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スイセンをニラと誤って食べないために

薬師寺泰匡救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長
(写真:イメージマート)

先日、京都市の子育て支援施設で、ニラと間違えてスイセン類の植物を食べ、子ども12人が食中毒になったという発表がありました。昼食に「ニラのしょうゆ漬け」を出したつもりが、施設内で栽培したスイセンを用いた「スイセンのしょうゆ漬け」を食べていたため、中毒になってしまったという事故でした。

スイセンとは

スイセンはヒガンバナ科の植物で、白や黄色の花を咲かせます。少しうつむき加減ではかなげな美しさがあり、家庭菜園でも人気の植物です。スイセンの英名「Narcissus」は、ナルシストの語源として有名です。ギリシャ神話に登場する美少年ナルキッソスが、泉に映る自分に見惚れて動けなくなり死んでしまったあと、そこにスイセンが咲いていたという話にちなんでいます。花言葉は「自己愛」、「自惚れ」です。ニラと葉っぱがとても似ています。

スイセン(写真提供:三宅 克典 東京薬科大学 薬学部 薬用植物園 講師)
スイセン(写真提供:三宅 克典 東京薬科大学 薬学部 薬用植物園 講師)

ニラの花(写真提供:三宅 克典 東京薬科大学 薬学部 薬用植物園 講師)
ニラの花(写真提供:三宅 克典 東京薬科大学 薬学部 薬用植物園 講師)

ニラの葉(写真提供:三宅 克典 東京薬科大学 薬学部 薬用植物園 講師)
ニラの葉(写真提供:三宅 克典 東京薬科大学 薬学部 薬用植物園 講師)

スイセンの毒

自分を愛するだけなら無害で良いのですが、スイセンにはアルカロイドと呼ばれる毒性成分が入っています。アルカロイドは植物由来の窒素を含んだアルカリ性物質を指します。実際には植物だけでなく、微生物や菌類、両生類など、さまざまな生物によって生産され、他の生物にとっては毒として働くことも薬として働くこともあります。

例えばモルヒネはケシの実から生産されるアルカロイドです。1804年に、ドイツ人化学者フリードリッヒ・ゼルチュルネルが、アヘン(ケシの実からとれる果汁を乾燥させたもの)から催眠素を単離し、ギリシャ神話に登場する夢の神モルフェウスにちなんで「morphium」と名付けました。フグが持つテトロドトキシンは動物由来のアルカロイドの良い例です。

スイセンに含まれるアルカロイドとしては、リコリン、ガランタミン、タゼチンが挙げられ、これらにより嘔吐症状を起こします。日本でも毎年数十人が食中毒を起こしています。スイセンの恐ろしいところは、食べた人が高い確率で中毒症状を呈するところにあります。火を入れれば大丈夫かというとそういうわけでもなく、リコリンやガランタミンは熱に安定しているので、加熱調理しても毒性は残ります。

また、アルカロイドには副交感神経を過剰に働かせる成分も入っています。これにより、下痢や流涎も見られます。大量に服用すると死に至ることもあるのですが、中毒症状として早期に嘔吐をきたすため、基本的には大事には至りません。残念ながら特効薬はないので、嘔吐や下痢で失った水分や電解質を補ってあげることしかできません。

球根にも注意して

スイセンの葉っぱは本当にニラに似ています。ニラだと確証が持てないものは食べないという態度が大事です。今回の事故も、知人から譲り受けた株をもとに栽培していたということです。よくわからないものを栽培しない、もしスイセンとして栽培するなら食用のものと一緒に栽培しないなど、事故が起こらない体制も重要です。どうしても出所不明なニラを料理で扱いたいときには、香りに注意しましょう。スイセンにはニラ独特の香りがないので、慎重に調理すれば気づけるかもしれません。また、球根をニンニクや玉ねぎと間違えて食べたという事例もあります。球根の方が葉より毒性が強いので、より注意が必要です。

参考文献

Ageta K, Yakushiji H, Kosaki Y, et al. A family intoxicated by daffodil bulbs mistaken for onions. Acute Med Surg. 2020;7(1):e595. Published 2020 Nov 7. doi:10.1002/ams2.595

救急科専門医/薬師寺慈恵病院 院長

やくしじひろまさ/Yakushiji Hiromasa。救急科専門医。空気と水と米と酒と魚がおいしい富山で医学を学び、岸和田徳洲会病院、福岡徳洲会病院で救急医療に従事。2020年から家業の病院に勤務しつつ、岡山大学病院高度救命救急センターで救急医療にのめり込んでいる。ER診療全般、特に敗血症(感染症)、中毒、血管性浮腫の診療が得意。著書に「やっくん先生の そこが知りたかった中毒診療(金芳堂)」、「@ER×ICU めざせギラギラ救急医(日本医事新報社)」など。※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。

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