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米イージス艦、石垣島への接岸寄港認められずに沖合停泊による寄港へ 防衛省と市長と米軍の様々な思惑

高橋浩祐米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員
イージスシステム搭載の米海軍ミサイル駆逐艦「ラファエル・ペラルタ」(米海軍)

米海軍横須賀基地に配備されているイージスシステム搭載のミサイル駆逐艦「ラファエル・ペラルタ」(満載排水量9217トン)が3月11日から14日に予定していた、沖縄県石垣島の石垣港クルーズ船バースへの接岸寄港が認められず、沖合停泊による寄港を計画していることが分かった。計画通りに進めば、尖閣諸島や台湾に近く対中国で地政学的に重要な意味を持つ石垣島への初めてのイージス艦寄港となる。

石垣市港湾課や石垣海上保安部によると、米海軍が日米地位協定に基づき、石垣海上保安部を通じて港湾管理者の石垣市に寄港を通知していた。米海軍は「補給と休養」を寄港の目的に挙げている。これに対し、石垣市は安全に使用できる深さの岸壁がないとして入港を認めないことを決めた。

石垣市港湾課によると、石垣港の最も水深が深い岸壁は10.5メートル。これに対し、同駆逐艦の喫水(船底から水面の距離)は9.8メートルだ。公益社団法人の日本港湾協会は、港湾を安全に使用するための基準として「必要水深=入港船舶の喫水×1.1」と定めている。この計算式に同駆逐艦の喫水を当てはめると必要水深は10.78メートルとなり、石垣港クルーズ船バースの水深10.5メートルを上回る。このため、市港湾課は同駆逐艦の接岸寄港に対応できる岸壁はないとして入港を不可とした。

日本港湾協会担当者は13日、筆者の取材に対し、「海では波の上下のうねりなどが起き、船底と海底との十分な『余裕水深』がないといけない。ギリギリの水深はダメ。民間船の場合は満載か満載でないかで船の重みも変わって『余裕水深』にも幅があるが、軍艦の場合はなかなかそうはいかないだろう」と指摘した。

●駆逐艦乗組員は船の乗り換えで上陸

石垣市議会議員の砥板芳行氏(国民民主党)によると、接岸寄港が認められなかった米海軍は、バース沖合に停泊させ、他の船に乗り換えて乗組員319人を上陸させる計画を立てているという。

琉球新報も12日、匿名の関係者を引用し、「駆逐艦はバースから沖合約3キロの『検疫錨地(びょうち)』に停泊する」と報じた。

米駆逐艦による初の石垣寄港計画について、砥板氏は「2、3年前に供用開始となった石垣港新港地区クルーズ船用岸壁(20万トンクラス接岸可)の水深は10.5メートルなので、船首ソナーを備えるイージス艦接岸に必要な水深12メートルには足りない。それなのに、なぜ寄港打診をしてきたのか様々な憶測を呼んでいた」と指摘する。

その上で、「石垣市の中山義隆市長は、国が進める特定重要拠点空港・港湾整備を、かなり前のめりで推進しようとしている。おそらく、あのクラスの米海軍戦闘艦の寄港打診があったが、喫水線の問題で寄港を断らざるを得なかった。だから、特定重要拠点港湾として、早急な港湾整備が必要だと説得力を持たせようとの思惑があったのではと言われている」と話した。

そして、「石垣市の港湾計画では、イージス艦接岸を見据え(水面下で)水深12メートルの岸壁を計画しているが、事業化は決まっていない。建設業界から大きな支援を受けている中山市長は、特定重要拠点港湾指定で事業化を急いでいる」との見方を示した。

地元紙の八重山毎日新聞も13日、「戦闘機や護衛艦も使用 特定重要拠点」との見出しで、「政府が『有事』に備えて指定を計画する特定利用空港・港湾(特定重要拠点)を巡り、戦闘機や護衛艦が空港・港湾を使用する可能性のあることが防衛省への取材で分かった。自衛隊の機動展開や国民保護・災害時の対応の実効性を高めるためという」と報じた。

砥板氏は、防衛省と米軍の思惑としては、「これまで寄港のなかった、あのクラスの戦闘艦の寄港計画で、石垣市や市民、沖縄県の反応を見る観測気球的なものであったのではないか。海自でさえ、入港接岸できる補給艦を沖合停泊させ、市民の反応を見て慣れさせているのに」と指摘した。

石垣島は、鹿児島県の大隅半島から日本最西端である沖縄県与那国島までの全長約1200キロにわたる南西諸島に位置する。中国は南西諸島から台湾、フィリピンを結ぶ第1列島線以西を内海化する動きを強めており、石垣島への米イージス艦の初寄港は、尖閣有事や台湾有事を念頭に日米による対中国での足場づくりの狙いがあるとみられる。

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米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

英軍事週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」前東京特派員。コリアタウンがある川崎市川崎区桜本の出身。令和元年度内閣府主催「世界青年の船」日本ナショナルリーダー。米ボルチモア市民栄誉賞受賞。ハフポスト日本版元編集長。元日経CNBCコメンテーター。1993年慶応大学経済学部卒、2004年米コロンビア大学大学院ジャーナリズムスクールとSIPA(国際公共政策大学院)を修了。朝日新聞やアジアタイムズ、ブルームバーグで記者を務める。NK NewsやNikkei Asia、Naval News、東洋経済、週刊文春、論座、英紙ガーディアン、シンガポール紙ストレーツ・タイムズ等に記事掲載。

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