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『温泉むすめ』がご当地Vチューバーとコラボ メタバースが持つ「地域共創」の可能性

河嶌太郎ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)
鳥取県倉吉市の「ラーメンつばさ」。3作品以上のご当地作品のグッズが寄贈されている

 地方創生において、キャラクターを用いることはいまや当たり前になりつつあります。2000年代後半の「聖地巡礼」や、「ゆるキャラ」などに代表される動きから端を発していますが、いまでは軽く数千体を超えるキャラクターが全国各地を彩っています。

 鉄道から灯台まで、様々なものがキャラクターとして描かれており、地域を代表する顔になっているものもあります。中でも、全国規模で大々的に展開されているコンテンツの一つに、『温泉むすめ』があります。

『温泉むすめ』とは?

神戸市の有馬温泉の温泉むすめ・有馬輪花(CV:本宮佳奈)。2017年10月から有馬温泉の特別観光大使も務め、19年8月から神戸市の公認キャラクターに認定されている
神戸市の有馬温泉の温泉むすめ・有馬輪花(CV:本宮佳奈)。2017年10月から有馬温泉の特別観光大使も務め、19年8月から神戸市の公認キャラクターに認定されている

 『温泉むすめ』とは、主に日本各地の温泉地を女性キャラクターに仕立てた作品で、2024年5月時点で127「柱」のキャラクターがいます。「柱」というのは、キャラクターが「日本の各温泉地に宿る下級の神さま」という設定のためで、言うなれば温泉地の「擬神化」コンテンツとも言えます。この温泉地の神さまでもある「温泉むすめ」が、全国の温泉地に再び活気を取り戻すべくアイドルとして奮闘する物語となっています。

『温泉むすめ』全国マップ。127柱のキャラクターが全国と台湾で展開されている(エンバウンド提供)
『温泉むすめ』全国マップ。127柱のキャラクターが全国と台湾で展開されている(エンバウンド提供)

 「アイドル」とあるように、単にキャラクターとして展開しているだけでなく、127柱のキャラクター全員に担当声優がついています。声優によるボイスドラマの展開のほか、楽曲展開や音楽ライブ展開もしています。18年8月から19年9月末までスマートフォンゲームの展開もされており、単なるキャラクターコンテンツに留まらない多様な展開をしています。

南は沖縄県の西表島まで温泉むすめがいる。画像は日本最南端の温泉と言われる「ラ・ティーダ西表リゾート」に設置されている西表島八重夏(CV:田村響華)の等身大パネル
南は沖縄県の西表島まで温泉むすめがいる。画像は日本最南端の温泉と言われる「ラ・ティーダ西表リゾート」に設置されている西表島八重夏(CV:田村響華)の等身大パネル

 東日本大震災から日本を盛り上げるべく、『温泉むすめ』プロジェクトが立ち上がったのは16年11月。群馬県の草津温泉、神奈川県の箱根湯本温泉、仙台市の秋保温泉、松山市の道後温泉、北海道の登別温泉、岐阜県の下呂温泉、神戸市の有馬温泉、大分県の由布院温泉の、8温泉地9柱のキャラクターから始まりました。

福島市の飯坂温泉の特別観光大使を19年9月から務める飯坂真尋(CV:吉岡茉祐)
福島市の飯坂温泉の特別観光大使を19年9月から務める飯坂真尋(CV:吉岡茉祐)

 その後も音楽ユニットの追加や、18年のゲーム化に伴いキャラクター数を大きく増やしたほか、近年も徐々に全国の温泉地でキャラクターを増やしています。19年から22年まで観光庁による後援を受けるようになっており、20柱以上の温泉むすめが温泉地の観光大使などを務めています。

コロナ禍で地域密着になった『温泉むすめ』

飯坂温泉観光協会(福島市)の一画。飯坂温泉では、コロナ禍以降3回もミニライブ&トークイベントが開催されている。「聖地」度が特に高い場所の一つだ
飯坂温泉観光協会(福島市)の一画。飯坂温泉では、コロナ禍以降3回もミニライブ&トークイベントが開催されている。「聖地」度が特に高い場所の一つだ

