U-17アジアカップ決勝は日韓戦に 対戦相手の韓国 選手たちの「不思議な所属チーム」
久々のサッカー日韓戦が実現することになった。
タイで行われているAFC U-17アジアカップ2023。
7月2日に行われる決勝でU-17日本代表とU-17韓国代表が対戦することとなった。
29日の準決勝、韓国―ウズベキスタン戦を終えた後、韓国メディア側も「宿命の韓日戦」(朝鮮日報)、「大会史上初の決勝韓日戦」(スターニュース)など強い反応を見せた。
元Kリーガーでオーストラリアなどでもプレー経験のあるピョン・ソンファン監督率いるチームは、ここまで4試合で14ゴール4失点を記録している。
- 決勝の韓日戦は「無条件に勝つ」と地上派「MBC」
それぞれ4ゴールずつを挙げている1トップのキム・ミョンジュン(浦項製鉄高)、MFユン・ドヨン(忠南機械工業高)の2人が大会のトップスコアラーとして活躍。監督自ら「一度も変えたことがない」というチームのスタイルは4-1-4-1をベースとした、「クリエイティブなサッカー」だ。
このチーム、ちょっと掘り下げておきたい部分がある。それは彼らの「所属チーム」についてだ。30年近いスパンのなかでどういった位置にあるのか。その点が示されているからだ。
選手の所属チームに見える「韓国サッカーのバックグラウンド」
日本側の中継映像(7月2日21時/DAZN)では、韓国選手たちはこう紹介されるだろうか。
「全メンバー23人のうち2人がクラブチームの所属で、残りは高校チーム」
間違いではない。
ただ、大韓サッカー協会公式サイトでの表記は少しだけ違う。
蔚山現代高/蔚山現代U-18
浦項製鉄高/浦項U-18
梅灘高/水原三星U-18
五山高/FCソウルU-18
永生高/全北現代U-18
忠南機械工業高/大田ハナU-18
江陵高/江原FCU-18
仁川大建高/仁川ユナイテッドU-18
…といった表記がなされている。
えっ? 二重登録?
これ、何なのかと言うと「Kリーグ1部、2部のアカデミー組織を高校サッカー部として運営している」という形態だ。
- 大韓サッカー協会会長杯全国高等学校サッカー大会の決勝で「五山高」「現代高」として対戦するFCソウルと蔚山現代のU-18チーム。胸には高校名、エンブレムはプロチームと同じものを付けている
Kリーグクラブ側が高校側と提携して「サッカー部」を設立。学校側のインフラを活用するともに、指導者を派遣する。
かつては名門校サッカー部にプロチームから指導者が派遣され、アカデミー化されたケースも多かった。しかし最近では現在はKクラブ側が親会社の系列校などを提携先に選び、アカデミー組織として運営するケースが増えている。
だから今回の韓国U-17代表でも、高校所属の選手の大部分が「Kリーグのアカデミー」としてプロの指導者たちの指導を受けている。
つまり今回のU-17韓国代表の所属チームの構成はこれが正確だ。
△23人中、21人が高校チーム所属
◎23人中、20人がクラブチーム所属
クラブチーム所属の20人のうち1人だけが街クラブ(龍仁市サッカーセンター)。残りの3人が高校チームに所属、というのがより細かい分類だ。
「過渡期のシステム」のはずが15年続き…
Kリーグでは03年に最初に浦項スティーラースが傘下のアカデミーを設立し、08年からは各クラブが育成部門を所有することが義務化された。
この「高校チーム+Kリーグアカデミー」のシステムは、いわば過渡期のシステムのように見えた。なぜならプロチームにとってはすぐに採算が取りにくい傘下アカデミーの運営を、「指導者の派遣」だけで済ませられる。インフラは学校側のものを活用すればいいのだ。
実際に摩擦もあった。FCソウルは06年にホン・ミョンボも輩出した名門・東北高をユース化したが考えの違いが埋まらず。ソウル川は13年に五山高校へと提携先を変えた。また2014年には「Kリーグ提携チーム」が育成世代に入ってくることに対して、全国の選手の父兄会がKリーグ事務所の前でデモを起こすこともあった。「これでは高校世代からプロに受けるのはKリーグ提携チームだけになる。若い選手たちの可能性が削がれる。不公平」というものだ。
- 「Kリーグジュニア」としてアカデミー組織だけのリーグ戦も開催されている
韓国メディア「SPORTS G」のチョ・ソンリョン記者はこう説明する。
「いわば中小企業(既存の高校チームたち)が必死に競争しているところに大企業が10ほど参入してくる、という構造でしたから…」
Kリーグ提携チームは時に「高校チーム」として高校の大会にも出場してきたのだ。
しかしそれでも「Kリーグ提携チーム」の形態は08年から15年近く経っても無くなっていない。変化がないようにも見えるが…。
「この制度のメリットはあると思います。近年、韓国のU-20代表がW杯で2回連続ベスト4入りしていますが、制度の影響はあるでしょう。一番大きいのが韓国社会に根付いていた教育のパラダイムを変えた、ということです。それまでの学校サッカー部では、受験勉強と同じく「いい成績を残していい大学に行く」ことを目指してサッカーをやってきた。それが「プロにどうやって行くのか」を考えるようになってきたのです」(「SPORTS G」のチョ・ソンリョン記者)
同記者はこうも続ける。
「今回のU-17代表の選手たちは『基礎技術と戦術が過去と比較して驚くほど異なるチーム』と評価されています。先のU-20代表もそういった評価を受けた選手が多かったです。過去の韓国サッカーは、一人のスーパースターが多くを引っ張るチームでした。時にパク・チソンのチームであり、時にソン・フンミンのチームであり。しかし、最近の年代別代表チームを見ると、一人のスーパースター以上に全体的に選手のレベルの平均値が上がった印象を強く受けます」(同)
さて、これがどういった方向に向かうだろうか。日本からすると、既存の「身体的強さ」「スピード」「精神力」といった強みがあり、「突出したスター」のいた韓国が脅威であり続けたのは確かだが…。
- グループリーグではカタールに6-1で勝利した
「変化の時代」を過ごす相手との一戦
2日に日本U-17代表と対戦する韓国は、歴史の中の過渡期にあるチームだ。
長らくの「過渡期」は少しずつ「提携」から「独立」へと移行しているという。現在はKリーグ1部、2部全23クラブのうち、7チームが独立運営に。2016年に韓国政府教育省が『学校教育振興法』の施行を機に、学校のサッカー部の寮制度を不法と規定したことなど、「学校の枠」での強化が逆に難しくなってきているためだという。
そういった韓国側の流れもあるなかで、日韓の代表チームの戦績はここ2年、日本の圧勝が続いている。
2021年3月(A代表) 日本3-0 韓国
2022年06月(U-16代表) 日本3-0 韓国
2022年06月(U-23代表) 日本3-0 韓国
2022年07月(A代表) 日本3-0 韓国
相手は「変化の時代」にありながら、日本にはもうこれ以上負けられない、という意識で向かってくる。7月2日の日韓戦、もうこれ以上ないほどの決勝カードなのだ。