好調が続くディスカウントストア「クルベ」他店が脅威を覚える強みとは?
上げざるを得ない価格 しかし元の価格へ
原料が2割以上高騰していることで、スーパー各社は、やむなく価格を上げ、なかには一旦上げても、途端に売れなくなり、価格を元に戻すといった事態となっている。その為、粗利が取れないのだ。
大きな要因として、消費者の年収は相変わらず厳しく、妥当な価格改正であっても、手に取ってもらえない。
2021年に実施された大規模な「国民生活基礎調査」のデータによれば、平均所得金額は564万3000円で、年収中央値(所得の低いものから高いものへと順に並べて2等分する境界値)は440万円となっている。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa21/dl/03.pdf
ディスカウントストアが活況 ベルクの新しい業態「クルベ」
この状況下で、新たなるディスカウントストアが出現し、活況である。ディスカウントストアとは、通常のスーパーと違い、その名の通り、徹底した安さを誇るものを提供することとされ、世界水準では、同じ商品でも約3割から4割値引きのものを提供する業態を指す。そして今回、紹介するスーパーベルクの新業態「クルベ江木店」(以下クルベ)はディスカウントストアでEDLPでもある。
EDLPとは
EverydayLowPrice の略であり、特売商品や特売期間などの条件付き安売りではなく、あらゆる商品をいつでも低価格で提供するという店舗の販売方針とされる。その為、特売などのチラシは必要なく、その分、販促費のコストを削減できる。米国の小売業最大手・ウォルマートの経営理念から生まれた言葉である。
ベルクの徹底した日常食、そこから見える新業態「クルベ」
ベルクは、コロナ禍で他のスーパーでは減少している客数を、着実に伸ばしたことで話題となったスーパーである。直近の22年の12月から23年11月までの全店、既存店の月次売上を見ると、いずれも客数、客単価がすべて前年同月比よりプラスとなっている。平日の売り上げを着実にとることでも知られており、これは顧客にとって、普段使いとして購入しやすい店であることを意味する。
ベルク、従業員一人当たり売り上げ高は、通常の他のスーパーの約2倍
さらに従業員一人当たりの売上高を見ると、3627万円(2024年2月期第2四半期から算出)となっている。これは他社の約1.4倍で、生産性の高さから、効率良い仕組みが構築されていることがわかる。そのベルクで培ったノウハウを新業態のディスカウントストア「クルベ」に生かし、売り場はさらにブラッシュアップしているのだ。
ベルクから新業態EDLP のディスカウントストア「クルベ」へ
クルベは2023年7月29日オープン。
群馬県高崎市江木町の旧ベルク江木店を改装し、徹底的に600坪に標準化したベルクの跡地を利用した店舗なのだ。
EDLPであることから、特売のチラシはなく、主要の通路は、顧客が回遊しやすくし、購入点数を増やすワンウエイコントロール、そして現金払いである。しかし、ディスカウントストアにありがちな無味乾燥な売り場ではなく、ポップも鮮やかな色を使って、人目につく。そしてクルベ独自の音楽が流れており、一度、聞くと忘れないような世界観さえ感じるのだ。
あらゆる食品が安い。段ボールのまま使って陳列された各野菜は、キャベツは1玉99円(以下税別)、レタス1玉99円など丸ごとで販売。ブロッコリーも129円。豆腐は29円から69円、そしてポークウインナーも1パック229円、牛乳175円。和牛ばらカルビ用100g499円、国産鶏もも肉100g89円といった具合。その他、ここ数年、力を入れ始めている冷凍食品売り場は、従来のベルク同様、売り場の中央に大きく占められている。
「冷凍食品は、どの店舗でも大きく占めるような売り場に展開いたします」
以前、見学したベルク店長の弁。確かに、ここクルベも同様の売り場となっている。
稼ぎ頭の惣菜について
惣菜は、店舗内で製造したものを大量に売り場に並べることでシズル感を打ち出している。一例として、店舗内調理した焼豚を100g149円。「飾り気のない焼豚ほぐし丼…」は2種類あり、大599円、小299円設定を大量にゴンドラに焼豚関連商品として陳列することで、焼豚フェーズを広げ、店舗内調理を訴求している。
弁当の価格は、199円から1490円と幅広く、下限価格の199円はいくつかある。
今回、購入した唐揚げ弁当199円。この他に199円設定の弁当には、シュウマイ弁当がある。おかずは、1品勝負であり、バランなど一切使用していない。シンプルな見栄えであることで、むしろ顧客にとって、低価格であっても安心してもらえるのではないだろうか。この他に、大容量の800グラム以上のクルベメガカレー555円がある。
クルベの今後 効率と非効率の狭間でのコントロール
クルベが出店したならば、明らかに周辺のスーパーは、打撃をうけるであろう。
「これ以上、出店してほしくない」と見学した他のスーパー関係者は言うほどだ。
ディスカウントストアは、当然のことながら、あらゆるムダを省き、ようやく成立する。その為、加工商品、所謂、惣菜商品は、外注、もしくは自社工場で大量に作る傾向が強くなるのだ。
しかし、これはもろ刃の剣であり、工場製造だと大量製造は出来るものの、店着までに経時劣化が起こりやすい。そして店着までの賞味期限も長く設定するため、どうしても日持ちを向上させる添加剤の量、塩分も高くせざるを得ない。これらの添加剤、塩分を多くすると、あっという間に顧客の層が絞り込まれてしまう場合もある。話は脱線するが、以前、ロスを考慮して、添加剤、もしくは塩分を上げたことから、年配の顧客がパタッと来なくなり、若い層のみとなった企業があった。そして一旦、離れると、顧客は戻ることはなかった。今、既に高齢化が進み、人口減少のなか、いかに顧客を取りこぼさないかが大切で、その為、味について、よほど考えていかないと顧客は、離れてしまう。ディスカウントストアのような業態での加工商品は、通常のスーパーより原価を配慮せざるを得ない為、わかりやすい調味となり、これも顧客が絞り込まれ、離れてしまう要因になるのだ。
では店舗内製造はどうか。店舗内製造の商品に偏りすぎたり、増やしすぎると、当然のことながら人件費がかかり、粗利確保が難しくなる。
今後、クルベは、ベルクの徹底した標準化における仕組みと強みである店舗内での加工、この両輪をうまくコントロールができるかが、大きなカギになるのではないだろうか。
いずれにしても、新たなるEDLPの出現で小売りは大きく変わるであろう。
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