世界卓球“南北合同チーム”たったの12時間で決まった!?結成裏話と今後の展望
スウェーデンで開催された第54回世界卓球選手権の女子団体戦の準決勝で日本と対戦した韓国と北朝鮮の南北合同チーム「コリア」。日本に敗れたものの、銅メダルを獲得した。
卓球で南北が合同チームを結成したのは、1991年の千葉での世界選手権以来27年ぶりのことで、大きな話題となった。
これも4月の南北首脳会談で発表された「板門店宣言」で、国際競技への共同出場が盛り込まれた流れを汲んでのことだろうが、「スポーツは平和に貢献する」との見方がある一方、「ルール軽視」や「選手の立場を考えていない」など賛否があるのも事実。
この合同チーム結成がどのように決まったのかが、韓国メディアの取材で明らかになった。
取材に答えたのは、国際オリンピック委員会(IOC)選手委員のユ・スンミン氏。彼は世界卓球の韓国選手団の団長として大会に参加し、女子の南北統一チーム結成に向けて動いたという。
ユ氏は現役時代、2004年アテネ五輪の男子シングルスで金メダルを獲得。現在はIOC選手委員のほか、大韓卓球協会理事も務める人物だ。
総合ニュースサイト「ニュースピム」によると、5月2日は国際卓球連盟(ITTF)財団創立記念日で、ユ氏がITTFのトーマス・ワイカート会長に“平和イベント”ができないかと提案を行ったという。
そこで翌3日の8時から、記念レセプションの一環として、「韓国と北朝鮮の女子選手がダブルスでペアを組み、“ミニ統一チーム”を作って試合を行った」というのだ。
そこからトントン拍子にITTFと韓国、北朝鮮の両協会で、合同チーム結成の協議が行われ、約12時間後には南北合同チーム結成が発表された。
南北の選手たちは快諾
ユ氏は「聯合ニュース」の取材に対し、こう答えている。
「韓国と北朝鮮協会との話し合いを導いてくれたのは、ITTFのワイカート会長の力が大きい。それよりも最優先で確認しなければならなかったのは、選手たちの意思だった。南北統一チームを作るうえで、選手たちの同意が得られなければなりませんが、韓国と北朝鮮の選手たちは共に快諾してくれました」
また、ワイカート会長は「ルールは尊重する。そしてルールは変わる。これはルールを超えた出来事で、平和へのサインだ」と語ったが、これでは公平性に欠いたと言われても致し方ない部分もある。
日本の石川佳純は「正直動揺した。こんなことがあるのかという衝撃を受けた」とルール変更への疑問を吐露する一方、伊藤美誠は「面白そうじゃんと思った。強いチーム同士が合体する。早く試合がしたいと思った」と前向きにとらえていたが、そのほかの参加国の反応も気になるところではある。
「いずれ日本や中国に勝つチャンスも」
ちなみに合同チームのメンバーは韓国5人、北朝鮮4人だったが、準決勝に出場したのは韓国2人、北朝鮮1人だった。それでも残り6人も一緒にベンチ入り。試合は日本に0-3でストレート負けしたが3位となり、全員に銅メダルが授与された。
韓国と北朝鮮からすれば、結果としては良かったかもしれない。ただ、代表の座をかけて猛練習してきた選手としては、出場機会が奪われるのは良い気分ではないはずだ。
個人的にはその辺りが気になっていたが、8日に仁川空港に降り立った韓国選手たちがメディアの前でこう心境を吐露していた。
日本戦の第1試合目に出場したチョン・ジヒは「思っていたよりもとても緊張していた。合同チームの構成は様々な部分で雰囲気が違い、緊張していたのは事実です」と笑顔を見せていた。
エントリー枠への心配も
また、「北朝鮮の選手とは互いに準備を万全に進め、次回また会おうと約束した。次はもっと良いメダルを獲得したい」と語っている。
石川佳純を苦しめた北朝鮮のカットマン、キム・ソンイに出場を譲る形になった韓国のソ・ヒョウォンも比較的、好意的なコメントを残している。
「もちろん出場したかったですが、(キム・)ソンイの試合を見て学ぶことが多かった。一緒に練習しながらすぐに親しくなりました。北朝鮮は強いので、一緒に練習して試合に臨めば、強いチームになると思う。今回は時間が足りなかった。しっかり準備期間を設ければ、日本や中国にも勝つチャンスはあると思います」
平野美宇と対戦したヤン・ハウンは、合同チームに期待しつつも、個人のエントリー枠について心配するコメントを残している。
「エントリーの拡大の問題など選手側に被害が発生しなければ問題ないでしょう。南北が力を合わせれば、銅メダルを銀メダルに、銀メダルを金メダルに変えることもできる」
8月にインドネシアのジャカルタで開催されるアジア大会で、韓国と北朝鮮は合同入場することが決まっており、卓球も南北合同チームで出場する可能性が大きい。
来月「平壌オープン」に韓国初参加か
ところで、米朝首脳会談が6月12日にシンガポールで開催されることが決まったが、その翌日から、北朝鮮の平壌では、ITTF(国際卓球連盟)ワールドツアーの平壌オープン(6月13~17日)が開催される。
ここに韓国がエントリーする意向を示しており、正式に決まれば平壌オープン初参加となる。
ちなみに平壌オープンは2015年からITTF公認のワールドツアーとして毎年開催され、一定の実績を残している。
ただ、ワールドツアーでは一番下の格(チャレンジ)の大会で、中国、シリア、スイスなどの選手が出場しているが、日本は「強化の面でも行く必要がない」として参加を見送っている。
いずれにしても、韓国と北朝鮮を取り巻く、スポーツ関連の動きはこれから大きく加速化しそうだ。だが、スポーツの世界で公平性を置き去りにせず、見る人たちが納得するフェアな状態で合同チーム結成が行われるべきだ。
今後は卓球だけでなく、サッカーでも南北合同チーム結成の話も浮上するだろう。そうなれば注目度は高まるし、話題性には事欠かないが、流れを止めずに前進できるのか。南北の本気度を世間は見守っている。
”南北合同チーム”というキーワードが、世界のスポーツシーンにどのような効果をもたらしていくのか、今後も注視していきたい。