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アトピー性皮膚炎患者のQOL改善に期待できるウパダシチニブの効果

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(写真:イメージマート)

ウパダシチニブとステロイド外用剤(TCS)の併用療法で、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者のかゆみや睡眠障害が改善

アトピー性皮膚炎は、慢性的な炎症性皮膚疾患で、強いかゆみと湿疹を繰り返し引き起こします。世界的に人口の2〜5%が罹患していると言われており、患者のQOL(生活の質)に大きな影響を与えています。最近の研究で、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のウパダシチニブと局所コルチコステロイド(TCS)の併用療法が、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者の症状改善に有効であることが示されました。

AD Upという第3相臨床試験では、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者901人を対象に、ウパダシチニブ15mg、30mgとTCSの併用、またはプラセボとTCSの併用療法の効果が比較されました。その結果、ウパダシチニブとTCSの併用群では、プラセボ群と比べて、かゆみや皮膚の痛み、睡眠障害などの症状が早期から大幅に改善し、52週間にわたって効果が持続することが確認されたのです。

【ウパダシチニブとTCSの併用でかゆみと睡眠の質が改善】

アトピー性皮膚炎患者にとって、強いかゆみは大きな悩みの一つです。AD Upの試験では、ウパダシチニブとTCSの併用群で、投与開始1週間後からかゆみが有意に改善し、16週目には50%以上の患者で臨床的に意味のある改善が見られました。同様に、睡眠障害も早期から改善し、52週目まで効果が持続しました。ウパダシチニブは、かゆみの原因となるサイトカインのシグナル伝達を阻害することで、症状を緩和すると考えられます。QOL改善のカギを握るかゆみと睡眠の質を高める効果は注目に値するでしょう。

【皮膚の炎症や痛みの軽減にも期待】

ウパダシチニブとTCSの併用療法は、皮膚の炎症や痛みの改善にも効果的であることが示されました。投与開始1週間後から皮膚の痛みが大幅に軽減し、16週目には55%以上の患者で臨床的に意味のある改善が見られました。また、病変部の紅斑、浸潤、鱗屑などの炎症所見も著明に改善しました。皮膚バリア機能の回復により、外的刺激に対する過敏性が和らぎ、痛みや不快感が軽減したと推測されます。

【QOLの向上と治療満足度の上昇】

ウパダシチニブとTCSの併用療法は、アトピー性皮膚炎患者のQOLを大幅に改善することが確認されました。1週間後から日常生活への影響や感情面のストレスが軽減し、16週目には80%以上の患者でQOLの有意な改善が見られました。また、40%以上の患者が症状を「非常に良くなった」または「かなり良くなった」と評価し、治療に対する満足度も高い結果となりました。アトピー性皮膚炎は見た目の問題だけでなく、患者の心理的・社会的な負担が大きい疾患です。ウパダシチニブによるQOLの向上は、患者にとって大きな福音と言えるでしょう。

AD Upの試験結果から、ウパダシチニブとTCSの併用療法は、中等症から重症のアトピー性皮膚炎患者の症状を速やかかつ持続的に改善し、QOLを高める効果が期待できます。今後、ウパダシチニブが新たな治療選択肢として、多くの患者の助けになることを願っています。アトピー性皮膚炎でお悩みの方は、ぜひ皮膚科専門医にご相談ください。

参考文献:

Silverberg JI, et al. Upadacitinib plus topical corticosteroids in atopic dermatitis: week 52 AD Up study results. J Allergy Clin Immunol. 2022;149(3):977-987.e14. doi: 10.1016/j.jaci.2021.07.036.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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