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アジア大会から見た中国野球の未来―TOKYO2020に向けて再始動したチーム・チャイナ―

阿佐智ベースボールジャーナリスト
アジア大会準決勝後、台湾代表とエールを交換する中国代表

国際大会で顕在化した日本野球の課題

 今年の夏の終わりは、アジア野球の中での日本の立ち位置が示されるイベントが2つあった。

 

 9月に入って行われたU18アジア選手権では、あれだけ甲子園が盛り上がった後に行われたこともあって、韓国、台湾に次ぐ銅メダルという結果は、高校野球ファンを失望させた。優勝できなかったことは残念だが、あの短期の戦いをもって現在の高校野球のあり方や根本的な制度、育成法について語るのは少々大げさではないだろうか。甲子園をゴール地点にしている日本の高校生と、ある程度あの大会に標準を絞っていた韓国、台湾とを比較してU18の強化のあり方を云々するのは的を得た議論にはならないと思う。メンバーの人選などについては今後考えていくべきではあろうが、今回の順位については、圧倒的な力の差から来たものではなく、むしろアジア野球を牽引すべきこの3か国の実力が拮抗している現実は、野球の国際的発展という視点からは好ましいととらえるべきだろう。

 ただ、この大会を通じても、日本の課題が、打力、とくに長打力にあることは浮かび上がったと言っていいだろう。「も」と表現したのは、この大会に先んじて行われたアジア大会においても、社会人侍ジャパン打線は、格下相手には猛打を爆発させたが、韓国の一流ピッチャー相手には手も足も出ない状況だった。この大会もまた、韓国はトッププロ、台湾は社会人に若手プロの混成、日本は社会人代表と、それぞれの構えが違っていたので、韓国の優勝は当然の結果と言えるだろうが、少なくとも、日本の社会人野球でプレーしていた選手が、母国に帰って草創期の両国のプロリーグを支えた時代は、もはや昔話でしかないことをこのアジア大会は示したと言える。

アジア野球界の現状

 アジア大会、U18アジア選手権とも、大会のフォーマットは同じようなものだった。1次ラウンドで2グループに分かれリーグ戦を行い(アジア大会はこの前に予選ラウンドがあった)、この上位、下位それぞれ2チームずつが別グループと対戦する2次ラウンドに進む。ここでは、上位グループ、下位グループはそれぞれ、1次リーグで未対戦のチームと対戦する。その上で、同グループとの第1,2ラウンドでの通算成績により順位が決まり、上位グループは、最後に1,2位、3,4位チームによるメダルを賭けたプレーオフに臨む、というものだ。実力差のあるアジア野球の現状を考えれば、非常に理にかなった方法だろう。

 プロを含めて考えても、現在のアジア野球は、日韓のトップ争いに台湾がなんとか食い込もうとし、そこからかなり離れた位置に中国が来て、せめて台湾相手の「金星」を狙うというのが、トップグループの構図で、その後にパキスタン(U18は、ビザ取得の関係で直前に参加取りやめ)、フィリピン(アジア大会、U18とも不参加)が頭ひとつ出るかたちでその他の国が続くという状況である。この夏の2大会はこの構図を如実に反映し、2位3位がアジア大会とU18で入れ替わった以外は(日本はアジア大会銀メダル、U18は銅メダル)、韓国の金、中国の4位は変わらなかった。

 アジア全体から見れば、4強ということになるが、中国と他の3か国の実力差はまだまだ大きい。メダルをとった上位3か国以外は、「フル代表」で臨んだと考えられるアジア大会では、中国は、第1ラウンドで、パキスタン、タイをコールドで下すものの、逆に日本にはコールド負け、第2ラウンドの韓国戦でも10対1で大敗している。かろうじて台湾には1-0のスコアであわやと思わせたが、リベンジ戦となる3位決定戦では10対0のコールド負けでメダルがまだまだ遠い現実を突きつけられる結果となった。