 『温泉むすめ』は、当初はアイドルコンテンツとしての色合いが強く、音楽展開を積極的にしていました。イベントの開催地も東京など都市部のものが多く、その内容も声優による音楽ライブも少なくありませんでした。ところが、その展開も19年いっぱいで終わり、現在に至るまで都市部のコンサート会場でのイベントは開かれていません。

福島県郡山市の磐越西線・磐梯熱海駅に設置されている磐梯熱海萩(CV:津田美波)が案内する観光案内サイネージ
福島県郡山市の磐越西線・磐梯熱海駅に設置されている磐梯熱海萩(CV:津田美波)が案内する観光案内サイネージ

 理由は20年に始まったコロナ禍です。『温泉むすめ』のプロデューサーで、運営会社のエンバウンドの代表を務める橋本竜さんは、当時を「倒産の危機だった」と振り返ります。

新潟県十日町市の松之山温泉の里山ビジターセンターで販売されている温泉むすめ・松之山棚美(CV:石原夏織)のグッズ
新潟県十日町市の松之山温泉の里山ビジターセンターで販売されている温泉むすめ・松之山棚美(CV:石原夏織)のグッズ

「コロナになるまで、『温泉むすめ』プロジェクトの主な収益源はイベントによる興行収入でした。ところがコロナ禍でそれがゼロになってしまいました。この時支えとなったのが、19年末に実施した投資型クラウドファンディングでした。この時11日間で4000万円の資金が集まり、これによって何とかコンテンツを続けることができた形です。このご支援がなければ『温泉むすめ』は今頃なかったかもしれません」

松江市玉造温泉の「玉造温泉ゆ~ゆ」に置かれた玉造彗(CV:田澤茉純)の等身大パネル。中央にはご当地限定の温泉むすめグッズも置かれている。21年7月から松江市観光大使を務めている
松江市玉造温泉の「玉造温泉ゆ~ゆ」に置かれた玉造彗(CV:田澤茉純)の等身大パネル。中央にはご当地限定の温泉むすめグッズも置かれている。21年7月から松江市観光大使を務めている

 コロナ禍以降は、音楽展開はメインキャラクターによる楽曲に留まり、地域とのコラボを精力的に進める方針に変えることになります。具体的には、キャラクターを地域と一緒にデザインしていき、ファン交流イベントも温泉地で実施。そしてそれまでグッズショップで展開していたキャラクターグッズの販売も、温泉むすめの当該温泉地でしか買えないようにビジネスモデルを変えていきました。

磐梯熱海温泉観光協会(郡山市)に設けられている「祭壇」。磐梯熱海がある郡山市は橋本プロデューサーの地元としてファンからも特別視されている
磐梯熱海温泉観光協会(郡山市)に設けられている「祭壇」。磐梯熱海がある郡山市は橋本プロデューサーの地元としてファンからも特別視されている

「それまで他の声優アイドルコンテンツとの違いがあまりなかったのですが、事業転換したことで独自色を打ち出せるようになったと思います。コロナ禍以降、多くの温泉地でグッズが販売されるようになりました。そして全国各地の温泉地でファンが買った『温泉むすめ』グッズを、好きなキャラクターの温泉地の『祭壇』に『奉納』する文化も定着していきました」

松之山温泉(新潟県十日町市)の日替わりの「祭壇」。点数はまだ発展途上の様子もうかがえる
松之山温泉(新潟県十日町市)の日替わりの「祭壇」。点数はまだ発展途上の様子もうかがえる

 温泉むすめがいる温泉地の観光案内所の多くでは、ご当地のキャラクターの等身大パネルが設置されています。その等身大パネルを中心に「祭壇」が形成され、ファンがグッズを寄贈していく文化が生まれています。温泉むすめはその温泉地の神さまでもあるため、その行いは「奉納」とも呼ばれています。

飯坂温泉観光協会(福島市)の「祭壇」。イベントの度に世界中からファンが訪れ、“最大規模”との呼び声も高い
飯坂温泉観光協会(福島市)の「祭壇」。イベントの度に世界中からファンが訪れ、“最大規模”との呼び声も高い

