【落合博満の視点vol.19】神聖なる制服・ユニフォームはそれでいいのか
野球選手を取り巻く環境は日進月歩だ。スポーツ医学、グラブやバットをはじめとする用具、そして、選手のもうひとつの顔ともいえるユニフォームも例外ではない。現在、プロでは裾の広いロングパンツを着用している選手が多いが、あのタイプは落合博満が草分けだ。足に故障を抱えた1990年代初めに医師からアドバイスを受け、メーカーに依頼して裾のゴムを取った。当時は「パジャマか」と揶揄されたが、「足の血流をよくして、故障の原因を軽減させるのが目的。見栄えは二の次だ」と受け流した。
素手の感覚を大切にしたいと、落合はバッティング・グラブも使わなかった。だが、日本ハムに在籍していた43歳の時、グリップ感がよくなるとメーカーから勧められ、オープン戦の間だけ使っていたことがある。技術と同様に、用具やユニフォームにも繊細な感覚を持っている落合は、現代のユニフォームに関する考え方に、いくつか懸念を抱いているという。
代表的なのは、着用するユニフォームの多さだ。プロはホームとビジターのほかに、球団が設ける“○○デー”などイベントに合わせた色やデザイン、親会社が変わったチームは、かつての親会社時代の懐かしいユニフォームを着ることも珍しくない。
「私が中日で監督に就任した時、白井文吾オーナーからユニフォームのデザイン変更を求められたけど、会社の意向を聞いたら、中日新聞社のコーポレートカラーのブルーにしてもらいたいと。会社にも球団にも歴史と伝統があるし、私に言わせれば、野球人にとってのユニフォームは神聖なる制服でしょう。シーズン中にコロコロ変わるのは、いかがなものかと思うよ。それに、実名を出して悪いけど、オリックスが阪急のユニフォームを着ちゃマズいでしょう。前身球団かもしれないけど、現在は阪急阪神ホールディングスなんだから、他球団の会社になっちゃう。懐かしいユニフォームを着れば、歴史を大切にしていることにはならないと思う」
実際、落合が監督を務めていた時も、選手会長から限定ユニフォームの製作を提案された。着用後はチャリティ・オークションの対象にするプランもあるという。
「それは悪いことじゃないから、やろうかと言った。でも、新たなユニフォームを作る予算は球団にはないから、自分たちで出さなきゃいけないよ、と言ったら、やめましょうとなった。営業から要望が来たこともあったけど、限られた予算の使い方がそれでいいのか、ということもしっかり考えなければいけないと思う」
社会人チームのユニフォームの多さにも驚かされた
落合が指摘するのは、プロだけではない。ゼネラル・マネージャーとしてアマチュア選手の視察に出向いていた頃、社会人や大学、高校でも強豪校は、練習試合では公式戦と異なるユニフォームだったのには驚かされたという。特に社会人は、ホームとビジターのほかにも何種類か用意しているチームがあり、毎試合ごと誰かが間違えるとマネージャーが話していたチームもある。
「社会人は、それこそプロ以上に会社を背負っているのだから、練習試合で地元のファンが観戦していても、いつものユニフォームで選手の顔と名前を覚えてもらい、スカウトにも印象づけたほうがいいと思う」
そんな落合に、最近のユニフォームは昇華プリントなどの技術があり、単価が下がったことや、連戦で洗濯が大変になる期間もあるので、支給数を増やすという現場の意見を伝えた。
「安いのと数が必要なのはわかった。ならば、ホームとビジターの同じものを5枚ずつでも10枚ずつでも作ればいいだろう。関連のないデザインのものを着る理由にはならない」
そして、こう結ぶ。
「アマチュアでは、プロが使用している裾の広がったロングパンツを禁止しているケースもある。見栄えがよくないって言うけど、あれは故障やケガから体を守るために作られたんだ。最近は、丈の短いパンツを、長いソックスで覆うようなスタイルがあるでしょう。あれを投手がやると、踏み出した足のヒザが見えていることもある。オールド・スタイルって言うけど、ヒザが剥き出しになるなんて危ない」
多くの競技で、ユニフォームはスタイリッシュになった。もちろん、選手のパフォーマンス向上につながる設計にもなっている。さらに、多様なデザインが可能になったからこそ、落合は「そのチームは、そのユニフォームでいいのか」を歴史や伝統、本来の意味での機能性の面からも考えるべきではないかと投げかける。