【JND】Wakai Project『神曲JAZZ』は21世紀のスタンダードが詰まった万華鏡だった
話題のアルバムを取り上げて、曲の成り立ちや聴きどころなどを解説するJND(Jazz Navi Disk編)。今回はWakai Project『神曲JAZZ』。
Wakai Projectとは、ピアニストの若井優也を中心として結成されたユニット。若井は1986年に名古屋で生まれ、3歳から音楽教室に通うという環境に育ちながら、東京大学工学部に進む。大学ではジャズ研に所属し、2005年の山野ビッグバンドジャズコンテストには慶應義塾大学ライト・ミュージック・ソサエティの一員として出演、バンドでの優秀賞に加えて個人でも優秀ソリスト賞を受賞するという注目株だった。すでに5枚のアルバムを世に送り出し、この『神曲JAZZ』は6枚目のリーダー作だ。
スタンダードの本領を秘めたアニソンたち
“神曲”を“カミキョク”と読めないオヂサンであっても、このアルバムを聴いていればどこかで耳にしたような気がするというデジャヴ感に襲われるに違いない。ボクはそれでいいと思っている。このアルバムに収録された曲の背景をすべて知っているからといって(オリジナルを聴いたことがあるからといって)、それはあまり意味がない。ジャズのスタンダードだって、最初からスタンダードの地位を与えられていたわけじゃない。オリジナルを超える魅力的な演奏があったからこそスタンダードと呼ばれるようになったのだから。
とはいえ、念のために説明しておくと、収録されているのはいわゆる“アニソン”と呼ばれるジャンルの曲たちだ。アニメーション映画やアニメーション番組、そしてゲームなどのテーマや挿入曲として用いられている曲である。ただし本作では、アニメ/ゲーム・ファンからだけでなく、音楽ファンからも評価の高い曲を厳選しているというところがポイント高し。
カヴァーの概念を変える曲との距離感
その選曲はすべて若井が行なっている。こうしたカヴァー集では往々にしてマーケティング的な圧力による“大人の判断(希望)”が混入したりして、本作でもそうした配慮がなかったわけではないと想像するのだが、そうした“空気”すらもサウンドを生み出すエネルギーへと転化してしまうような若井のプロデューサー的な才能が発揮され、さらに“ネ申”度をアップさせているのではないだろうか。
個人的に興味深かったのは、ダウナーなピアノ・トリオだけでまとめずに、加藤一平のストリート・アヴァンギャルド風味のギターをフィーチャーしてアッパーな曲を差し挟んでヴァリエーションを広げているところ。こうした配慮は、曲を選ぶことが仕事の大半になりがちなカヴァーものの底上げをするものとして評価したい。
若井優也はこれまでもジブリ作品やザ・ビートルズなどカヴァーを手がけて成功させているけれど、表現力やアレンジの才能に加えて、オリジナルに対するリスペクトと適度な距離感が、“企画もの”に堕させない最大の理由であるような気がする。
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