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東京五輪決勝で教え子対決実現なるか、バドミントン女子複の輩出続く青森山田高

平野貴也スポーツライター
青森山田高OGの福島(中央左)と永原(中央右)は、19年世界選手権の決勝戦で対戦(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

 東京五輪の決勝戦で教え子同士が金メダルを争うかもしれない。そんな贅沢な立場にいる指導者がいる。青森山田高校バドミントン部の藤田真人監督だ。女子ダブルスで五輪出場を確実にしている日本代表2ペアの両方に、教え子がいる。

 この2ペアとは、世界ランク2位の福島由紀/廣田彩花(丸杉ブルビック)と世界ランク3位の松本麻佑/永原和可那(北都銀行)で、福島と永原が青森山田高の出身だ。両ペアは、2018年、19年と2年連続で世界選手権の決勝戦で対戦(ともに大接戦の末に松本/永原が勝利)。今後、調子を上げてくる中国、韓国勢が怖い存在となるが、東京五輪でも日本ペア同士の決勝戦は、十分に実現の可能性がある。

 青森山田高は、2012年ロンドン五輪で日本勢初の五輪メダル(銀)を獲得した藤井瑞希/垣岩令佳の母校でもあり、ほかに2017年BWFスーパーシリーズファイナルズ優勝の米元小春/田中志穂(北都銀行)らも輩出。現日本A代表で24年パリ五輪を目指す志田千陽(再春館製薬所)もOG。19年には、大竹望月/高橋美優(当時3年/2年)がインターハイで優勝し、全日本総合選手権でも高校生としては10年ぶりとなる8強進出と躍進。2人は20年から日本B代表入りしており、先輩たちの背中を追っている。

 彼女たちの成長過程に携わってきた藤田監督に、東京五輪への期待、卒業生による世界頂上決戦の感想(前編=当該記事)、優秀な日本女子代表を輩出し続けている理由、そして高校世代の発展の可能性(後編)について、話を聞いた。

藤田監督「ぜひ、日本勢対決の東京五輪決勝戦を実現してほしい」

――いきなりですが、東京五輪の決勝戦で教え子対決が実現する可能性があるということについて、どんな思いをお持ちですか

青森山田高バドミントン部で指導を続けている藤田真人監督【著者撮影】
青森山田高バドミントン部で指導を続けている藤田真人監督【著者撮影】

 あの子たちのおかげで、すごく大きな楽しみを持っています。ただ、私が2人に関わったのは、高校の3年間だけです。それ以前の指導、また社会人になってからの所属チームや日本代表スタッフの指導があってこそ、今の彼女たちの活躍があると思っています。

 福島は、パートナーの廣田選手とともに、五輪に3大会連続で選手を送り出している女子ダブルス指導の第一人者、今井彰宏監督(丸杉ブルビック)の指導を受けています。永原も、松本選手という才能に出会うことができ、北都銀行では原田利雄ナショナル強化担当や元日本代表の佐々木翔の指導を受けていますし、入社から3年間は、インドネシア人コーチのヌヌン・スバンドロさんもいました。福島、永原の2人が同じ高校出身と言っても、私だけが指導に携わったわけではありませんので、めぐり合わせに感謝しています。

 福島/廣田、松本/永原ともに、どんどん強くなっていますし、ここから他国に研究されて迎える東京五輪ということになるのでしょうけど、ぜひ、その上を行って、日本勢対決の東京五輪決勝戦を実現してほしいと思っています。

――2人が対戦した18年、19年の世界選手権の決勝戦をご覧になった感想は?

 私の立場からすれば、どっちが勝っても良いという気持ちでしたし、どっちが勝つのかというよりも、どんな戦術で戦うのか、どんな駆け引きをするのか、この試合を隅から隅まで楽しみたいという気持ちでした(両試合とも互いがマッチポイントを握る大接戦で松本/永原が勝利)。本当に両ペアが譲らない好試合で最後まで気が抜けず、勝ったと思った方が負けるというような試合でしたよね。

 世界の頂点でもこういう勝負になるのだから、ジュニア年代では、より一層、最後まで気を抜かず、諦めない姿勢が重要だなと思わされましたし、刺激を受けました。

福島は身体能力抜群、永原は吸収力の強さに素質

――彼女たちは、高校時代は、どのような選手だったのでしょうか

攻撃力と守備力を兼ね備える福島由紀。高校時代から運動能力は図抜けていたという【著者撮影】
攻撃力と守備力を兼ね備える福島由紀。高校時代から運動能力は図抜けていたという【著者撮影】

 福島は、身体能力が男子並みでした。筋肉がしなやかで、前でも横でも、ほかの選手が届かないような球に対して、もう一歩伸びて届くというようなフットワークの持ち主。足も速くて、体育祭のリレーとかでも目立つような運動能力の高い選手でした。私が見てきた中では、一番、運動能力が高くて、なかなか出会えないレベルです。

 彼女がうちに来たときの衝撃は、すごかったですね。とにかく、負けず嫌いの塊。練習でもラリーを1本も落としたくない子。相手に負けたくないという気持ちを1本1本のラリーに感じる選手でした。ただ、その分、ミスをすると自分自身に対してイライラするので、いつも「チッ」と舌打ちするような顔をしていた記憶もあります(笑)。

――能力が高いと、飛び抜けた存在になってしまう選手もいますが、彼女の場合は?