 ちなみに、収益構造はどうなっているのでしょうか。橋本さんがこう明かします。

山形県米沢市小野川温泉の小野川小町(CV:村上奈津実)。一部施設ではサッカーJリーグのクラブチーム「モンテディオ山形」とのコラボグッズも販売している。19年10月から「おしょうしな観光大使」を務める
山形県米沢市小野川温泉の小野川小町(CV:村上奈津実)。一部施設ではサッカーJリーグのクラブチーム「モンテディオ山形」とのコラボグッズも販売している。19年10月から「おしょうしな観光大使」を務める

「よくあるロイヤリティとして徴収する形ではなく、描き下ろしのキャラクターを制作する際の制作費とグッズの制作費をいただいております。そのイラストを使ったグッズ化は公式アイテム以外にも、現地の裁量で自由に行うことができます。グッズ化されたその製品がきちんとしたクォリティか確認する『監修料』を頂戴しておりますが、金額は1万1000円(税込)のみで、イラストやグッズ費用も含めて、各地の観光協会や旅館組合の予算規模でも無理なく出せるものにしています」

ご当地Vチューバーとコラボ開始

鳥取県の魅力を紹介するご当地Vチューバー「おたねちゃん」。等身大パネルが倉吉市などに設置されている。24年4月には活動2周年を迎えた
鳥取県の魅力を紹介するご当地Vチューバー「おたねちゃん」。等身大パネルが倉吉市などに設置されている。24年4月には活動2周年を迎えた

 24年に入り、日本を訪れる外国人旅行者数の数が過去最高を更新し、観光地はコロナ禍以前の賑わいを取り戻しています。こうした中『温泉むすめ』では、日本各地で地域の魅力を紹介して発信するVチューバーとの連動企画をいま進めようとしています。こうしたVチューバーは、「ご当地Vチューバー」とも呼ばれます。

 その第一弾として白羽の矢が立ったのが、鳥取県の魅力を発信するご当地Vチューバー「おたねちゃん」です。おたねちゃんは22年4月から活動を続けており、90本近い動画を投稿しています。全国区ではまだ「無名」とも言えますが、鳥取県内各地ではおたねちゃんのグッズも販売されており、知る人ぞ知るコンテンツとなっています。

鳥取県倉吉市のラーメン店「ラーメンつばさ」などでは、おたねちゃんのグッズが販売されている。公式通販などはないため、ご当地限定だ
鳥取県倉吉市のラーメン店「ラーメンつばさ」などでは、おたねちゃんのグッズが販売されている。公式通販などはないため、ご当地限定だ

 ご当地Vチューバーとのコラボの狙いについて、橋本さんがこう明かします。

「地域系のVチューバーにはこれから大きな期待をしています。理由は、『スターリンク』などの衛星インターネットが今後より発展していくことで、温泉地を含めた日本全国どこでも情報発信ができるようになるからです」

ご当地Vチューバーとコラボする鳥取県三朝町三朝温泉の温泉むすめ・三朝歌蓮(CV:山根綺)。21年3月から「みささ温泉観光大使」も務める
ご当地Vチューバーとコラボする鳥取県三朝町三朝温泉の温泉むすめ・三朝歌蓮(CV:山根綺)。21年3月から「みささ温泉観光大使」も務める

 都市部から離れた遠隔地にあることが多い温泉地では、Wi-Fiなど通信環境に難がある場合も少なくありません。現状では温泉地で動画配信したくとも、ここがネックになる場合もありますが、橋本さんは今後通信環境の改善により、全国各地のあらゆるところから盛んな配信が実現できると見ています。

三朝温泉の公衆浴場「株湯」に設置されている「白狼歌蓮ちゃん」。開湯の由来となった「白狼伝説」をモチーフにした三朝歌蓮の白狼Ver.だ
三朝温泉の公衆浴場「株湯」に設置されている「白狼歌蓮ちゃん」。開湯の由来となった「白狼伝説」をモチーフにした三朝歌蓮の白狼Ver.だ

