いただいたとおり、重婚が成立することはほとんどないといっていいでしょう。なお、民法の規定に違反して重婚をした場合、刑法184条には処罰する規定が設けられています。

刑法184条(重婚)

配偶者のある者が重ねて婚姻をしたときは、二年以下の懲役に処する。その相手方となって婚姻をした者も、同様とする。

このように、重婚は、憲法による一夫一婦制の要請、それを受けて民法の重婚禁止規定、そして、刑法による罰則と、憲法、民法、刑法の3つの法律によって禁止されています。しかし、現実に重婚が成立することはほとんど考えられません。重婚を禁止する趣旨は、一夫一婦制を堅持する法律婚の保護といっていいでしょう。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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