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日銀の植田和男新総裁による就任記者会見、期待されている発信力はどうだったか 非言語は課題あり

石川慶子危機管理/広報コンサルタント
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 植田和男新総裁が副総裁二人と共に就任の記者会見を4月10日に開きました。日銀総裁は10年ぶりの交代。岸田文雄首相は2月8日の衆院予算委員会で、日銀の黒田東彦総裁の後任にふさわしい人物像について「主要国の中央銀行トップとの緊密な連携、内外の市場関係者への質の高い発信力と受信力が格段に重要になってきている」とコメント。日銀総裁に求められる発信力と受信力とは何だろうか、広報の観点からこの言葉の意味や背景が気になり、今回の就任会見を取り上げることにしました。元財務官僚・元衆議院議員で公認会計士の桜内文城氏と共に考えます。

■動画解説

黒田前総裁は国内で不評だったのは記者の知識不足

石川:岸田首相が”質の高い発信力と受信力“と言った意味、背景には何があるのでしょうか。この発言は、黒田前総裁の発信と受信の質を評価していないように見えます。

桜内さん(以下、敬称略):黒田前総裁は、実は国内での記者会見における評判はあまりよくなかったんです。記者の知識不足・勉強不足もあるのですが、木で鼻をくくったような対応をしていました。中身が悪いわけではないんです。

石川:海外ではどうだったのでしょうか。

桜内:黒田さんは10年もやっていたので一目置かれる存在でした。海外に限らずきちんと総裁として発信していたのですが、国内の記者が理解できなかったということです。マスコミの方に問題があったと私は思います。

石川:では、岸田首相としては、国内においても丁寧な説明ができる人を期待する、という意味だったのでしょうか。

経済理論×英語コミュニケーション力が求められる時代に

桜内:発信力強化という意味ではないでしょうか。日銀総裁人事は、これまで財務省の事務次官経験者と日銀のプロパーとのたすき掛けでした。ところが、黒田さんは事務次官経験者ではなく、国際担当の財務官、トップを務めていました。事務次官というのは国内畑ばかり。財務省の中では国際派になるとトップの事務次官になれないとされてきました。むしろ、黒田さんが異例の抜擢。今後は事務次官経験があればいいというのではなく、国際的発信力が重視されるようになるといえます。氷見野良三さんは金融庁長官経験者で国際派です。国際的会議でも議長役を務めるなど活躍してきています。

石川:むしろ国際的な発信力のある力が総裁、副総裁に求められるようになるということですか。

桜内:そうです。植田総裁は、マサチューセッツ工科大学で博士号もとっています。IMF(国際通貨基金)の職員は博士号取得者の集まりですから、そこと渡り合うためには、経済学理論を踏まえた上で英語でコミュニケーションできる力が必要です。

石川:新総裁、副総裁は3人とも国際派なのでしょうか。3人のバランスはどう見ればいいのでしょうか。

桜内:いえ、副総裁の内田眞一さんは、日銀プロパーですが国内派です。日銀の中で金融政策の立案に長く携わってきていますから適任でしょう。植田総裁、氷見野副総裁は国際派ですから、今回の人事は黒田体制よりも質が高いといえます。

石川:質の高い発信力の前にそもそも質の高い人事になっているということですか。

桜内:黒田体制において、日銀審議委員の中に博士号を持つ人がいなかったんです。他国ではありえない。日本は学歴社会といわれているのに博士号とか専門性を尊ばない。

石川:学歴社会なのに博士号は重視されない。不思議な現象ですね。ここは改めて議論したいテーマです。記者会見の話に戻ります。今回の就任会見、植田総裁の説明力、発信力はどう見たらいいでしょうか。また、記者の質問はどうでしたか。

桜内:質問はうまく割り振っていたし、悪くないと思います。植田総裁の基本的な回答スタンスは無難な回答で、「現状は維持する。副作用に考慮しつつ、今後点検していく」と言い方で言質を取られない形でした。注目すべきは、質問がないのに発言した部分です。

「もう一つ、ここまでそれほど今日出てこなかったところと致しましては、急に持続的・安定的に2%になるということに気づいて、急に政策を正常化するということになると、非常に大きな調整をしないといけないですし、それに応じて市場・経済も大きな調整を迫られるということがあるかと思いますので、なるべくそういうことがないように、前もって的確な判断ができるようにしていかないといけないということかなと思います。」ここには強いメッセージ性を感じました。

わかりやすい言葉が好印象、非言語には課題

石川:「前もって的確な判断」はまさにリスクマネジメントになりますね。私が発信力として着目した表現は、効果と副作用について「効果から副作用を引き算するとおつりが残るかどうかが評価の基準になる」と説明した部分。「おつり」という言葉がとても庶民的でわかりやすく、好感を持ちました。以前も国会での質疑応答(2月24日 所信聴取)で「お昼はコンビニ弁当を食べて値上げ実感」と発言していたので市民感覚のアピールにもなりました。昨年の黒田前総裁が批判された「家計は値上げを許容している」発言を意識したようにも見えます。

石川:黒田前総裁の10年間の評価についてもうまい回答でした。「私ができなかったような決断をした。外的なショックやデフレ経験が足を引っ張り、物価目標を達成できなかった。でも、デフレでない状況を作り出してバトンタッチしてくれた」。決断力を評価し、達成できなかった事実にも言及しつつ、努力を評価する。ハイレベルの回答でした。

桜内:雇用についてコメントしなかったこともよかったといえます。金融政策として日銀ができることとできないことはよくわかっていらっしゃる。日銀ができることは物価の安定であって、賃金や雇用については何ともならない。この点も雇用に言及してしまった黒田前総裁との違いです。

石川:これは私の立場ではどうしても言っておかなければいけないことなので。非言語で気になった部分を2点指摘しておきます。植田総裁ですが、頻繁に上を見る癖と腕組みしながらテーブルに体重を前に乗せる癖は意識して改善していただきたいと思います。考える時に目線が上になってしまう人は多いのですが、白目が目立ってしまうので下目線にした方が品よくなります。愛子さまはその点はさすがにできていました。私も気を付けるようにしています。それでも時々やってしまいますが。机に体重を乗せるのは姿勢が悪くなり、堂々とした雰囲気に欠けてしまいますから避けた方がよいです。海外では立ち居振る舞いも見られるので改善していただけると印象の良さや発信力に貢献すると思います。

桜内:おお、それは気づきませんでした。そういった部分も見られてしまうのですね。私も気を付けないと(笑)。

<参考サイト>

岸田首相、日銀総裁人事巡り「質の高い発信力重要」 - 日本経済新聞 (nikkei.com)

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA082SQ0Y3A200C2000000/

植田新総裁の就任記者会見 ノーカット版(ANNNews)

https://www.youtube.com/watch?v=16YmeuV9jqo

危機管理/広報コンサルタント

東京都生まれ。東京女子大学卒。国会職員として勤務後、劇場映画やテレビ番組の制作を経て広報PR会社へ。二人目の出産を機に2001年独立し、危機管理に強い広報プロフェッショナルとして活動開始。リーダー対象にリスクマネジメントの観点から戦略的かつ実践的なメディアトレーニングプログラムを提供。リスクマネジメントをテーマにした研究にも取り組み定期的に学会発表も行っている。2015年、外見リスクマネジメントを提唱。有限会社シン取締役社長。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会副理事長。社会構想大学院大学教授

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