「そうなると、全国各地でよりVチューバーをはじめとする情報発信やコンテンツ発信が盛んになっていきます。今回その第一号として、鳥取県三朝(みささ)温泉の温泉むすめ『三朝歌蓮』とのコラボという形で『おたねちゃん』と組ませていただくことになりました」(橋本さん)

おたねちゃんとは

 鳥取県のご当地Vチューバー「おたねちゃん」とはどんなキャラクターなのでしょうか。活動を始めた狙いについて、筆者の取材におたねちゃんはこう答えます。

「鳥取県は広大な自然や昔から続く文化と古い歴史、そして新鮮な野菜や海の幸、美味しいお肉やスイーツなど、たくさんの魅力にあふれているんです。でも、『鳥取県には何もない』とか、『鳥取県は砂丘しかない』というセリフを、地元の方からも、県外の方からも聞くことがよくあります。私は生まれも育ちも鳥取県なのですが、毎年人口が減ってきていて、特に若者の鳥取県離れは深刻じゃないかなと思います。そんな中、どうやったら私の大好きな鳥取県の素敵なところをたくさんの方に知ってもらえるかをずっと考えてたんです」

おたねちゃんのイラスト(おたねちゃんねる提供)
おたねちゃんのイラスト(おたねちゃんねる提供)

 そこで、より多くの人々に印象に残るように始めた活動が、Vチューバーだったと言います。そしておたねちゃんは、活動する上で心がけていることがあるといいます。

「ただ写真を見たり、お話を聞いたりするだけじゃなくて、実際にその場に行って体験して、その情報を紹介することで、よりリアリティのある鳥取県を知ってもらいたいと考えています。皆さんに本当の鳥取県を見てもらえるよう、普段から活動を心がけてます」

現地の反応は?

鳥取県倉吉市のラーメン店「ラーメンつばさ」の「祭壇」。『ひなビタ♪』、『温泉むすめ』、『おたねちゃん』など500点以上のグッズがある
鳥取県倉吉市のラーメン店「ラーメンつばさ」の「祭壇」。『ひなビタ♪』、『温泉むすめ』、『おたねちゃん』など500点以上のグッズがある

 鳥取県倉吉市のラーメン店「ラーメンつばさ」も、「おたねちゃん」のグッズを扱うお店の一つです。店内には「おたねちゃん」だけでなく、倉吉市を舞台にした『ひなビタ♪』と『温泉むすめ』のグッズを中心に、計500点以上が入り交じって展示してあり、それぞれの作品のファンが集まります。

 店主の池原宏明さんが、複数の作品のグッズがファンから寄贈されるようになった経緯をこう話します。

ラーメンつばさに設置されている『ひなビタ♪』の和泉一舞の等身大パネル(右端)
ラーメンつばさに設置されている『ひなビタ♪』の和泉一舞の等身大パネル(右端)

「18年11月にお店を始めたのですが、軌道に乗り始めてきた矢先にコロナ禍に入ってしまいました。自分がはわい温泉のある隣の湯梨浜町出身なのもあり、ハワイを打ち出した店内にしていたのですが、倉吉で盛り上がっていた『ひなビタ♪』の等身大パネルを22年頃から店内に設置するようになりました。そこからファンとの交流が始まった形です」

「ご当地作品」そのものが好きというファン層も確実に存在する。ラーメンつばさでは『駅メモ!』や「萌春寺」、「一心寺三十三観音プロジェクト」など、西日本を中心としたご当地キャラクターも寄贈されている
「ご当地作品」そのものが好きというファン層も確実に存在する。ラーメンつばさでは『駅メモ!』や「萌春寺」、「一心寺三十三観音プロジェクト」など、西日本を中心としたご当地キャラクターも寄贈されている

 『ひなビタ♪』のファンは中国地方だけでなく、全国から訪れるのが特徴です。そしてファンの多くは「ご当地作品」が好きという人も多く、『温泉むすめ』も「おたねちゃん」も好きという人が珍しくありません。

