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バドミントン女子複フジカキら輩出の青森山田高、強さの秘密は「速攻」へのこだわり

平野貴也スポーツライター
ロンドン五輪・銀の藤井(右)/垣岩など、青森山田高は女子複の有力選手を多数輩出(写真:青木紘二/アフロスポーツ)

 東京五輪の決勝戦で教え子同士が金メダルを争うかもしれない。そんな贅沢な立場にいる指導者がいる。青森山田高校バドミントン部の藤田真人監督だ。女子ダブルスで五輪出場を確実にしている日本代表2ペアの両方に、教え子がいる。

 この2ペアとは、世界ランク2位の福島由紀/廣田彩花(丸杉ブルビック)と世界ランク3位の松本麻佑/永原和可那(北都銀行)で、福島と永原が青森山田高の出身だ。両ペアは、2018年、19年と2年連続で世界選手権の決勝戦で対戦(ともに大接戦の末に松本/永原が勝利)。今後、調子を上げてくる中国、韓国勢が怖い存在となるが、東京五輪でも日本ペア同士の決勝戦は、十分に実現の可能性がある。

 青森山田高は、2012年ロンドン五輪で日本勢初の五輪メダル(銀)を獲得した藤井瑞希/垣岩令佳の母校でもあり、ほかに2017年BWFスーパーシリーズファイナルズ優勝の米元小春/田中志穂(北都銀行)らも輩出。現日本A代表の志田千陽(再春館製薬所)もOG。19年は、大竹望月/高橋美優(当時3年/2年)がインターハイで優勝し、全日本総合選手権でも高校生としては10年ぶりとなる8強進出と躍進。2人は20年から日本B代表入りしており、先輩たちの背中を追っている。

 彼女たちの成長過程に携わってきた藤田監督に、東京五輪への期待、卒業生による世界頂上決戦の感想(前編)、優秀な日本女子代表を輩出し続けている理由、そして高校世代の発展の可能性(後編=当該記事)について、話を聞いた。

ダブルス王国・青森山田は、速攻スタイル

男子複出身の藤田監督は、女子でも高校では攻撃的なスタイルに特化して育成指導にあたっている【著者撮影】
男子複出身の藤田監督は、女子でも高校では攻撃的なスタイルに特化して育成指導にあたっている【著者撮影】

――青森山田高校は、12年ロンドン五輪銀メダルの藤井/垣岩から、現在の福島/廣田、松本/永原(福島と永原がOG)、さらに、24年パリ五輪世代でも志田千陽/松山奈未(再春館製薬所、志田が青森山田高OG)が台頭するなど、女子ダブルスの有力選手を輩出し続けていますが、その背景は、どういうところにあるのでしょうか

 もう、伝統ですよね。私がこの学校で指導を始めたのは、藤井たちが3年生の年(2006年)からです。そこから、ダブルスは他校に負けられないというのが受け継がれていて、インターハイ女王が5、6組出ています。反面、シングルスでチャンピオンを出せていないという課題もあるのですが、指導スタッフが私のみで、シングルスとダブルスの両方を教えるのは難しいという面もあり、なるべく全員に効率よく指導しようとして、ダブルスが中心になってしまっているという部分もあるかなと感じています。

――ダブルス中心で、練習内容に関しては、どのような工夫をされているのでしょうか

 うちは、基本的にドライブ(※相手コートに素早く打ち返す打球)の速攻を主体としたダブルスで、コートを大きく使う展開については、卒業後の改善点というか伸びしろとしています。後からでも習得できると思っています。高校では、高い球を上げる展開は極力避けて、ストレートで、相手の前衛選手と(速い球、早い展開で)勝負させています。(相手の前衛に反応されるのを怖がって避けるのではなく)相手の前衛のラケットを弾いてポイントを取るというスタイルです。

 ネット前に球を沈めて、相手に高い球を上げさせて攻撃するということも、あまりやりません。そうすると、こちらは高い所から球を打ち下ろすことができるようになりますが、相手の守備体勢も整ってしまいます。とにかく速い球で押し込んで行って、相手は返すのが精いっぱいになり、こちらはどんどん前に出て強い球を打ち込むという展開にしていくイメージです。

日本の課題である攻撃力に特化、中国の五輪女王ペアがお手本

――日本の女子ダブルスは、守備重視の印象が強いですが、お話を聞いていると、男子ダブルスのイメージに近いですね

青森山田高の女子ダブルスは、徹底して速攻スタイルを磨く。そこには、卒業後の伸びしろを持った選手が多く育つ理由があった【著者撮影】
青森山田高の女子ダブルスは、徹底して速攻スタイルを磨く。そこには、卒業後の伸びしろを持った選手が多く育つ理由があった【著者撮影】

