スポーツが世界を変える!大坂なおみと女の子のスポーツを考える「プレー・アカデミー東京サミット」報告
ネルソン・マンデラ氏の言葉「スポーツは世界を変える力になる」。この言葉は、現代の女性や女の子たちのスポーツにおける改革において、改めて重要な意味を持つ。
世界的テニスプレーヤー大坂なおみを旗印に、ナイキとローレウス・スポーツ・フォー・グッド財団(以下ローレウス財団)が主催する「女の子のためにスポーツを変えるウィーク -COACH THE DREAM-」が開催された。10月18日に行われた「東京サミット」では、5年目を迎えるこの取り組みについて、関心ある企業、行政、メディア、競技団体、当事者などが集結し、女の子たちのスポーツ実践の現場からの進捗が報告された。
女の子たちのスポーツ:現状と課題
今夏のパリオリンピック・パラリンピックは、市民のスポーツ離れを課題とし、「開かれた大会」をコンセプトに開催された。日本でも同様の課題を抱えているが、特に「女の子のスポーツ離れ」は深刻である。スポーツ庁の統計によると、1週間の総運動時間60分未満の割合は、中学生男子が11.3%であるのに対し、女子は25.1%と、約4人に1人にものぼる。
中京大学スポーツ科学部の來田享子教授は、この現状について「これまでこの問題を女の子自身のせいにしてきたのではないか」と指摘。「環境が整えば、もっと様々なことに挑戦しようという選択肢に『スポーツ』を加える女の子は増えるだろう」と述べた。
安全なスポーツ環境へ:世界の取り組み
世界的に見ても、女性のスポーツには多くの障壁が存在する。女の子特有のニーズに対する理解不足、ロールモデルの不足、スポーツ機会の制限などが主な課題として挙げられる。人権への差別や貧富の格差がある国や地域では、さらにその傾向が顕著であり、国や地域の文化の違いによる影響も大きいのが現状である。
オリンピック・パラリンピックなどのエリートスポーツでは対策が進められており、今夏のパリ大会ではジェンダー平等の理念のもと、男女比を50%ずつにするという目標が掲げられた。
サミットに登壇したオリンピック競泳金メダリストのミッシー・フランクリン・ジョンソン(アメリカ)は、「スポーツは私に自信を与えてくれた。それは、教室でも、娘としても、友人としても、人生のあらゆる面で自信につながった」と語り、豊かなスポーツ環境の重要性を強調した。
東京サミットからの提案
「ワクワク感」と「敷居を下げる」こと
パネルディスカッションの前半では、日本のスポーツの現場の当事者・指導者からの貴重な意見が共有された。女子野球・読売ジャイアンツの田中美羽は、「ピンクのユニフォームを作ってあげるから来て」と誘われたことがきっかけで、それまで興味のなかった野球を始めたエピソードを紹介し、スポーツへの「敷居を下げることの大切さ」を語った。
来年4月に教員になるという大学4年生の世古汐音さんは、まさに未来を担う指導者の一人である。中学時代に尊敬できる体育教師との出会いから指導者を志し、すでに学生コーチとして中学生のバレーボール指導を行っている。世古さん自身、「やめたい」「行きたくない」という状況に陥った経験から、「近くに手を差し伸べてくれる人が必ずいる。誰でもいいので勇気を持って相談してほしい」と呼びかけた。
パリオリンピック女子バスケットボール日本代表ヘッドコーチの恩塚亨氏は、「ワクワクが最強」というフレーズを掲げ、指導者が選手にあるべき姿を押し付けないこと、「やらされるのではなく、やりたくなる状況をいかに整えるか」が重要だと強調した。
來田教授は、「女の子一人ひとりの物語を発見していきたい。感動の押し売りの物語でもなければ、根性物語でもない。ただ普通に生きて、失敗しても明日は頑張れる、そんなストーリーがすべての人にあるべき」と、新たなアプローチの大切さを訴えた。
「完璧」ではなく「勇敢」になろう!
パネルディスカッション後半は、モデレーターを務めたヴァネッサ・ガルシア=ブリトー氏が「自分たちの居場所を感じられる環境を作ってくれるコーチ」のあり方について、アスリートと専門家による国際的な議論を深めた。
「Center for Healing and Justice through Sport(スポーツを通じた癒しと正義の場所)」の創設者メーガン・バートレット氏は、「コーチは、女の子たちが完璧である必要はなく、勇敢になれる環境を作る必要がある」と述べ、リスクを恐れずに挑戦することの重要性を訴えた。
フランクリンは、「私は、スポーツは世界で最もパワフルな力のひとつだと信じています」と述べ、自身の経験を振り返りながら、「コーチ、両親、そして子どもの人生に関わるすべての人たちをサポートすることが大切です」と付け加えた。
東京サミットを通じて、ジェンダー平等の推進と多様性・インクルージョンの重要性が再確認された。
スポーツの現場から未来へ
午後のセッションでは、ナイキとローレウス財団による「プレー・アカデミー」の支援を受けた日本、ロサンゼルス、ハイチ、中国からの活動報告が行われた。文化の異なる国々で、女性や女の子のスポーツが置かれる現状は大きく異なるが、共通して「安全な環境」の必要性が強調された。
スポーツという「社会変革の強力なツール」を通じて、女の子たちのスポーツの未来を再定義し、公平でインクルーシブな社会の実現に向けて前進している。恩塚コーチの「どうやったら、やりたい気持ちになるか」という言葉が、女の子たちのスポーツの未来を切り開く鍵となりそうだ。
「プレー・アカデミー with 大坂なおみ」とは
「女の子のためにスポーツを変える」という課題に取り組むため、大坂なおみを旗印に、ナイキとローレウス財団は2020年に「プレー・アカデミー with 大坂なおみ」を設立した。このプログラムは、日本(大阪、東京)を起点に、アメリカのロサンゼルス、ハイチへと活動範囲を広げ、今夏パリでも活動している。
「女の子のためにスポーツを変えるウィーク -COACH THE DREAM-」は、10月16日に世界中の関係者が東京に集結し、3日目にこの「東京サミット」が開催された。サミット後には、100人の女の子を対象とした大坂なおみとのスポーツプログラム、50人の指導者を対象とした「アスリートが居心地の良いスポーツ環境を届ける」ための指導者研修が行われた。
※この記事はPARAPHOTOの取材によるものです。