国際信州学院大学はどこにある?~架空大学サイトを現実の大学・企業関係者は笑えるか
780校ある大学のうちの1校…ではなく
2017年現在、4年制大学は780校(文部科学省・学校基本調査)。
国際信州学院大学はそのうちの1校、というわけではありません。先にネタばらしをすると、同校は架空大学、つまりフェイクです。
この国際信州学院大学が話題となり始めたのは2018年春頃。私も先日、知人から教えてもらいました。
先週4月17日にはネットメディア・JCASTニュースが記事にしています。
同記事によると、
このネタ大学が「開校」したのは2018年1月のこと。ネット掲示板「5ちゃんねる」ユーザー達が、偽の公式サイトや教員のSNS、校歌などを続々と制作し始めたのだ。
とのこと。
私も同校サイトを閲覧しましたが、ムダにレベルが高く、思わず釣られそうになりました。
就職実績はYouTuber200人
国際信州学院大学サイトを見ていくと、事情を知らなければ実在の大学と勘違いしそうです。
それくらい、ムダにレベルが高いと言えます。もちろん、随所にはウソとわかる部分が散りばめられています。
「学長の言葉」は、
今日のグローバル化や技術革新はこれまでに類を見ないスピードで急激に変化しています。これに伴い社会全体の価値観や思想が変わりつつあることは言うまでもありません。かつて日本の社会はパーソナルキャピタルの価値を妄信していました。
と、いかにもどこかの学長が言いそうな話を掲載しています。
しかし、
貴方が”planted”されたのは今を生きる世の中なのです。すべての人間が最大限に“Bloom”することを期待します。
最後に初代学長であるコナン・ロシュフォールの言葉を贈ります。
~Les choses sur cette page sont fictives.~
最後のフランス語の部分、自動検索にかけると、
「このページは架空のもの」
というオチ。
大学生協の項目は北海道大学生協からのパクリでした。
就職実績は、フランス大使館、本田技研工業など実在の団体・企業もあります。それだけでなく、「北海道イクラ食品工業宮崎支社」「フランスフィッシング協会」などいかにも取ってつけたような架空の企業・団体名も登場。何よりも、
「YouTuber200人」
というところで吹きました。
学部はともかく学科は相当なトンデモ
学部は法学部、国際コミュニケーション学部、国際観光学部、理学部の4学部構成。いずれも実在する学部です。国際コミュニケーション学部は愛知大学、淑徳大学、北陸大学などが設置(学科だと青山学院大学など)。国際観光学部は東洋大学、阪南大学、平安女学院大学が設置(学科だと文教大学、大阪国際大学、流通科学大学など)。
学部はよくある名称ですが、学科の構成はかなりネタ感が出ています。
理学部だと電子機械、フランス生物、欧州分子生物の3学科。理工学部なら機械工学科や電気電子工学科などを設置することはあります。が、理学部に電子機械学科というのはちょっと無理やりすぎます。フランス生物、欧州分子生物の2学科は論外。
国際観光学部も、南仏観光学科、観光経営学科あたりはまだしも、グローバルシステムイマジネーションデザイン学科、アルプス山岳観光学科あたりは苦しいところ。そもそも、ポルトガル観光学科の定員2名って、もはや学科ではない…。
法学部もフランス法学科が定員12名とはかなり大学経営を無視しています。
本学の歴史もツッコミどころ満載
「本学の歴史」と歴代学長も色々とツッコミどころがあります。
設立は1900年。このとき、大学って東京帝国大学(現・東京大学)、京都帝国大学(現・京都大学)のみ。北海道・東北・九州・名古屋・大阪の旧帝大5校はまだ未設立(北海道大学の前身、札幌農学校は1876年設立)。東京専門学校が早稲田大学に改称するのは1902年のことです。
という時代背景を考えると、1900年設立は正確には「前身となる●●が創立される」の間違いでしょう(多分)。
他にも1977年と1987年には「学長が痴漢で逮捕」。
2002年には「ポルトガル観光学科初の定員割れ」(定員2名で定員割れ?)、2010年には「学長 レーシック手術」などネタ感満載です。
なお、「受験生マイページ」の「出願登録を行う」「受験票を印刷する」などをクリックすると
「釣られ乙!! 受験校ぐらいちゃんと信頼性のあるソースを頼りましょう!」
と出てきます。
フェイクサイトに現実の大学・企業は勝ち誇れるか
この国際信州学院大学サイト、くだらない、と言えばくだらないです。随所にネタを散りばめているフェイクサイトなのですから。
私が国際信州学院大学サイトを記事にするのは、ネタとしての面白さだけではありません。対応の素早さは現実の大学・企業よりも上を行っています。
現実の大学だと、オープンキャンパスについて前年度の情報を年度が変わった4月になっても掲載。あるいは「新年度のオープンキャンパス予定については調整中です」で何も情報を出さない大学が相当あります。
企業も同じです。採用難と言いながら採用ページすら作っていない企業は中小企業を中心に存在します。採用ページを作っていても、よくよく見ると「リクナビ2017」など古い情報を見た学生からすれば「採用をする気がないだろう」と考えても無理はありません。
国際信州学院大学サイトや関連のTwitterなどは、趣旨に賛同した複数のネットユーザーが関与しているもの、と思われます。そのため、反応も素早く、ネットで「釣られた」との反応が増えれば「本学が架空であるというインターネット上の情報について」という広報課コメントを発表。
ドメインについても同様に素早く対応しています。
もちろん、複数のネットユーザーがやっていることで、現実の大学・企業では実質1人。素早い反応ができない、という意見もあります。が、1人では無理ならチーム陣容を整えて入試広報なり採用なりの戦略にあたるべきでしょう。
入試広報がうまく行かない大学、採用がうまく行かない中小企業、ともに「1人で全部やるのは無理」という愚痴があまりにも先行しています。私はそうした現場を今までに数多く取材してきました。
その苦労もわかるのですが、大きな課題に対してチームであたることで解決する方がよほど建設的です。国際信州学院大学サイトはネタ感もさることながら、現実の大学や企業のアンチテーゼとしても注目していいのではないでしょうか。
今後、国際信州学院大学サイトがどんな方向に行くのか、不明です。新たなネタを提供していただけることを期待しています。
付記(2018年4月25日・修正)
Yahoo!ニュース個人編集部の指摘を受け、誤字を修正しました。