 福島は、高校時代に1学年上の市丸美里/田中志穂というペアが春(全国高校選抜大会)と夏のインターハイを優勝するほど強かったことで、ずっと高みを目指せたという部分がありました。福島は、2年のときには、すでにシングルスのエースだったのですが、篠谷菜留(NTT東日本)と組んでいたダブルスでは、市丸/田中に対して、うまく行ってもファイナルゲームにもつれる程度でまったく勝てませんでした。強い相手が身近にいる環境が、彼女たちの成長には重要だったと思います。

 永原も、進路となった北都銀行に米元/田中という日本A代表のペアがいたのが大きかったと思います。後に松本/永原も日本A代表に入りましたが、同じチームにA代表クラスが2組もいるというのは、希少ですからね。

――その永原選手は、高校時代は、どのような選手だったのでしょうか

永原和可那は、170センチの長身でパワーが武器だが、スタミナもあって粘り強い。高校時代から吸収力の高さが際立っていたという【著者撮影】
永原和可那は、170センチの長身でパワーが武器だが、スタミナもあって粘り強い。高校時代から吸収力の高さが際立っていたという【著者撮影】

 永原は、入学時から身長が165センチくらいあって、体の線は細かったですが、高さを生かして鋭角の球が打てるという特徴を当時から持っていました。福島は身体能力系のすごさが印象深いのですが、永原の場合は、内面のすごさを感じる選手でした。とにかく、誠実。めちゃくちゃ努力ができるし、理解力もあるので、同じアドバイスをしてもほかの選手とは吸収力が違いました。

 勝負所で根負けしないところなどは、私のようなコートの外に立っている人間が感じるくらいなので、対峙している相手は相当強く感じているだろうなと思いました。そういう気持ちの強さを持っている選手ですね。

――福島選手が2012年卒で、2学年下の永原選手は14年卒。彼女たちが卒業していった時期は、日本が世界のトップで戦えるようになっていく時期でした(08年北京五輪で末綱聡子/前田美順がベスト4、12年ロンドン五輪で藤井/垣岩が銀、16年リオデジャネイロ五輪で高橋礼華/松友美佐紀が金)。彼女たちが世界の頂点を争うような展開は、想像できましたか

 高校卒業時点での期待度で比べると、正直に言って福島の方が上でした。福島に関しては、世界のトップというところまでは、想像できませんでしたが、世界で戦える選手にはなると思っていました。彼女はシングルスでも強くて、高校3年生のインターハイは、決勝戦で奥原希望選手(現、太陽ホールディングス所属。17年世界選手権女王)に負けましたけど、奥原選手がいなければ(単、複、団体で)3冠という選手で、能力は間違いなく高かったですから。

 永原も気持ちの面で才能があったので、期待はしていましたが、彼女の場合は、社会人になってからの影響が大きいかもしれません。北都銀行に入って松本選手と組み、16年に日本B代表に入って国際大会を経験して成長したのは、大きな転機だったと思います。

――さらに下の世代には、20年に日本A代表に入った志田千陽選手が、松山奈未選手とのペアで24年パリ五輪を目指しています。世界トップレベルで活躍するOGがたくさんいますが、その飛躍にどんな刺激を受けていますか

青森山田高は、世界の頂点を争っている福島、永原の下の世代にも志田千陽(中央右)など女子ダブルスの有力選手を輩出し続けている【著者撮影】
青森山田高は、世界の頂点を争っている福島、永原の下の世代にも志田千陽(中央右)など女子ダブルスの有力選手を輩出し続けている【著者撮影】

 志田は、中・高で日本一になっているダブルスのエリートですから、将来の日本のエースになってほしいと期待しています。今は、彼女や福島、永原のように卒業生が世界のトップレベルで頑張ってくれていますが、彼女たちのエネルギーの一つは、後輩の現役生の頑張りだと思っています。全国大会の時期になると、今でも彼女たちOGが激励の連絡をくれますし、優勝すればお祝いのメールをくれます。今でも、このチームを応援してくれたり、気にしてくれたりしているんだなと母校愛を感じます。

 ですから、先輩たちに負けないように、現役生も頑張って勝ち続けないといけないという気持ちになれますし、また新しい卒業生が日本代表に入って活躍するというサイクルを続けられるように、頑張っていきたいと思っています。

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■藤田真人(ふじた まさと)

1979年生まれ。青森県出身。常総学院高で全国選抜大会の団体、男子複で優勝。筑波大を経て北都銀行でプレー。2006年から青森山田中・高で指導。16年から高校の指導に専念。インターハイ団体優勝に6度導くほか、12年ロンドン五輪銀メダルの藤井瑞希/垣岩令佳ら女子複の日本代表を多数育成。

スポーツライター

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。サッカーを中心にバドミントン、バスケットボールなどスポーツ全般を取材。育成年代やマイナー大会の取材も多い。

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