中国のラインナップには、昨年のWBC代表の名もあった
中国のラインナップには、昨年のWBC代表の名もあった

再び動き出した「アジア4番手」、中国

 「『ビッグ3』の壁はまだまだ厚いね」

 3位決定戦の敗戦後、中国監督を務めたジョン・マクラーレンは開口一番、こう言った。 

元マリナーズの監督で現在は中国代表を指揮するジョン・マクラーレン
元マリナーズの監督で現在は中国代表を指揮するジョン・マクラーレン

 66歳になる彼は、1970年代に7シーズンをマイナーリーグで過ごしたが、3Aまでしか登り詰めることはできなかった。24歳で早々に自分の能力に見切りをつけた彼は、翌年から指導者の道を歩み始める。その後、指導者としてメジャーの舞台に立ち、2006年にはWBC中国代表のコーチを務め、2007年のシーズン途中から2008年のシーズン途中にはイチローのいたシアトル・マリナーズを指揮した。その長いコーチングキャリアの中で、MLBによる野球普及活動の一環として国外での指導活動も行い、2012年にはイタリアでのヨーロッパアカデミーを指導している彼に私も話を聞いたことがある。彼のアメリカ国外での主なフィールドは中国で、2013年と2017年のWBCでは監督として代表チームを率いている。

 中国野球は、すでに「中国野球はどこに行ったのか?」1,2 (https://news.yahoo.co.jp/byline/asasatoshi/20180408-00083699/, https://news.yahoo.co.jp/byline/asasatoshi/20180419-00084072/)において論じたように、北京五輪を目標に国内リーグを整備し、メジャーリーグとの提携のもと指導者を招き、五輪本番と翌年のWBCでの台湾戦の勝利へと結実させたが、その後、野球が五輪競技から外されるに至って急速に情熱を失っていった。ここ数年は、国内リーグが正常に行われていないような状況だが、ここに来て、長年の普及活動が功を奏したのか、大学野球部が急増するなど追い風が吹いている。MLBは無錫に設置した常設のアカデミーの他、現地不動産会社との提携の下、ジュニアレベルの小規模アカデミー(デベロップメントセンター)を国内各地に設置している。そして、今年の6月にはミルウォーキー・ブリュワーズがデベロップセンター出身の16歳、ジャオ・ルン選手と契約するなど、これまで9人の中国人がMLB球団とマイナー契約している。

大胆な強化策

アメリカ独立リーグで今シーズン、先発投手として14試合に登板、4勝6敗、防御率4.65の成績を残したメン・ウェイピャン(テキサス・エアホッグス/広東レパーズ)
アメリカ独立リーグで今シーズン、先発投手として14試合に登板、4勝6敗、防御率4.65の成績を残したメン・ウェイピャン(テキサス・エアホッグス/広東レパーズ)

 そして、東京五輪に向けて、中国野球は奇想天外な強化策に出た。なんとナショナルチームごと、アメリカのプロリーグに参戦したのだ。

 北京五輪前も、中国は例年夏までに国内リーグを終え、そこで選抜した代表チームを日本やアメリカに武者修行に行かせ、日本のプロ球団のファームや、アメリカ独立リーグのひとつ、ゴールデン・ベースボールとのエキシビションゲームを行ったことはあるが、今回は、チームごとアメリカ独立リーグ参加したのだ。

 中国国内でプロバスケットボールチームも保有する首鋼集団グループの傘下企業、ショウガンスポーツをスポンサーに、ナショナルチームは、「ペキン・ショウガン・イーグルス」を名乗り、監督にマクラーレンを三度迎えた。そして、このナショナルチームを、ほぼそっくりそのまま、今シーズン、独立リーグナンバー2と言われているアメリカン・アソシエーションに参戦を決めた。

