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アトピー性皮膚炎の真の苦しみとは?88人の患者が語った生の声

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

アトピー性皮膚炎は、痒みのある赤く乾燥した皮膚を特徴とする慢性の炎症性皮膚疾患です。最近まで、皮膚のみに影響を及ぼす病気だと考えられていましたが、実際には睡眠障害やうつ、不安など、心理面での症状も多くの患者さんを悩ませています。

そんなアトピー性皮膚炎患者さんの生の声を集めた国際調査の結果が発表されました。調査では15カ国から集まった88人の成人患者さんに、45分間の1対1電話インタビューを実施。病気が日常生活に与える影響や、最も辛い症状、治療への期待などを率直に語ってもらいました。

【頻度の高い症状と生活への影響】

インタビューから見えてきたのは、アトピー性皮膚炎が患者さんの生活に多大な影響を及ぼしているという実態です。最も頻度が高かった症状は「痒み」「皮膚の発赤」「皮膚の乾燥・鱗屑」で、75%以上の患者さんが1~3日に1度は経験していました。中でも痒みを毎日感じていると回答した方は66%に上りました。

夜間の睡眠障害も深刻で、45%の患者さんが1~3日に1度は十分な睡眠が取れていないと訴えています。こうした症状の積み重ねから、自信喪失や不安、うつなどの精神的な問題を抱える患者さんも少なくありません。実に52%の方が月に2~3回以上メンタルヘルスの不調を感じ、23%は毎日悩んでいると回答しました。

精神面への影響は生活への支障度が最も高く、月1回以上症状のある患者さんの84%が「生活に少なからず影響がある」と感じ、65%は「非常に大きな影響がある」と回答。精神的な問題が「全く影響ない」と答えた方はわずか2%でした。皮膚の物理的な症状も生活に大きな支障をきたしており、患者さんの79%以上が皮膚の滲出液/出血、乾燥/鱗屑(フケ)、痒み、痛みによって中程度以上の影響があると訴えています。

【周囲の理解不足に悩む患者たち】

調査からは、多くの患者さんが周囲の理解不足に悩まされている現状も浮き彫りになりました。恥ずかしさや「判断される」ことへの不安から、病気のことをオープンにできずに孤独を感じている方が大勢います。症状が落ち着いている時は、アトピー性皮膚炎が自分の生活に与えている影響の大きさを過小評価してしまう傾向もあるようです。

確かに症状が一時的に良くなると、病気の負担を軽く見積もりがちなように感じます。しかし今回のインタビューでは、突っ込んだ質問に答える中で、生活のあらゆる面に影響が及んでいることを患者さん自身が再認識する場面が多くありました。

病気への偏見を恐れ、患者さんが症状を隠そうとするのは日本でもよく見られます。食事制限や通勤手段の変更、ファッションの制約など、一見関係なさそうな事柄にまで影響が及んでいることを、もっと周囲の人々に知ってもらう必要があるでしょう。

また患者さんの多くは、医療従事者が自分たちの病気の負担を過小評価していると感じています。特に皮膚科専門医以外にその傾向が強いようです。アトピー性皮膚炎は単なる皮膚の病気ではなく、生活の質や心の健康に大きな影響を与えていることを、医療従事者ももっと理解すべきだと私は考えます。

【医療者とのコミュニケーション】

医師との関係については、良好だと感じている患者さんが多い一方で、うまくコミュニケーションが取れていないと感じる方も一定数いることが分かりました。診察の場では自分の気持ちを十分に表現する時間がなく、「無駄足だった」と感じて孤独や不満を募らせる患者さんもいるようです。

さらに患者さんは、症状が最も辛い時に限って医師の診察を受けられないことが多いと訴えています。疾患の評価尺度に関する認知度も総じて低く、臨床の場で積極的に活用してほしいという声が聞かれました。

治療法の選択については、国や地域によって患者さんの関与度合いが異なることも明らかになりました。欧米では医師主導の傾向が強いのに対し、東欧・中東・アフリカでは患者さんとの協働が進んでいるようです。ただ、最終的には医師の判断を尊重する患者さんが大半を占めました。

理想的な医師像としては、専門知識を惜しみなく提供し、患者さんに寄り添い共感してくれる人物が挙げられています。医師との良好な関係構築は、生活の質の向上にもつながる重要な要素と言えるでしょう。

【番外編:皮膚バリア機能の重要性】

アトピー性皮膚炎の根本には、皮膚バリア機能の異常があると考えられています。バリア機能が低下することで、刺激物質や病原体が皮膚の中に侵入しやすくなり、炎症反応が起こるのです。

したがって、バリア機能を改善することが症状のコントロールに欠かせません。具体的には、保湿剤の塗布が有効とされています。皮膚科専門医による適切な指導を受けることをおすすめします。

以上、アトピー性皮膚炎患者さん88人の声から見えてきた実態についてお伝えしました。心身両面への影響の大きさ、周囲の理解不足、医療者とのコミュニケーションの課題など、私たち皮膚科医も改めて認識を新たにする必要がありそうです。

【参考文献】

Wollenberg, A., et al. (2024) Patient-reported burden in adults with atopic dermatitis: an international qualitative study. Archives of Dermatological Research, Volume 316, Article number: 380. https://doi.org/10.1007/s00403-024-03130-w

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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