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アイコスなど「加熱式タバコ」から身体に害のある「超微粒子状物質」が

石田雅彦科学ジャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 喫煙率が下がり続けているが、若い世代を中心にしてアイコス(IQOS)などの加熱式タバコを吸う喫煙者が増えている。このタイプの新型タバコが市場に出てから数年しか経っていないため、健康や受動喫煙の害はまだよくわかっていない。最近の研究によると、加熱式タバコからの超微粒子が屋内環境をひどく汚染するのだという。

広がる加熱式タバコ

 アイコスのような加熱式タバコを吸う喫煙者は、同時に紙巻きタバコを吸うことも多い。加熱式タバコのみを吸う喫煙者は、紙巻きタバコも吸う喫煙者に比べ、ちょっと想像すると喫煙本数が少ないなどの違いがあるように考えるが実際はそうではなく大きな違いはないようだ(※1)。

 アイコスを製造販売しているフィリップ・モリス・インターナショナル(以下、PMI)は、すでにアイコス製品を世界50カ国以上で売っている。ほとんどの国で地域限定だが、日本では全国どこでも買えてしまう。

 PMIの2020年の第1四半期のIR情報によれば、日本の加熱式タバコ市場におけるアイコス・シリーズ(Heated Tobacco Unit、HTU)のシェアは19.1%(前年同期17.0%)、タバコ市場全体で6.0%(前年同期5.7%)という。また、喫煙者の安価なシガリロタバコへの切り替えの影響があり、日本のタバコの全売上げ本数は前年同期より5.7%マイナスになったが、その一方で同社の売上本数は日本で5.6%プラスになっていて新型コロナ感染症の影響は限定的だったようだ。

 PMIの最高経営責任者(CEO)のアンドレ・カランザポラス(Andre Calantzopoulos)はギリシャ南部で生まれ育ったが、そのギリシャのテッサロニキ・アリストテレス大学などの研究グループが、タバコを吸わない人を含めた成人の参加者50人(喫煙者25人、非喫煙者25人)にアイコスを吸ってもらったところ、どちらの群も肺機能が著しく悪化したという(※2)。

 こうした実験手法は倫理的にどうかと思うが、同研究グループは以前、タバコを吸わない人だけを対象にして同じ実験をし、今回は喫煙者でもアイコスの喫煙によって肺機能の悪化がみられたということになる。

副流煙にも有害物質が

 ところで、こうした加熱式タバコから受動喫煙はあるのだろうか。

 米国の研究グループがアイコスを使って主流煙(喫煙者が吸い込む煙)と副流煙(吸い込む煙以外の発生物質)を分析したところ、主流煙でニコチン、メントール、グリセリン、アセトアルデヒド、ジアセチル、アクロレイン、グリシドールが検出され、副流煙にもこれらの物質に加えてベンゼンなど33種類の物質が特定されたという(※3)。

 これらの物質の中で、アセトアルデヒドは明白な発がん性物質であり、ジアセチルは呼吸器疾患を引き起こすことが知られている。アクロレインは強い毒性があり、グリシドールには発がん性がある。もちろん量は主流煙のほうが多いが、アイコスの副流煙にもアセトアルデヒド、呼吸器に害を及ぼすアセトン、劇物に指定されている2-ブタノンなどが微量ながら含まれていたというわけだ。

 また最近、イタリアのローマ・ラ・サピエンツァ大学などの研究グループが、アイコス(6種類のHeets)、ブリティッシュ・アメリカンタバコのグロー(glo、4種類のNeoスティック)、そして電子タバコのJUUL(3種類のリキッド)、紙巻きタバコ(マールボロ・ゴールド)を使い、それぞれが発生する直径が10μm、4μm、2.5μm、1μmのサイズの粒子状物質(Particulate Matter、PM)を屋内環境での濃度で分析比較した結果を発表した(※4)。

 エアロゾルの中に検出された粒子状物質のサイズは、主にPM1未満の超微粒子だった。従来の紙巻きタバコの濃度が最も高かったが、全ての新型タバコで粒子状物質による空気の悪化が観察されたという。

 特に12秒ほどの短時間に急激に粒子状物質の濃度が高まる傾向があった(1立方メートルあたり22,800〜46,500μg)。喫煙者が集まるクラブや娯楽施設などの現実的な空間では、これらの新型タバコと紙巻きタバコが混在する危険性があるが、研究グループは相乗的な空気環境の悪化が起きるかもしれないので、これらのタバコ製品の使用を規制する必要があると警告している。

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実験で得られたベースライン(黄色、左端)、それぞれの新型タバコ、紙巻きタバコ(濃いグレー、右端)のPM1濃度の比較。新型タバコの超微小粒子の濃度は紙巻きタバコに遜色のない値だ。それぞれのデバイスごとに濃度に差があることがわかるが、アイコス、グロー、JUUL、それぞれに濃度の違う銘柄が混在している。Via:Carmela Protano, et al., "Impact of Electronic Alternatives to Tobacco Cigarettes on Indoor Air Particular Matter Levels." International Journal of Environmental Research and Public Health, 2020

感染症の重症化リスク

 加熱式タバコから出る煙は目に見えにくく臭いも少ない。喫煙者も他人に害を及ぼしていないと勘違いしがちだ。

 だが、実際には大気汚染の基準PM2.5よりも小さな微小粒子状物質が、屋内の空気中へかなり大量に排出されている。こうした微小粒子状物質を吸い込むと、それがどんな成分かを問わず、肺など呼吸器の奥まで入り込み、喘息や気管支炎といった病気にかかりやすくなる。

 ディーゼル排気ガスなどに含まれるPM1以下のサイズの微小粒子は人工的に作られることが多く、自然環境ではほとんどみられないサイズの物質だ。上記のように、イタリアの研究グループによる実験では、PM2.5よりずっと小さな大量の微小粒子状物質が新型タバコから発生していることがわかる。

 新型コロナ感染症は、肺や気管支などの呼吸器にダメージを及ぼして重症化することが多い。アイコスなどの加熱式タバコは、喫煙者にも受動喫煙をこうむる周囲の人にも害になり、呼吸器感染症を重症化させるリスクになることを知っておくべきだろう。

※この記事は醍醐味エンタープライズのホームページから転載しました。

※1:Edward Sutanto, et al., "Concurrent Daily and Non-Daily Use of Heated Tobacco Products with Combustible Cigarettes: Findings from the 2018 ITC Japan Survey." International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.17, Issue6, 2020

※2:Athanasia Pataka, et al., "Acute Effects of a Heat-Not-Burn Tobacco Product on Pulmonary Function." Medicina, Vol.56, 292, doi:10.3390/medicina56060292, 2020

※3:Lucia Cancelada, et al., "Heated Tobacco Products: Volatile Emissions and Their Predicted Impact on Indoor Air Quality." Environmental Science & Technology, Vol.53, 7866-7876, 2019

※4:Carmela Protano, et al., "Impact of Electronic Alternatives to Tobacco Cigarettes on Indoor Air Particular Matter Levels." International Journal of Environmental Research and Public Health, Vol.17, 2947, doi:10.3390/ijerph17082947, 2020

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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