はわい東郷浮乃や三朝歌蓮を中心とした温泉むすめの缶バッジが多く「奉納」されている
はわい東郷浮乃や三朝歌蓮を中心とした温泉むすめの缶バッジが多く「奉納」されている

 池原さんが湯梨浜町出身というのは店を訪れるファンからも知られており、特にはわい温泉・東郷温泉の温泉むすめ「はわい東郷浮乃」のグッズが多く「奉納」される傾向にあります。

 おたねちゃんとの出会いについて、池原さんはこう振り返ります。

「おたねちゃんの姿はお店でお見かけできなかったのですが、気付いたら店内の写真と共にSNSで取り上げられていて、驚きでした(笑)。そこから一緒に何かできないかと思い、交流が始まった形です」

 三朝温泉で、三朝歌蓮を用いた施策に取り組む、三朝温泉旅館協同組合事務局長の中川隼さんもこう期待します。

「近隣のはわい温泉にも温泉むすめがおり、両方訪れるファンが少なくありません。イベントを仕掛ける側としても、どっちが新しいことができるか切磋琢磨の状態が続いております。今回三朝温泉が温泉むすめ初の地域系Vチューバーとのコラボというのもあり、これまでにできなかった新しいことをやって、地域全体を盛り上げていきたいですね」

メタバースが持つ「地域共創」の可能性

三朝歌蓮(左)とおたねちゃん(右)のコラボパネル。三朝歌蓮の白狼姿は、三朝温泉開湯由来の「白狼伝説」にちなみ、おたねちゃんの白蛇姿は鳥取市の多鯰ヶ池の「お種伝説」にちなんでいる(おたねちゃんねる提供)
三朝歌蓮(左)とおたねちゃん(右)のコラボパネル。三朝歌蓮の白狼姿は、三朝温泉開湯由来の「白狼伝説」にちなみ、おたねちゃんの白蛇姿は鳥取市の多鯰ヶ池の「お種伝説」にちなんでいる(おたねちゃんねる提供)

 おたねちゃんは、今回のコラボにどんな期待を抱いているのでしょうか。筆者の取材にこう話します。

「全国的に人気を集める『温泉むすめ』の三朝歌蓮ちゃんと、地元の情報を発信する私がコラボすることで、『温泉むすめ』や三朝歌蓮ちゃんのファンの方々、そして私を応援してくださるファンの方々が鳥取県に来てくださり、相乗効果で三朝温泉や鳥取県が人気の観光地になることを願ってます。そして改めて鳥取県を知ることで、鳥取県をもっと好きになっていただけたらとっても嬉しいです」

おたねちゃんへの取材はオンラインで実施された
おたねちゃんへの取材はオンラインで実施された

 また、おたねちゃんは今後「メタバース」(仮想空間)の拡大に期待を寄せると言います。

「もっとメタバースが盛り上がることで、都会に出て行かなくても、鳥取県内でいろいろなものが楽しめるようになれば、人口流出も少しは減るのではと期待しています。また、メタバースがより広がることで、私だけでなく、ご当地を盛り上げるみんなが活躍できる敷居が下がるのではと思います。私としてもメタバースをもっと盛り上げていきたいですね!」

「祭壇」は観光案内所などだけでなく、旅館にも設置されることも多い。写真は三朝温泉の老舗旅館・いわゆの「祭壇」の様子
「祭壇」は観光案内所などだけでなく、旅館にも設置されることも多い。写真は三朝温泉の老舗旅館・いわゆの「祭壇」の様子

 メタバースは現在日本政府も積極的に拡大しようとしており、様々な補助金を通じてその政策を展開しています。多くの地方自治体でも導入の動きが進んでいます。

鳥取県湯梨浜町にある、はわい温泉の「旅館水郷」に置かれたはわい東郷浮乃(CV:天希かのん)の「祭壇」。はわい東郷浮乃は22年11月から「湯梨浜観光大使」に就任している(旅館水郷提供)
鳥取県湯梨浜町にある、はわい温泉の「旅館水郷」に置かれたはわい東郷浮乃(CV:天希かのん)の「祭壇」。はわい東郷浮乃は22年11月から「湯梨浜観光大使」に就任している(旅館水郷提供)

