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クリスチャン・スレーター:「テレビドラマに出演を決めるのはサイコロを振るようなもの」

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」で再び注目のクリスチャン・スレーター

クリスチャン・スレーター(46)が、意外な形で返り咲いた。

常に何かに出てはいるものの、話題作やヒット作からは遠ざかっていた彼に再びスポットライトを当てたのは、昨年アメリカで放映開始したテレビドラマ「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」だった。近年、アメリカでは、テレビドラマのクオリティが目覚ましく向上しているとはいえ、「MR. ROBOT」を放映したUSAネットワークは、HBOやNetflixのように、すでにオリジナル番組で定評があるわけではない。しかも、主人公はハッカーで、テクニカルな言葉も出てくる。テレビでやるにはかなり知的で、リスクは高かったが、USAネットワークの賭けは、大成功した。

今年1月のゴールデン・グローブで、「MR. ROBOT」はテレビドラマ部門の作品賞を受賞。スレーターは助演男優賞を受賞し、ラミ・マレックも、受賞こそ逃したものの、主演男優部門にノミネートされた。来月のエミー賞にも4部門で候補入りし、健闘が期待されている。

スレーターの役は、とりわけ謎が多く、複雑だ。第1話で、正体不明の不気味な男として登場する彼は、回を追うごとに少しずつ正体を明かし、第1シーズンの最後に、ようやく何者だったのかがわかる。

スレーターがこのドラマへの出演を決めたのは、撮影開始の数日前。そんなぎりぎりの段階でも決意をしたのは、第1話の脚本を読んで「このキャラクターには直感的に特別なものを感じた」からだ。テレビドラマは複数シーズンに契約を結ぶ必要があり、拘束されるわりに、視聴率が悪いと、数話放映されただけであっさりと打ち切りになったりする。「テレビドラマに出演を決めるのはサイコロを振るようなもので、ギャンブルだ」とスレーターも認めるが、このギャンブルは、大当たりだった。第2シーズンを撮影中のスレーターに、このドラマに寄せる思いを聞いた。

あなたが演じるのは、タイトルにもなっているミスター・ロボット。しかし、彼がいったい何者なのか、なかなかわかりません。あなたがこのキャラクターの正体を知ったのは、いつだったのでしょうか?

(番組のクリエーター)サム・イスマイルと初めてミーティングをして、第1話の脚本を読ませてもらった時、あのキャラクターに、僕は、直感的に特別な何かを感じたんだ。それでサムに、この男は何者なのかと聞いた。彼は「本当に知りたい?」と言って、その後の筋書きや、主人公エリオットとの関係を教えてくれたんだよ。

エリオットとミスター・ロボット
エリオットとミスター・ロボット

それは、僕の想像をはるかに上回るすばらしい展開で、「これは間違いなくユニークなものになるぞ」と思った。僕は生粋のニューヨーカーだから、第1シーズンの最終回をタイムズスクエアで撮影することにも、すごく興奮したよ。緊張して、ちょっと怖いくらいだった。幸いなことに、あのシーンの準備には時間があったから、ひとりでタイムズスクエアに行って、せりふの練習をしたりしたんだよ。ほかの人は、狂った男が何をしているんだと思ったかもしれないね(笑)。

ミスター・ロボットはテクノロジー関係にとても詳しいという設定ですが、あなたにも、もともとそういう知識はあったのでしょうか?

いや、あの世界についてはあまり知らなかった。しかも、僕がこれに出ると決めて、最初のシーンを撮影するまで、3日くらいしかなかったんだよ。その上、初日は、専門用語がたっぷり出てくるシーンを、8ページ分くらい撮ることになっていた。せりふの意味が全然わからなかったから、グーグルやウィキペディアを使って、できるかぎり勉強したんだ。現場入りした時、少しは感心してもらえるかと思っていたら、撮影の前日にテクニカルアドバイザーの人と会うことができて、僕が学んだことは全部古いと言われたよ。それだけ、日々変化しているということだよね。おもしろいなとあらためて思ったよ。

しかも、このドラマに出てくることは、かなりタイムリーですよね。第1シーズンの最終回は、そこに出てくるのと似たことが実際に起こってしまったせいで、放映がやや延期されたほど。そしてハッキングは、最近、ますます深刻な問題になってきています。

第1話を撮影した時、僕は、「こういうことは実際に起こり得るのかもしれないな」くらいに思っていた。そうしたら、ソニー・ピクチャーズのハッキングが起こって、大きなニュースになった。ウォルマートやターゲットでもハッキングがあったよね。僕らがやっていることと現実がどんどん重なっていったので、「USA TODAY」紙なんかが、サムにコメントを求めるようになったほどだよ。サムは「僕はテレビドラマの脚本を書いているだけだから」と答えたみたいだけど。

この知的で複雑で暗いドラマが、ここまで人々に愛されたことを、どう感じていますか?

