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イニエスタも先発危機のスペイン代表。ハリルJAPANに求められる競争とは?

小宮良之スポーツライター・小説家
ベンチに座った本田、久保らが得点者の井手口を祝福する(写真:なかしまだいすけ/アフロ)

「世代交代」

 ハリルJAPANでは、それが一つのテーマとして語られている。ワールドカップ出場を決めるオーストラリアとの大一番で、21,22才の井手口陽介、浅野拓磨が貴重な得点を決めただけに、それは自然な流れと言えるだろう。本田圭佑、香川真司、岡崎慎司ら2010年から日本代表の主力を担ってきた"ベテラン"がベンチに座ったことも、拍車を掛けている。

 一つの世代が次なる世代に飲み込まれる。それは自然の摂理に近い。それだけに、驚くべきことではない。

 ただ、若さに囚われても世界を勝ち抜くことはできないはずだ。

欧州王者ポルトガルとビジャが復帰したスペイン

 例えばEURO2016で頂点に立ったポルトガルは、世代が融合したチームだった。38才のリカルド・カルバリョ、34才のブルーノ・アウベス、33才のぺぺ、32才のリカルド・クアレスマ、エリゼウのようなベテランを擁する一方、18才のレナト・サンチェス、22才のアンドレ・シルバ、24才のウィリアム・カルバリョら若手もいた。年齢に囚われていないのが特長だった。

 世代的に、どちらかに偏ったチームは頂点に立てない。そもそも、年齢に囚われるべきではないのだろう。結局のところ、「現在形でチームに貢献できる選手が揃っているか」が最優先で問われるのだ。

 先日、世界王座奪還を目指すスペイン代表は2010年ワールドカップで優勝を遂げたときのエース、35才のダビド・ビジャを3年2ヶ月ぶりに代表へ呼び戻している。予選突破をかけたイタリアとの直接対決で、「経験」が買われた部分もある(ジエゴ・コスタのコンディション不良は実質的な理由だが)。しかし世界に冠たるスペインにおいて、経験が物を言う領域は小さい。なぜなら、候補選手は修羅場をくぐり抜けた猛者ばかりだからだ。

「センス、直感、スピード、ビジャは多くのモノをもたらすだろう。競争力も高めてくれる。なにより、彼は"現在進行形の選手"なんだ」

 スペインを率いるジュレン・ロペテギ監督はそう説明している。実績以上に、リアルタイムで活躍を示している点を評価。代表の肩ガキは与えられるモノではない。勝ち取るモノだ。

 2016年シーズン、ビジャはMLSの年間最優秀選手に選出されている。今シーズンもゴールを量産。最近10試合で11得点の荒稼ぎだ。

 何歳であろうとも、結果を残している選手が代表に入っていくのが筋だろう。監督としては「自らの戦術に合わせた選手を」という思惑もあるのだろうが、「戦術に縛られず、好調を続ける選手でチームをやりくりする」という懐の深さも求められる。特定の選手だけに偏ったやり方では、世界の強豪と互角に渡り合うことはできないのだ。

「MLSのレベルは低い」

 ロペテギはその一言で片付けていない。誰よりもゴールをし、活躍している点を率直に評価。チームの競争力を高めている。

ハリルJAPANも総力戦で

 翻って、ヴァイッド・ハリルホジッチは日本代表メンバー選考でも、Jリーグ勢を軽視するようなところがあった。しかし現代表選手のすべてがJリーグで成長し、その技量を高めている。オーストラリア戦では、昌子源(鹿島アントラーズ)、井手口(ガンバ大阪)がリーグで好調な国内組として、代表にふさわしい働きを示した。

 今後に向けても、オーストラリア戦は特筆すべき試合だった。

 ハリルホジッチは正念場で、自ら打ち立てたシステムに固執していない。4―2―1―3を捨て、4―3―3で好調を維持する選手たちを抜擢。原口元気ではなく乾貴士を、久保裕也ではなく浅野拓磨を起用している。

 結果として、日本は総力戦に及んだことで、最高の結果を得たわけだ。

「第2章が終わり、第3章が始まりました」

 ハリルホジッチは会見で語っているが、ここからの1年弱が肝心となる。ザックJAPANはW杯1年前までのマネジメントはほぼ完璧だったにもかかわらず、そこから苦しんでいる。世代を融合させようとする中で、迷いが生じてしまった。

世論の要求とのせめぎ合い

 チームを双肩に担ってきた選手が衰え、若手が台頭してきたときに、どう集団を仕切るか――。そこでリーダーの資質が問われる。なぜなら、自身の判断に世論の波が容赦なく襲いかかるからだ。

 スペイン代表で「世界最高のフットボーラー」と崇められてきたアンドレス・イニエスタ(33才)だが、直近のスポーツ紙調査では、「先発にふさわしくない」という結果が出た。代わって、21才の新鋭、マルコ・アセンシオが人気を集めている。これはFCバルセロナにおけるイニエスタが最近はケガがちで、本来のパフォーマンスから程遠いからという理由がある。

 しかし指揮官としては、慎重にならざるを得ない。主力を外すことは、同時に軋轢を生む。若手が消耗するだけに、段階的なやり方が必要になる。それに対し、マスコミは「世代交代」を強く要求する。

 日本代表でも、同様のケースが起こっている。

「自分たちの世代が代表を引っ張っていけるように。自信を持ってやっていきたい。ただ、上の世代の人たちも自分たちが持っていないモノを持っている」

 オーストラリア戦後、浅野は語っていたが、世代の競争、闘争こそ、チームを強くする。単純な若手への切り替え、これはむしろ集団を弱体化させる。その意味で、浅野、井手口が勝利を勝ち取ったことは大きいが、本田、香川、岡崎らがどこまで立ち塞がるか、がハリルJAPANの生命線とも言える。

 健全な内部競争が、外に向かう力にもなるはずなのだ。

  

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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