 メタバースではVチューバーのような、リアルタイムで動ける3Dモデルのキャラクターの登場機会が増えます。3Dへのシフトが進むことで、例えばおたねちゃんと『温泉むすめ』のように、どちらも地域を盛り上げるキャラクターが作品を超え、共演することが容易になっていきます。

『ラブライブ!サンシャイン!!』と『ゆるキャン△』のコラボスタンプラリー『Meets SHIZUOKA 〜ゆるキャン△ × ラブライブ!サンシャイン!!〜』キービジュアル(miraithings提供)
『ラブライブ!サンシャイン!!』と『ゆるキャン△』のコラボスタンプラリー『Meets SHIZUOKA 〜ゆるキャン△ × ラブライブ!サンシャイン!!〜』キービジュアル(miraithings提供)

 作品間の壁を超えたコラボは他地域でも進んでおり、例えばどちらも静岡県内を舞台にした『ラブライブ!サンシャイン!!』と、『ゆるキャン△』のコラボスタンプラリーが9月末まで実施中です。このように地域を構成する様々な主体が立場や垣根を越えて連携することは、「地域共創」とも呼ばれています。

鳥取県内の3柱の温泉むすめ(24年5月時点)。左から皆生温泉の皆生なぎさ(CV:柊優花)、三朝温泉の三朝歌蓮(CV:山根綺)、はわい・東郷温泉のはわい東郷浮乃(CV:天希かのん)(エンバウンド提供)
鳥取県内の3柱の温泉むすめ(24年5月時点)。左から皆生温泉の皆生なぎさ(CV:柊優花)、三朝温泉の三朝歌蓮(CV:山根綺)、はわい・東郷温泉のはわい東郷浮乃(CV:天希かのん)(エンバウンド提供)

 『温泉むすめ』のキャラクターがメタバース上でリアルタイムに「共演」する可能性について、橋本さんがこう話します。

「将来的には全ての人たちがバーチャル空間上で何らかのアバター(キャラクター)を持つことになり、バーチャルとリアルのボーダーレスなデジタルツイン時代がやってきます。そんな中、温泉むすめのような地域を代表する看板むすめたちがバーチャル空間を通して地域の魅力を発信し、それを世界中の人が受け取ることで、実際にバーチャル空間内の観光だけでなく、リアルでも対話型AIを搭載したホログラム化もしくはアンドロイド化されたキャラクターとコミュニケーションができる時代が来ると予想しています」

 おたねちゃんも今後にこう期待します。

「鳥取県には三朝歌蓮ちゃんの他にも、はわい温泉・東郷温泉の『はわい東郷浮乃』ちゃんや、皆生温泉の『皆生なぎさ』ちゃんといった温泉むすめの方々も活躍しています。地元を盛り上げる仲間同士で手を取り合って、鳥取県を盛り上げるための活動ができたらとっても素敵じゃないかなと思います。私も大好きな鳥取県を盛り上げるために、ファンや地元の皆さんと一緒に楽しいコンテンツを作り上げていきたいです!」

 同じ地域を応援するキャラクター達が、リアルでもメタバースのバーチャル空間上でも、当たり前に手を携える。そんな未来は遠くないのかもしれません。

『温泉むすめ』キービジュアル(エンバウンド提供)
『温泉むすめ』キービジュアル(エンバウンド提供)

(クレジットのない写真は全て筆者撮影)

©ONSEN MUSUME PROJECT

©Tottori-Research

ジャーナリスト(アニメ聖地巡礼・地方創生・エンタメ)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。「聖地巡礼」と呼ばれる、アニメなどメディアコンテンツを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「withnews」「AERA dot.」「週刊朝日」「ITmedia」「特選街Web」「乗りものニュース」「アニメ!アニメ!」などウェブ・雑誌で執筆。共著に「コンテンツツーリズム研究」(福村出版)など。コンテンツビジネスから地域振興、アニメ・ゲームなどのポップカルチャー、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。

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