昨年優勝した阪神タイガースジュニア、今年のセレクションでも逸材ぞろい!監督はOBの柴田講平
■NPB12球団ジュニアトーナメント
今年も年末に行われる「NPB12球団ジュニアトーナメント」。
「子どもたちが“プロ野球への夢”という目標をより身近に持てるように」との思いから2005年に創設され、今年で19回目の開催となる。これまで、この大会に出場した選手の中から数多くのプロ野球選手が誕生し、“プロ野球の夢”をかなえている。今や全国の野球少年少女にとっては憧れの舞台だ。
昨年末の大会もNPBの公式YouTubeで生配信されていたので、それを見て参戦したいと思った小学生も多いだろう。今年も各球団でセレクションを行い、ジュニアチーム結成が進んでいるところだ。
■阪神タイガースジュニアのセレクション
阪神タイガースでもジュニアチームのメンバーを決めるセレクションが行われた。最初の関門は動画選考。6月28日から7月23日にインターネットで動画の応募を受け付けるというのが、1次セレクションだ。
ジュニアチームの代表・中村泰広氏によると今年も約330名の応募があり、103名が動画選考を通過したという。続いての2次セレクションは屋外会場での選考会だが、初日の審査で45名に絞られ、2日目の審査を経て、最終セレクションには26名が進んだ。
8月27日に行われた最終セレクションでは、受験者を2チームに分けた紅白戦で審査した。受験者はできるポジションすべてでパフォーマンスを披露し、それぞれが持てる力をすべて発揮した。
この中から最終的に16名のちびっこ虎戦士が選ばれる。(近日公開)
■柴田講平 監督
今年のタイガースジュニアを率いるのは、柴田講平監督、玉置隆投手コーチ、森田一成野手コーチだ。このジュニアチームの特徴は、その球団のOBが首脳陣を務めるというところだ。
3人の指導者たちはタイガースのOBであることはもちろん、タイガースアカデミー・ベースボールスクールのコーチでもある。
柴田監督は2年前までの4年間、ジュニアチームの野手コーチに就いていた。ジュニアトーナメントに関しては“勝手知ったる”といったところだ。
「監督という立場になったからといって、別に何がどう変わるっていうわけでもない」とは言うが、かつてのジュニアの教え子たちからは「連覇してください」と早くもプレッシャーをかけられていると明かす。
「その年その年で選手も変わるし、何が起こるかわからないので」と、また新たな気持ちで臨む。
「今、野球が変わりつつある。野球が新しい時代に入ってきている時期なのかなというのもあります。その中で、僕らが伝えなくちゃいけないことは変わらないんで。技術も大事だけど、志とか、そういうところをね」。
変わりゆく中でも不変のものもある。現在小学6年生のジュニアたちに何を伝えるべきか。そこをしっかり考えていくという。
「ソツのない野球をしたい。隙をなくすっていうかね。そうすれば自ずとミスは減ると思うので。まずはそういったことを徹底したい。誰もミスをしたくてするわけじゃないけど、防げるミスは極力防ぎたい」。
昨年の“上本阪神”(上本博紀監督)を振り返り、「ミスをしないというか、堅実だった。そういうところは勉強になる」と優勝の要因として挙げ、いいところは今年の選手たちにも伝え、受け継いでいく考えでいる。
セレクションでは、受験生たちに積極的に声をかけていた。監督のフレンドリーな振る舞いに、受験生たちも少し緊張がほぐれていたようだ。自身も2年ぶりのセレクションで、しっかりと目を光らせた。
「申し訳ないけど、26人のうち10人は落ちてしまって、悔しい気持ちにさせてしまう。でも、これがゴールじゃないのでね。この先があるから」。
そう。ここで野球人生が終わるわけではない。ここから先のほうが長い。
「逆に16人に選ばれたからって、そこでプロ野球選手になれる、メジャーリーガーになれるっていう保証なんて1ミリもない。そういう勘違いもしやすい場所でもあるので、そういったこともしっかり教えていきたい」。
“人として”という部分の教育も大切にしているのは、以前のジュニアコーチ時代と変わらない。
「連覇?言わないですよ、そんなん(笑)。岡田監督と一緒です。そういうのは言わないです(笑)」。
タイガースの岡田彰布監督は優勝を「アレ」と表現しているが、はたして柴田監督はなんと言うのだろうか。いずれにしろ過度なプレッシャーは感じず、2年ぶりのジュニアトーナメントを監督自らが存分に味わう。
■玉置隆 投手コーチ
玉置コーチは2015年限りでタイガースを退団後、社会人野球(新日鐵住金鹿島⇒日本製鉄鹿島)で主力投手として活躍し、指導者としても腕を振るった。
現在は古巣に戻り、タイガースアカデミー・ベースボールスクールのコーチとして、子どもたちに指導する日々を送っている。
ジュニアのコーチは初めてで、まずセレクションで驚いたという。
「いやぁ、もう、すごいですよ。僕が小学6年生のとき、この子たちみたいにできたかっていったら、できなかった。僕らのチームなんて9人ギリギリのチームだったし(笑)。本当にレベルの高い子たちが集まっている」。
そう言って目を丸くしていた。
しかし、驚いてばかりもいられない。精鋭16人を選出しなければならない。その責任をしっかりと感じながら、真剣に見ていた。
「ここに懸ける思いっていうのはすごく強いと思う。選ばせてもらうにあたっては、子どもたちとその親御さんの気持ちを踏まえた上で、妥協なく、一つ一つ個々人の能力を見極めることが大事。子どもたちとその親御さんの思いに応えられるように、しっかり見てこられたと思います」。
玉置コーチの見ているポイントを挙げてもらった。