 但し、地域密着型のフランチャイズ制が確立しているアメリカで外国人チームが本拠をもたない「トラベリングチーム」として活動するのは難しい。そこで、リーグの1球団、テキサス・エアホッグスがナショナルチームの選手を受け入れるというかたちをとった。しかし、メジャー傘下のマイナーで言えば、メジャー予備門とされる2Aレベルに匹敵する(実際には、個々の選手の力量はそれより少し低いが)とも言われているこのリーグで、中国ナショナルチームが単独でリーグ戦を戦えるかは未知数である。そこで、レギュラーポジションの半分ほどは、プロ経験豊富なアメリカ人選手で埋め、44人の中国代表選手が、入れ替わり立ち代わりロースター入りし、残りのポジションでプレーするという方法で、経験を積むという方法をとった。このリーグ試合数は、4か月で99試合。代表チームとともにチームに合流したマクラーレン監督の下、中国人選手の育成に力点を置いたリーグ戦は、25勝74敗の勝率.253という地区首位と45.5ゲーム差というダントツの最下位に終わったが、これまで最大でも30試合ほどのシーズンしか経験してこなかった中国人選手とって非常に効果的な強化策となった。

TOKYO2020に向けて

台湾戦の初戦で好投したガン・クアン(四川ドラゴンズ)。テキサスでは勝ち星は挙げることができなかったものの、13試合に先発した
台湾戦の初戦で好投したガン・クアン(四川ドラゴンズ)。テキサスでは勝ち星は挙げることができなかったものの、13試合に先発した

 今回のアジア大会の代表チームのロースター24人のうち、アメリカでプレーしていた選手は22人。アメリカでのリーグ戦がまだ行われている中、選抜された選手が監督とともに「民族大移動」してジャカルタに乗り込んできた。それでも、この中国の「プロ集団」も『ビッグ3』の壁を突破することはできなかった。

 課題は、『ビッグ3』相手に10失点以上が3度という投手力にあるのは間違いない。

 唯一接戦となった台湾との初戦では、アメリカで先発として勝ち星なしの6敗に終わったものの、中国人投手最多の70イニングを投げ、4.24の防御率を残したガン・クアンが5回1/3を1失点と踏ん張り、リリーフで21試合に登板し、大きく縦に曲がるカーブを武器に防御率2.11の好成績を収めたキ・シン、そして同じくリリーフとして最高の1.42の防御率を残したジェン・チャオクンが無失点で切り抜け、『ビッグ3』相手の戦いに光明を見せた。しかし、肝心の3位決定戦では、先発投手として4勝を挙げ(防御率4.65)、アメリカで勝ち頭となったメン・ウェイピャンが2回途中3失点で降板してしまうと、台湾打線を止めることができなかった。

アメリカでは好成績を残し、台湾との初戦は好投したキ・シン(北京タイガース)だったが、3位決定戦では3番手として登板したものの、3イニングを3失点と流れを変えることはできなかった
アメリカでは好成績を残し、台湾との初戦は好投したキ・シン(北京タイガース)だったが、3位決定戦では3番手として登板したものの、3イニングを3失点と流れを変えることはできなかった

 中国投手陣全体のアメリカでの防御率を見ると、5.91。その結果がそのままアジア大会にもあらわれたと言えるだろう。

 今後2020年まで、プロ参加のトップレベルの国際大会としては、10月にU23ワールドカップ、来年秋には第2回のプレミア12が控えている。プレミア12では、アジア、南北アメリカのそれぞれ最上位2か国が東京オリンピックへの切符を手にする。現在、中国の世界ランキング22位。U23にも出場しない状況では、プレミア12の出場は不可能だろう。となれば、中国は、アジア予選を勝ち抜いた上での、大陸間最終予選で最後のひと枠を取りに行くしか東京への道はない。開催国の日本が出場を決めている関係上、プレミア12での1枠は韓国と台湾の争いとなる。中国は、そのうちの出場権を逃した方と、大陸間最終予選の切符を奪い合わねばならない。つまり、『ビッグ3』の牙城を崩さねば、オリンピックへの道はないのだ。当面のターゲットはやはり台湾ということになるだろうが、プロが本格的に参加するとなれば、中国にとってさらに高い壁となる。

 しかし、中国はトップレベルの大会において、北京五輪、第2回WBCと、過去2度、台湾を下している。『ビッグ3』の牙城を中国が崩した時、アジア野球の新たな扉が開かれる。

(写真は全て筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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