 そうですね。2016年のリオデジャネイロ五輪で日本勢として初めて金メダルを獲得した高橋礼華/松友美佐紀ペアもそうですが、みんな、ジュニア期は、攻めて勝っているものです。相手が付き合わずに高い球を使ってくるケースもありますが、高校では、攻めて勝たないと将来がないと感じています。私が男子ダブルスの選手でしたので、レシーブでも攻めるという気持ちを1試合通して徹底できるかどうかが大事だと感じてきました。

 距離が近い相手から逃げずに戦えれば、遠い距離の相手の球は、もっと簡単にさばけるようになります。そうなれば、もう一つポジションを前にして(攻撃的な位置取りをして)も戦えるということになります。また、私が指導を始めた頃は、2008年北京五輪の女子ダブルスで金メダルを獲得した中国のズー・ジン/ユー・ヤンも(高い球を返すことで守備に回ることをしない)男子のようなプレースタイルでした。彼女たちに対して相手が完全に押し負けているのを見て、こういう選手を育てたいと思いました。

――日本代表は、04年のアテネ五輪でわずか1勝に終わった時代から、韓国人の朴柱奉ヘッドコーチの指導の下、世界トップレベルで活躍できるまでに大きな進化を遂げていますが、高校生のレベルも変わってきていますか

 高校年代でも戦術の多様化は、感じます。シニアのプレー動画をたくさん見られる時代になり、ジュニア期からコートを広く使うようになってきています。高い球を相手コートの一番後ろまで返すとか、相手の球をネット前で止めて低く落とすとか。レシーブの技術、考え方が幅広くなってきました。サーブからの主導権争いも、一昔前に比べると、先手を取り合うスピードが上がっていると思います。ラケットなど用具の進化の影響もあると思いますが、映像をたくさん見られることの影響は大きいと思います。

――動画を見られるようになったのは、テクノロジーの進化によるものですが、そこに興味を示すきっかけを日本代表が与えてくれるのは、大きいですよね

 そうですね。日本人選手の活躍は、本当に大きいと思います。青森山田では、毎年、(日本最強決定戦の)全日本総合選手権を観に行っていますが、そこでも、上位に卒業生がいるので身近な目標になってくれます。高いレベルなのに、それを身近に感じられるということの意味合いは、大きいと思います。

高校年代の底上げに、リーグ戦導入を

――日本代表が世界で目覚ましい活躍をするようになりましたが、今後、日本の中高生が今と同等またはそれ以上に活躍し続けるために、どんな工夫をしていきたいと考えていますか

バドミントンは国際大会もトーナメント戦中心だが、育成年代でリーグ戦を導入し、公式戦レベルの注目度と緊張感を持った試合を数多くできれば、より一層の成長が期待できる【著者撮影】
バドミントンは国際大会もトーナメント戦中心だが、育成年代でリーグ戦を導入し、公式戦レベルの注目度と緊張感を持った試合を数多くできれば、より一層の成長が期待できる【著者撮影】

 私が今、関心を持っているのは、リーグ戦です。本校では、男子サッカー部が近年、活躍しているのですが(全国高校サッカー選手権で2度優勝、直近3年で連続して決勝に進出。Jリーグクラブの育成チームも参加する高円宮杯U-18プレミアリーグチャンピオンシップでも2016年に優勝)、リーグ戦でどんどん、下から選手が育っていると聞きます。

 バドミントンも日本のほとんどの競技と同じようにトーナメント戦ばかりで、多くの選手に出場機会を与えるのが難しい状況にあります。リーグ戦ができて、そこでの成績も公に認められるようになったら、下級生からもっと早く力をつける選手や、今の環境では芽が出てきていないけど可能性を示すようになる選手が出てきて、より良い競争環境ができるのではないかと考えています。

 サッカーの高校生のリーグ戦は、協会ではなく、有志の集まりによるプライベートリーグからスタートしたと聞いて、それなら私たちにもできるのではないかと。どういう形なら実現が可能で、他校と一緒に作っていけるか、まだ思案しているところですが、本校の強化はもちろんのこと、新しい時代の環境作りにも挑戦していきたいと考えています。

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■藤田真人(ふじた まさと)

1979年生まれ。青森県出身。常総学院高で全国選抜大会の団体、男子複で優勝。筑波大を経て北都銀行でプレー。2006年から青森山田中・高で指導。16年から高校の指導に専念。インターハイ団体優勝に6度導くほか、12年ロンドン五輪銀メダルの藤井瑞希/垣岩令佳ら女子複の日本代表を多数育成。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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