「まず、役割をしっかりとこなせる子。4番バッターばかりを集めてもいいわけでもないので。あと、ピッチングコーチとしては、ピッチャーの能力をしっかり見ます。といっても、プロ野球と違ってピッチャーだけできたらいいわけじゃないので、ピッチャーをしながら守備もできる、バッティングもいいという、そういうところを見させてもらいました。また、今から12月までにさらに伸びるかもしれないというところも踏まえて」。
伸びしろもしっかり考慮に入れた。
チーム結成後のビジョンはどう描いているのか。
「これからの子たちで、まだ体もできていない。絶対にケガのないよう、大事にしてあげないといけない。これから中学、高校、大学、社会人、プロ野球…と進んでいくと思うので、ここで大きいケガをさせることは絶対にしたくない」。
成長期に入る子どもたちの体には、十二分に配慮していくつもりだという。
「やっぱり勝負の世界なので、もちろん勝ちにこだわってはやっていきたいけど、その中でも子どもたちだけでなく親御さんたちも含めて、タイガースジュニアに入ってよかった、いい経験ができた、楽しかったって思えるような野球ができたらいいなと思いますね。結果を追い求めながらですけど」。
楽しみながら勝つ、勝ちながら楽しむ。そんな姿が浮かんでくる。
■森田一成 野手コーチ
森田コーチは2021年からタイガースアカデミー・ベースボールスクール岡山校の専属コーチを任されており、子どもたちの指導に当たってきているが、ジュニアのコーチは初だ。
ジュニアチームのイメージを訊くと「子どもの憧れで、そこを目指してやっている子が多い。ジュニアからプロに行っている選手も多いから、やっぱり志の高い子が集まっているなというイメージ」との答えだった。
実際、最終セレクションに残った受験生たちの能力の高さを目の当たりにすると、「レベルが高い」と息を呑み、「すごい子ばかりだから、選ぶのがたいへん」と汗をいっぱいかきながら、受験生たちに熱い眼差しを送っていた。
森田コーチの選定するポイントはこうだ。
「いわば社会人野球みたいなものじゃないですか。トーナメントで、負けたら終わりというか。だから、どちらかというと堅実な子とか、周りを見られる子、そういう子をできるだけ推したつもりです。『オレが、オレが』というよりは、みんなでできる子のほうがいいかなと。『オレが、オレが』という部分ももちろん必要ではあるんだけど、それだけではダメだと思うので、そういう視点で見ていました」。
個々の能力の高さだけでなく、協調性や視野の広さを備えていること。それによって個々の力を結集して強固な“チーム力”にする。一発勝負の大会に必要なことだと、森田コーチは考えている。
セレクションを見ている中で、目を引く選手がいたという。「獲れたらキャプテンでいきたいなっていう子もいた」と、一緒に戦えることを楽しみにしている。
昨年優勝しているということで「みんなもプレッシャーがかかると思うんですけど、僕も一緒にプレッシャーを感じて連覇できるように、監督をサポートしていきたい」と意気込んでいる。そのためにも、森田コーチ自身もしっかりと選手を導くつもりだ。
「できることをちゃんとするというのを、大切にしたい。たとえば攻守交替で駆け足をするとか、打ったら全速力で走るとか、負けていても諦めないとか。そういう、みんなから応援してもらえるような選手やチームにしたいなと思っています。もちろん監督の意向に添いますけど、その中で、そういうところは僕から口うるさく言おうと思います」。
できていないときには鬼になることもあるかもしれないが、それも選手のことを思ってのこと。愛のこもった指導だ。
■ジュニアチームをバックアップしてくれる阪神タイガース
昨年、優勝を経験した中村代表だが、今年もとくに変わりなく臨んでいるという。
「もともとジュニアに関しては、球団でみんなが協力的ですし。勝ち負け関係なくね。だから優勝したからどうとかはないです。常に球団が気にかけてくれていますね」。
優勝した昨年は、球団が選手と首脳陣の名前の入ったペナントを作成してくれ、3月のオープン戦では試合前の甲子園球場でセレモニーを用意してくれた。しかし優勝はしなくとも、常に何かとバックアップしてくれている。
昨年の優勝には中村代表も感極まり、ともに涙していた。しかし願うのはただ一つ、「ケガなくやってほしい。12月まで無事でね」ということだけだ。元気にプレーしてくれることが一番なのだ。今年も陰でジュニアチームを支えていく。
今後、チームが結成されて初めて集まるとき、中村代表にはジュニアたちに伝えたい言葉があるという。それはきっとジュニアたちの胸に響くだろうし、その言葉を心に刻んで、これからの練習や本大会に挑んでもらいたい。
■大会まで4ヶ月
今年の大会は12月26日から28日まで、明治神宮球場と横浜スタジアムで開催される予定。今年はどんな選手が誕生し、どのようなプレーを見せてくれるのか楽しみだ。
【阪神タイガースの大会経験選手】
髙山俊 千葉ロッテマリーンズジュニア(2005年)
髙濱祐仁 福岡ソフトバンクホークスジュニア(2008年)
豊田寛 横浜DeNAベイスターズジュニア(2009年)
浜地真澄 福岡ソフトバンクホークスジュニア(2010年)
佐藤輝明 阪神タイガースジュニア(2010年)
及川雅貴 千葉ロッテマリーンズジュニア(2013年)
門別啓人 北海道日本ハムファイターズジュニア(2016年)
【阪神タイガースジュニアのOB選手】
佐藤輝明 阪神タイガース(2010年)
安田尚徳 千葉ロッテマリーンズ(2011年)
林晃汰 広島東洋カープ(2012年)
内星龍 東北楽天ゴールデンイーグルス(2014年)
嘉手苅浩太 東京ヤクルトスワローズ(2014年)
(撮影はすべて筆者)