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「頂上が見えないという点では森林限界の手前」藤井聡太新王将(19)王将戦第4局翌日会見コメント全文

松本博文将棋ライター
五合目からの凍りつく冬の富士山(写真:イメージマート)

――一夜明けた率直な思いを。

藤井聡太新王将「そうですね・・・(小考)。昨日の対局は中盤、非常に難解な局面が多かったので、そのあたりのことを振り返っていた時間が長かったんですけど。一夜明けて、改めて、王将獲得の喜びというのを実感をもって感じるところはあります」

――昨夜、タイトル獲得直後の記者会見で「けっこう気付かない手を指されることが多かった」と語っていた。その手というのは、コンピュータ将棋ソフトでの研究の手だと感じた?

藤井「あ、いえ、もちろん研究段階でそういったこともあったんですけど。それ以上に、たとえば第3局ですと中盤で(70手目)△6四銀左という手があったんですけど、それでこちらにちょっと有効な手がないというのは、対局中はあまりそこまで気付いていなかったというところもありましたし。やっぱりそういう中盤のバランスの取り方というか、距離の詰め方といったところでやっぱり、渡辺名人の強さというのを改めて感じたところは多くありました」

――王将を取って、改めて目指すところは?

藤井「基本的にあまり、具体的な結果を明確な目標として取り組んでいるということではないので。今後もいままでと同じように実力を高めていくことを見据えて取り組んでいけたらというふうに思っています」

――冬季オリンピックで印象に残るアスリート、これから見たい競技は?

藤井「今回のオリンピックについてはあまり観戦はしていないんですけど。そういったスポーツ選手の方であったり、各分野でトップの方の活躍というのは、自分にも刺激を受けることは多いです」

――「氷上のチェス」カーリングに興味は?

藤井「そうですね(苦笑)。自分自身はあまり、全然詳しくはないんですけど、機会があれば見てみようかなとは思います」

――王将戦第1局と第3局では先手番で相掛かりを採用した。

藤井「相掛かりについては先手番では最近よく指しているということもありますし。また、けっこう序盤から相掛かりは分岐の多い展開になりやすいので、そういったところが長い持ち時間には適しているのかな、というふうに思ったというのは、採用の理由の一つです」

――印象に残っている自分の指し手、局面。

藤井「そうですね、うーん。印象に残っている場面ということでいうと、第3局、中盤から終盤にかけて少しずつ苦しいような局面が続いていたんですけど、終盤で(95手目)▲4五桂と跳ねてから、▲5三桂成から▲5二銀打から、▲5四銀引成というふうに迫っていって、なんとか勝負形(しょうぶがたち)に持ち込むことができたので。そのあたりは、うまく勝負する手順を選ぶことができたのかな、というふうには思っています」

――A級昇級がかかったB級1組順位戦最終戦(3月9日)で佐々木勇気七段と対戦する。

藤井「来月、はい、順位戦の最終局で。やっぱり佐々木七段、大変な実力者なので、こちらもそのあと1か月ぐらいあるので、その間に少しでも実力を高めてまた、しっかり準備して、対局に臨めればというふうに思っています」

――王将戦の勝者撮影について。

藤井「王将戦だとそうですね、対局ごとに勝者の記念撮影というのも一つの恒例のイベントになっているんですけど(微笑)。私自身は今回、王将戦の番勝負に出るの、今回初めてだったので、それも当然初めての経験ではあったんですけど。そうですね、まあ、なんというか、普段できないようないろいろなことをさせていただけるという点ではいい経験になりましたし、けっこう自分自身も楽しくなんとかやることができたかな、と思います」

――昨晩はよく眠れましたか?

藤井「はい」

――家族に報告は? 次の対局まで日程が空くが何をするか?

藤井「家族とはメッセージで一言やり取りをしたというぐらいなので、また家に帰ってから改めて報告をしたいと思います。しばらく対局の間隔としては空くことになるんですけど。その間(かん)になにかこれまでと大きく違うことをするというわけではなくて。いままで取り組んできたことを引き続きやっていって、なにか成果が残せるように取り組んでいければと思っています」

――宿泊されているホテルから、遠くに富士山が見えたというお話なんですけれども、ぼんやりでいいんですけれども、その富士山でいま藤井さんがどのくらいの何合目ぐらいに登っているというようなイメージがありますでしょうか。

藤井「はい(苦笑)。えーと、そうですね・・・。うーん・・・。そうですね、なんというか、将棋というのはとても奥が深いゲームで・・・。うーん・・・。そう・・・ですね。まあ・・・。なんというか、本当にどこが頂上なのかというのもまったく見えないわけなので。うーん、そうですね・・・。そういう意味でもなんというかまだ、頂上が見えないという点ではなんか、森林限界の手前というか、まだまだやっぱり、なんというか、上の方には行けていないのかな、とは思います」

――ちなみに山は富士山が好きですか?

藤井「えーと、そうですね。新幹線から見えるときとかは、けっこうよく見ています」

しんりん‐げんかい【森林限界】

高緯度地方や高山の森林分布の限界。高緯度地方では亜寒帯と寒帯の境に生じ、北半球では北緯60~70度付近。高山では亜高山帯と高山帯の境に生じ、本州中部では2400~2600メートル付近にある。

(出典:『広辞苑』第7版)

(藤井新王将の言葉はできるだけ忠実に再現し、記者からの質問は簡略に表記した)

将棋ライター

フリーの将棋ライター、中継記者。1973年生まれ。東大将棋部出身で、在学中より将棋書籍の編集に従事。東大法学部卒業後、名人戦棋譜速報の立ち上げに尽力。「青葉」の名で中継記者を務め、日本将棋連盟、日本女子プロ将棋協会(LPSA)などのネット中継に携わる。著書に『ルポ 電王戦』(NHK出版新書)、『ドキュメント コンピュータ将棋』(角川新書)、『棋士とAIはどう戦ってきたか』(洋泉社新書)、『天才 藤井聡太』(文藝春秋)、『藤井聡太 天才はいかに生まれたか』(NHK出版新書)、『藤井聡太はAIに勝てるか?』(光文社新書)、『棋承転結』(朝日新聞出版)など。

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