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ますます広がるハリウッドの男女賃金格差。救世主はワンダーウーマンか

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
マーク・ウォルバーグは、この1年で75億円を稼いだ(写真:ロイター/アフロ)

 パトリシア・アークウェットが「女優にも平等の賃金を」と叫んで注目されたのは、2015年のアカデミー賞授賞式のこと。以後、ハリウッドにおける男女の賃金格差は頻繁に話題に取り上げられてきたが、状況は改善されていないどころか、 悪化している。

 アメリカ時間22日、「Forbes」が発表した「最も稼ぐ俳優」リストで、1位は、この1年間に6,800万ドル(約75億円)を稼いだマーク・ウォルバーグだった。 女優の首位はエマ・ストーンで、2,600万ドル(約28億円)だ。このふたりの間には、2.6倍の差がある。

 さらに、上位10人で見ると、男優の合計は4億8,850万ドル、女優の合計は1億7,250万ドルで、違いは3倍。昨年の上位10人の男優の合計は4億6,800万ドル、女優は2億500万ドルだった。つまり、男性は上がったのに、女性は下がったのだ。2,000万ドル以上を稼いだ人たちを見ても、男優が16人もいるのに対し、女優は上位3人(ストーン、ジェニファー・アニストン、ジェニファー・ローレンス)だけである。

 この格差について、「Forbes」の記事は、スーパーヒーロー映画や大型アクション映画がますます増えているせいで、女性のための役が減っていることを挙げた。また、それらの映画の主演男優らが、ヒットの具合によってもらえるボーナスのパーセンテージや、続編の出演料について強気で交渉できる立場にあることも指摘している。

女性は弱気すぎるのか

 その分析は、まさに的をえていると言えるだろう。だが、スーパーヒーロー映画ではなくても、交渉のしかたという部分において女性が控えめでありすぎることは、ジェニファー・ローレンスが、2015年、lennyletter.comに寄稿したエッセイ(http://www.lennyletter.com/work/a147/jennifer-lawrence-why-do-i-make-less-than-my-male-costars/)で触れている。

 ローレンスは、「アメリカン・ハッスル」でキャリア3度目のオスカー候補入りを果たした。だが、この映画で、彼女は、共演男優3人より低いギャラをもらっている。その事実は、今作の北米配給を行ったソニーがハッキングされた時に暴露されたのだが、そのことについて、彼女はこのエッセイで、ソニーではなく自分を責めている。自分が、「難しい人」「うるさい人」「奢っている人」と思われることを恐れて、ちゃんと交渉しなかったと言うのだ。

 エッセイの中で、彼女は、女性たちに向けて、「統計を見る限り、ほかの女性も同じ問題を抱えているのではと思います。私たちは、社会的に、そんなふうにふるまうように教えられてきたのでしょうか?」と問いかける。同時に、もし次のハッキングでまた別のメールが暴露され、その中にプロデューサーの誰かがお金にうるさい女優の悪口を書いていても驚かないだろうともつぶやいた。その教訓が生きたのかどうかはわからないが、やはりソニーが配給した昨年の「パッセンジャー」で、ローレンスはクリス・プラットより高いギャラをもらえることになっている。

 それとは逆に、言いたいことをはっきり言ったと誇るのが、ロビン・ライトだ。昨年、ライトは、Netflixの人気ドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」への出演料を、主役のケビン・スペイシーと同じにしてくれと交渉し、成功している。 「同じにしてくれないなら、ギャラ格差を公言する」と言ったことも明かしたため、一部から「女性差別を出してきてゆすったわけか」と皮肉の声も出たのだが、勇気づけられた女優も、きっといたことだろう。

「ワンダーウーマン」の女流監督は、続編のギャラのために闘った

 そしてつい最近は、パティ・ジェンキンスが闘っている。

 彼女が手がけた「ワンダーウーマン」は、この夏、アメリカで最大のヒット映画になったばかりか、2002年の「スパイダーマン」を抜き、単体のスーパーヒーロー映画としては史上最高の興行記録を打ち立ててもいる。当然、続編にはすぐゴーサインが出て、2019年12月の北米公開日まで発表されたのだが、ジェンキンスが監督するのかどうかは、先週まではっきりしなかった。 続編ではより多くのギャラをもらいたいと、彼女が交渉を続けていたせいだ。今、ようやくスタジオと彼女が合意しつつあるギャラは、同様の興行成績を出した男性監督と同レベルで、女性監督としては記録的な額になるようである。

「Forbes」も指摘したとおり、男女のギャラの格差が広がった背後には、スタジオがますます多くのスーパーヒーロー映画を作っているという事実がある。その分野にジェンキンスのような女性監督が入っていって、女優たちを重要な役に起用していくとあれば、なんらかの変化が起こるかもと期待できる。遠い将来、業界の女性たちが、今のこの時をターニングポイントと呼ぶことになれば、素敵なことだ。もしそうなったら、ジェンキンスこそ真のワンダーウーマンではないか。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「シュプール」「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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