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支持率大幅下落の危機!会見しない岸田首相が会見を開いたワケ

安積明子政治ジャーナリスト
2か月ぶりに官邸で会見が開かれた(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

2か月ぶりの官邸での記者会見

 “出口”が見え始めたゆえか。それとも内閣支持率が下降し始めたからなのだろうか。岸田文雄首相は2月17日に官邸内で記者会見を開き、まん延等重点措置の延長や新型コロナウイルス感染症の水際対策緩和などを発表した。

 内閣記者会所属の記者以外が参加する首相会見は、1月4日に伊勢神宮参拝の際に行われた「年頭記者会見」以来で、実に1か月半ぶり。しかし官邸の会見場で開かれる首相会見は、昨年12月21日に行われたままだった。もっとも岸田首相は官邸内で何度か内閣記者会所属の記者に対する“ぶら下がり”に応じていたが、これらはその都度報道されるわけではなく、発信力という点では大きく劣る。もっとも会見室での記者会見は緊急事態宣言が発令されるなど、重要な節目に行うという“前例”があり、今回の会見はその例外といえるのだ。

 それゆえか、今回の会見には緊張感が感じられなかった。安倍政権時のような自信たっぷりのパーフォーマンスもなければ、菅政権時のような悲壮感を漂わせながら、それに向かって努力をするというアピールもない。そもそもなぜこの時期に会見を開くのか。

コロナを収束させられたのか

 新規感染者数は2月5日の10万5617人をピークとして、減少の傾向にある。しかし療養者数、重症者数、死亡者数の増加は止まっていない。もっとも統計上、これらの数値は新規感染者数の動きに遅れることが知られている。問題は後者の数字が急激に改善を見せるかどうかだが、政府の新型コロナウイルス対策分科会の尾身茂会長は2月16日の衆議院予算委員会分科会で、重症者数が今後数週間でピークアウトする見通しを示すとともに、急激に減少する「マッターホルン型」よりも山頂で高止まりする「富士山型」に行く可能性を示唆した。

「オミクロン株については、慎重の上にも慎重を期すという考えの下で対応を行ってまいりました」

 記者会見での冒頭発言は、年末に記者団に語った「先手先手」とともに、いかにも岸田首相の性格を反映したものといえる。慎重のあまりその対応が、後手後手の印象は否めない。3回目のワクチン接種にしても、菅政権時には一時的に1日170万回を達成したこともあったのに、12月に開始以降はなかなか伸びていなかった。主な理由は厚労省と堀内詔子ワクチン担当大臣との連携の悪さのようだ。見かねた河野太郎前ワクチン担当大臣が2月5日にTwitterで、「厚労省が情報を出さない。最終的な決定権がない。都道府県とのリエゾンチームが解散された。ワクチンメーカーとの交渉が一元化されていない」と問題点を指摘。国民の命に関わる問題でさえ、省益が最優先されていた実情を暴露した。

沈み込む政権、沈み込む日本経済

 これは官邸のリーダーシップの欠如に相違ない。加えて日本の経済的な地位の低下も深刻だ。

 国際決済銀行は2月17日、通貨の総合的な実力を示す円の実質実効為替レートが1972年6月以来の水準になったことを公表した。1995年4月の150.85から67.55と、その力は半減以下になっている。それでなくてもウクライナ問題で原油価格が高騰し、世界的なコロナ対策でインフレが進んでいる。

 厳しい水際対策も経済の足を引っ張っている。だから入院中や療養中の人数が80万人台と、これまでの波よりはるかに多い今でさえ、岸田政権は入国制限を1日3500人から5000人に緩和したのだろう。だが入国希望の待機組はこれに追いつかない。人手不足は製造業などを直撃し、とりわけ地方経済への影響は深刻だ。しかも半年後には参議院選が控えている。自民党総裁としても選挙後の政権の安定のためにも、地方の選挙区を落とすわけにはいかない。

内閣支持率は頭打ちへ

 しかし肝心の足元が揺らぎ始めている。時事通信が2月11日から14日までに行った世論調査では、支持率は8.3ポイント減の43.4%で、不支持率は6.6ポイント増の25.3%となった。内閣支持率の低下は、テレ東と日経新聞の合同調査や日テレと讀賣新聞の合同調査、NHKの世論調査などでも見られるが、特に注目すべきは個別面接方式で行われ、より実態を反映しているとされる時事通信の調査で、内閣支持率の下落幅が大きいこと、そして不支持率が岸田政権発足以降で最高になったことだ。昨年10月に就任以来、高水準を維持した岸田政権の人気が1月にピークアウトしたことは確実だ。

 これを挽回するためには、会見で国民に首相のやる気を“見える化”するしかないと判断したのだろう。冒頭でウクライナ問題について発言したのも、5年間近く外相として外交に従事した手腕をアピールするためだったに違いないが、果たして国民はそのように受けとめたのか。

岸田首相は“足元”が見えているのか

 1月9日にまん延防止等重点措置の適用を受けた広島県、山口県、沖縄県のうち、岸田首相の地元である広島県を除く山口県と沖縄県は2月20日に適用解除される。いずれも出入国時の検疫が緩かった米軍基地から感染したと見られ、厳しい水際対策に大きな抜け穴があったことが明らかにされた。にもかかわらず岸田首相は、こうした事態を防止しうる日米地位協定の改定に消極的で、17日の会見でも基地内でのコロナ感染の解明に繋がるゲノム解析の結果にさほど関心を寄せている様子はなかった。

 第6波がピークアウトしても、第7波が襲ってこないとは限らない。実際に「ステルスオミクロン」といわれるBA2の変異株が国内各地で確認されている。BA2が主流になっているデンマークでは、従来のウイルスより感染力が1.5倍強いことがわかっている。

 デンマークでは2月にコロナ規制を撤廃し、“日常”に戻った。理由はワクチン接種により社会的な免疫を確保したと見なしたことで、65歳以上の94%が3回目のワクチンを接種しており、国民全体でも60%以上が接種済みだ。

 さらに4回目の接種も計画されており、ワクチンや検査薬、マスクが不足することはないという。何より重要なことは、事前に国民の不安を取り除くことだ。それを岸田首相より20歳も若いデンマークのフレデリクセン首相は十分に理解している。

 一方で我が国の首相はどうか。組閣時のワクチン担当大臣の人事を見ても、ワクチン接種を重視していたとは思えない。3回目のワクチン接種も当初の予定は2回目から8か月以降で、諸外国より遅かった。ゆえに追加接種した割合は12.64%に過ぎず(2月17日現在)、言葉だけ慎重であっても、国民の信頼や安心には繋がらない。

 岸田首相にはもっと発信力が必要だ。そうでなければ岸田首相ともども、コロナ禍に喘ぎながら日本も沈み込んでしまいかねない。

政治ジャーナリスト

兵庫県出身。姫路西高校、慶應義塾大学経済学部卒。国会議員政策担当秘書資格試験に合格後、政策担当秘書として勤務。テレビやラジオに出演の他、「野党共闘(泣)。」「“小池”にはまって、さあ大変!ー希望の党の凋落と突然の代表辞任」(ワニブックスPLUS新書)を執筆。「記者会見」の現場で見た永田町の懲りない人々」(青林堂)に続き、「『新聞記者』という欺瞞ー『国民の代表』発言の意味をあらためて問う」(ワニブックス)が咢堂ブックオブイヤー大賞(メディア部門)を連続受賞。2021年に「新聞・テレビではわからない永田町のリアル」(青林堂)と「眞子内親王の危険な選択」(ビジネス社)を刊行。姫路ふるさと大使。

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