史上最高額が、ひと夏に2度更新。カウンターへの傾倒とGKの価値が上昇した理由。
今夏の移籍市場においては、高額な移籍金によるGKの補強が目を引いた。
まず話題を呼んだのは、リヴァプールのアリソン・ベッカー獲得である。昨季チャンピオンズリーグ決勝でロリス・カリウスが痛恨のミスを犯してレアル・マドリーに敗れたリヴァプールだが、移籍金7300万ユーロ(約94億円)という大金をはたいてアリソンを確保した。アリソンは昨季、セリエAでセーブ率79%を記録。これはリーグ戦1位の数字だった。
しかしながら、話はここで終わらない。今度はビッグクラブ間で「玉突き移籍」が起こったのだ。レアル・マドリーがティボ・クルトゥワを、チェルシーがケパ・アリサバラガを獲得した。マドリーは3500万ユーロ(約45億円)、チェルシーは8000万ユーロ(約103億円)の移籍金を支払っている。
これまでGKの移籍金最高額はユヴェントスが2001年夏にジャンルイジ・ブッフォン獲得のために支払った、5400万ユーロ(約69億円)だった。だが、この夏にそのレコードは2度更新される運びとなっている。
なぜ、GKの「価格」が高騰したのだろうか。それはロシア・ワールドカップの影響に他ならない。
■セットプレーとカウンター
ロシアW杯では、フランスが20年ぶりの優勝を飾った。しかし、その戦い方は、ジネディーヌ・ジダンを中心に据えた1998年のチームとは、大きく異なっていた。
キリアン・ムバッペ、アントワーヌ・グリーズマンが重宝されたのは、彼らが華麗なスルーパスを出したり、ドリブルで5人を抜き去れるからではない。ムバッペはカウンターの先鋒として、グリーズマンはプレースキッカーとして、ディディエ・デシャン監督の下で確かな役割を担った。
カウンターとセットプレー。ロシアW杯におけるセットプレーによる得点率は43%だった。優勝したフランスの失点数(1試合平均失点数0,85点)を見れば、守備に重きを置いていた事実が浮かび上がる。フランスだけではない。クロアチア(1試合平均失点数1,25点)、ベルギー(1試合平均失点数0,85点)、イングランド(1試合平均失点数1,14点)と、上位に進んだ国はいずれも失点が少なかった。
当然、この傾向は2018-19シーズン以降に反映される。
守備の規律やDF陣の総合力を見逃してはならない。ただ一方で、単純に、上位に進んだチームはGKのレベルが高かった。ベルギー代表のクルトゥワ、フランス代表のウーゴ・ロリス、イングランド代表のジョーダン・ピックフォード、クロアチア代表のダニエル・スバシッチ、いずれも要所で好セーブを見せてチームを救った。
昨季チャンピオンズリーグを制したマドリーがロシアW杯で最優秀GKに選出されたクルトゥワの獲得に動いたのは、何か示唆的なところがあった。
■異なるタイプ
ジョゼップ・グアルディオラ監督はバルセロナ時代にビクトール・バルデスを、バイエルン・ミュンヘンの時にはマヌエル・ノイアーを重宝した。
マンチェスター・シティではクラウディオ・ブラーボを獲得。2番手のGKにされたジョー・ハートは最終的に移籍することになった。ブラーボは当初、プレミアリーグの空中戦に慣れず、目を覆うようなミスを繰り返して苛烈な批判に晒された。グアルディオラ監督がそういった状況を予想していなかったわけではないだろう。だがリスクを冒してでも、グアルディオラ監督はビルドアップに参加できるGKを補強することを望んだのだ。
その後、エデルソン・モラレスを獲得したグアルディオラ監督だが、GKを重視したのはポゼッション率を高めるためである。ボールスキルに秀でるGKを集めていたのは明らかだ。最後尾の選手が、攻撃の第一歩になる。それがグアルディオラ監督の考えだ。
「ストッパー」がどこにいるか、という問題だ。グアルディオラ監督はバルセロナを率いていた頃、その役割を中盤に求めていた。攻守の切り替えを早くする。カウンターを未然に防ぐ。セルヒオ・ブスケッツが悉く攻撃の芽を摘んでいた。
だがカウンターは日進月歩の勢いで鋭さを増している。グアルディオラ的な考え方では、最早相手の速攻は食い止められない。ゆえに、欧州の頂点を狙うチームは、迅速に動いてGKを補強した。ファイナルサードの部分で踏ん張れるかどうかが、勝敗を決すると読んだのである。
ポゼッションを重視したGKか、セービングに特化したGKか。その衝突の行方もさることながら、新たな戦術への傾倒が、本当の意味で守護神の価値を高めたのかどうか。今季の結果で、その答えが明示される。