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アトピー性皮膚炎・乾癬患者のワクチン接種率:予防接種で感染リスクを軽減

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【慢性炎症性皮膚疾患患者のワクチン接種状況】

慢性炎症性皮膚疾患、特に乾癬やアトピー性皮膚炎などで免疫抑制治療を受けている患者さんにとって、ワクチン接種は非常に重要です。これらの患者さんは、免疫機能が低下しているため、感染症にかかるリスクが高くなっています。

最近の研究では、ドイツのハンブルク大学医療センターで行われた調査結果が発表されました。この調査では、7,365人の慢性炎症性皮膚疾患患者を対象に、COVID-19、インフルエンザ、帯状疱疹に対するワクチン接種率が調べられました。

調査結果によると、COVID-19ワクチンの接種率が最も高く、79.7%の患者さんが基本的な接種(2回)と少なくとも1回のブースター接種を完了していました。インフルエンザワクチンの接種率は49.7%で、帯状疱疹ワクチンの接種率は最も低く、わずか9.2%でした。

【年齢別・疾患別のワクチン接種率の違い】

興味深いことに、60歳以上の患者さんでは、ワクチン接種率が全体的に高くなっていました。この年齢層では、COVID-19ワクチンの接種率が89.9%、インフルエンザワクチンが73.8%、帯状疱疹ワクチンが22.3%でした。

疾患別に見ると、乾癬患者さんのCOVID-19ワクチン接種率が87.4%と最も高く、アトピー性皮膚炎患者さんでは90.2%でした。一方、インフルエンザワクチンの接種率は両疾患でほぼ同じで、約49%でした。

帯状疱疹ワクチンの接種率は、両疾患ともに低く、9%前後にとどまっていました。

【免疫抑制治療とワクチン接種の関係】

免疫抑制治療を受けている患者さんでは、ワクチン接種がより重要となります。特に、生物学的製剤やヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬などの新しい治療法を受けている患者さんは注意が必要です。

調査結果では、全身治療を受けている患者さんのCOVID-19ワクチン接種率が、治療を受けていない患者さんよりも若干高い傾向が見られました。しかし、インフルエンザや帯状疱疹のワクチン接種率には、治療の有無による大きな差は見られませんでした。

この結果から、慢性炎症性皮膚疾患の患者さんに対して、ワクチン接種の重要性をより啓発していく必要があると考えられます。特に、帯状疱疹ワクチンの接種率が低いことは懸念事項であり、医療提供者はこの点により注意を払うべきでしょう。

日本の状況と比較すると、COVID-19ワクチンの接種率は諸外国と同様に高い傾向にありますが、インフルエンザや帯状疱疹のワクチン接種率は十分とは言えません。特に、帯状疱疹ワクチンは日本でも比較的新しいワクチンであり、その重要性についての認識がまだ十分に広まっていない可能性があります。

慢性炎症性皮膚疾患の患者さんにとって、ワクチン接種は感染症予防の重要な手段です。特に、免疫抑制治療を受けている場合は、主治医とよく相談しながら、適切なタイミングでワクチン接種を受けることが大切です。

ワクチン接種を検討する際は、以下の点に注意しましょう:

1. 主治医に相談する:現在の治療内容や病状に応じて、最適なワクチン接種のタイミングを決めましょう。

2. 接種スケジュールを立てる:複数のワクチンを接種する場合は、適切な間隔を空けて計画的に接種しましょう。

3. 副反応に注意する:ワクチン接種後は、通常の副反応と皮膚症状の悪化を区別できるよう、注意深く観察しましょう。

4. 定期的な見直し:ワクチンの種類や推奨される接種間隔は変更される可能性があるので、定期的に最新情報を確認しましょう。

慢性炎症性皮膚疾患の患者さんが適切にワクチン接種を受けることで、感染症のリスクを軽減し、より安心して日常生活を送ることができます。ワクチン接種に関する不安や疑問がある場合は、遠慮なく主治医や皮膚科専門医に相談してください。

最後に、この記事で紹介したドイツの研究結果は、日本の状況と完全に一致するわけではありません。しかし、慢性炎症性皮膚疾患患者のワクチン接種の重要性を再認識する良い機会となるでしょう。皆さまの健康と安全のために、ワクチン接種について主治医とよく相談し、適切な予防措置を講じていただければと思います。

参考文献:

Stephan, B.; Meineke, A.; Augustin, M.; Sorbe, C. Vaccination Rates in Patients with Chronic Inflammatory Skin Diseases and Immunomodulatory Systemic Therapies—Vaccinations against SARS-CoV-2, Influenza Virus or Varicella Zoster Virus. Life 2024, 14, 1157. https://doi.org/10.3390/life14091157

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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