テレビドラマに出演を決める時、それがどう転ぶのか、まったくわからない。サイコロを振るようなものだ。ギャンブルだ。僕にできるのは、現場に来てベストを尽くすこと。その結果、こんなふうに受け入れられたんだから、本当に素敵。人が夢中になってくれるものを作っているというのは、うれしいことさ。サムですら、ここまで成功するとは思っていなかったと思うよ。カルト的なドラマを作って、2、3シーズン続けばいいと考えていたんだと思う。こういったテレビドラマの良いところは、時間をかけてキャラクターを築き上げていけるところだ。これは1話完結物ではないし、長い時間をかけて、ひとつの物語を語る。サムは、これを、4、5シーズン物にすると考えているらしい。僕も、これを、ひとつの長い映画のように考えているよ。

しかも、第2シーズンは、映画のように、全シーズンをまとめて一気に撮影しているのだとか?テレビ界では考えられない、画期的なことですよね。つまりそれだけネットワークが今作に自信をもっているということかと想いますが。

第1シーズンの撮影が終わった後、脚本家たちは1ヶ月くらい休みを取った。その後、全員が集まって、次のシーズンのストーリーを練った。そして4、5ヶ月かけて、全シーズン分の脚本を書いたんだよ。こんなのは、テレビにおいて、ものすごく珍しいことだ。普通、テレビは、1話ごと書くし、毎日新しいページをもらったりするもの。いつもぎりぎりなんだ。でも、今回は、全シーズン分の脚本が、いっぺんに届いた。電話帳くらい分厚かったよ。信じられなかったし、感心したよ。僕ら俳優は、2日かけてリードスルー(全員で集まって座り、せりふ読みをすること)をした。

共演のラミ・マレックと
共演のラミ・マレックと

僕らはみんな、物語がどういうふうに進むのかを知っている。でも、大変だよ。同じ日に、第3話と第7話と第9話のシーンを撮影したりするんだから。あちこち飛ぶんだ。今、自分のキャラクターがどこにいるのかを、正確に認識してやらないといけない。幸い、サムが、その都度みんなに確認してくれるけど。

このドラマに出た今、テクノロジーに関してもっと用心深くなりましたか?

僕自身に関してというよりも、自分の子供たちに対してね。わが子がネットを通じて誰と話しているのか、すごく注意するようになったよ。このドラマを通じて、「TeenSafe」というものの存在を知った。インターネットはすばらしいが、世の中を知らない若い人を騙そうとする悪い人が利用したりもする。親は責任をもって管理すべきだ。少なくとも子供が18歳になるまでは。もちろん、わが子には、僕がそうやって監視していることを伝えてあるよ。

クリスチャン・スレーター Christian Slater

1969年ニューヨーク生まれ。「薔薇の名前」(1986)でショーン・コネリーの弟子を演じ、「タッカー」(1988)、「ヤングガン2」(1990) などを経て、トニー・スコット監督の「トゥルー・ロマンス」(1993)に主演。その後、「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」(1994)、「ザ・コンテンダー」(2000)などにも出演。最近の作品に「ニンフォマニアック」(2013)など。彼のふたりの子供を産んだ女性とは2007年に離婚。2013年に再婚した。

「MR. ROBOT/ミスター・ロボット」

エリオットは、社交性に欠けたニューヨーク在住の男。昼間はサイバーセキュリティの会社で働くが、夜にはハッカーとして密かに活動している。彼のことを気遣ってくれるのは、職場の同僚で、昔からの知り合いであるアンジェラ(ポーシャ・ダブルデイ)だけ。そんな彼は、サイバーを通じた大きな革命に巻き込まれていくことに。第1シーズンはAmazonプライムにて見放題独占配信中。第2シーズンも先月29日より配信開始している。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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