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一人の子どもの命の価値:「どうせ僕なんて」と思っている君へ:北海道小2男児行方不明報道から

碓井真史社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC
(写真はイメージ)(写真:アフロ)

連日の大規模捜索。そう、一人の子どもの命のために、大勢の人が必死になっている。君は一人ではない、君も愛されていると、全ての子どもに伝えたい。

追記6/3.少年は無事保護されました。

■北海道で小2の男の子が行方不明

行方不明になった男の子の捜索が続いています。自衛隊も出動し、毎日何百人もの人で探し続けています。1メートル間隔で横一列に並んで進む「ローラー作戦」も行われようとしています。

大金をかけた捜索です。捜索隊の体力も心配になるほどです。毎日報道が続いています。ヤフーニュースのコメント欄を見ると、心配でたまらないといった意見がたくさんあります。見つかったかどうか気になって、一日に何度もニュースをチェックしてしまうという人もいます。

これが、一人の子どもの命の価値です。日本中が心配しています。

■怒られても、何かが上手くいかなくても

この少年は、ずいぶん親に怒られたようです。怒られて置き去りにされた後、いったい何が起きたのかは、全くわかりません。

ただ、報道によれば親は決して虐待などしていなかったようです。仲の良い親子だったという話ばかりが伝わってきます。こんな叱り方をしたのは、初めてだそうです。

そして今、お父さんもお母さんも、必死になって子どもを探しています。

子どもが親に強く叱られることはあります。先生にひどく叱られることもあります。

でも、お父さんもお母さんも先生も、子どものことを心から愛しています。

悪いことをしたり、成績が下がったり、大失敗をすることがあっても、それでも心から愛しています。

成績が良かったり、スポーツができたり、見た目がかわいい子が行方不明になれば、みんなが心配して探すのでしょうか。もしも、成績も悪いし、スポーツもできないし、不良少年になってしまって怖い格好をしていたりしたら、誰も心配せず、探さないでしょうか。

そんなことは、あるはずがありません。子どもの命の価値は、そんなことに左右されはしません。

■死を考えている子へ、非行に走ろうとしている子へ

心理学的に言うと、自殺は孤独の病です。自分は一人ぼっちで、もう絶望だと思うと、死を考えます。自分が死んでも誰も悲しまない、死んだほうがみんなが喜ぶなどと感じてしまうこともあります。

非行に走るのも同じです。自分ががんばっても誰も振り向いてくれないし、上手くいかないし、どうせ悪いことをしても、だれも本気で心配などしてくれないと思ってしまうことがあります。

「死んでやる!」「グレてやる!」と叫んで飛び出す子もいます。その心の中は、悲しみでいっぱいです。「死んでやるからな、グレてやるからな、この俺の姿を見て、オレの悲しみを知れ!」。そんな心の叫びが聞こえてきそうです。

本当は、たくさんの人が心配しているのに。

■子どもを取り囲む大勢の人々

悪いことをして、警察に捕まって、本気で叱ってもらって、そこで初めて気づく少年もいます。

私は、自殺した中高生の葬儀に何回か出席しています。大きな会場にあふれかえるほどの人が集まります。家族、親戚、ご近所、学校の友だち、先生方。大勢の人が集まります。

自分は一人ぼっちだと思い込んで死を選んでしまうのですが、真実は違います。万が一親に愛されなかったとしても、それでも子どものことを心配し、支援したいと思っている大勢の人がいるのです。

「どうせこんな僕(私)なんて」。そう思っている子ども達が大勢います。でも、君は一人ではない、君も愛されていると、伝えたいと思います。

*大人のみなさんへ

私がここで書いたことなど、子どもだましのきれいごとだと感じられる方もいらっしゃるでしょう。しかし私は、子どもにウソをついてはいません。

たしかに、数十年もホームレスを続けている人などなら、遺体の引き取り手もない場合もあるでしょう。でも、子どもの葬儀は、いつも大勢の人が悲しみにくれて集まってきます。

子どもを愛していない親もいると考える人もいるでしょう。たしかに、ひどい親はいます。しかし、親にひどい目に会った子どもも、大人になると、それでも親は自分を愛してくれていたのだろうとか、親も大変だったのだろうと、感じられる人はたくさんいます。

それでも、さらにひどい親もいるでしょう。しかし、たとえ親に愛されなくても、その子にも、先生がいたり、福祉や警察の担当者がいます。親と同じようには愛せなくても、それでもその子を愛し、心配しています。

大人の中には、不器用な人もいます。疲れ果て、力が足りなくなっている人もいます。子どもも、不器用で愛を受け止めにくい子もいます。非行少年に関する研究によると、彼らは他者からの好意を感じにくく、悪意を感じやすい傾向があると言われています。彼らにとっては、愛のない孤独な世界に生きているのです。

「心に余裕があれば不十分な愛でも受け取れるのですが、心が傷ついていると、相手に完璧な愛を求めてしまいます」(愛が伝わるとき、伝わらないとき:Y!nニュース個人有料:碓井)

大人も、叱り方や指導方法を工夫したいと思います。子どもたちが、一人ではないし愛されていると気づけるように。

叱り方トラブルと叱りすぎ防止方法:「しつけ」置き去り、行方不明報道から

真面目な親は、今ここで、この子を良い子にしたいと願い、あせります。けれども、子どもはすぐには変われません。「今日は今日の分だけ叱ろう」と思うと、叱りすぎが予防できるでしょう。

<「あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ」(碓井真史著・フォレストブックス)>

行方不明の少年が早く見つかることを祈りつつ。

追記6/3.少年は無事保護されました。詳細は不明ですが、日本中が喜んでいます。

社会心理学者/博士(心理学)/新潟青陵大学大学院 教授/SC

1959年東京墨田区下町生まれ。幼稚園中退。日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(心理学)。精神科救急受付等を経て、新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。新潟市スクールカウンセラー。好物はもんじゃ。専門は社会心理学。テレビ出演:「視点論点」「あさイチ」「めざまし8」「サンデーモーニング」「ミヤネ屋」「NEWS ZERO」「ホンマでっか!?TV」「チコちゃんに叱られる!」など。著書:『あなたが死んだら私は悲しい:心理学者からのいのちのメッセージ』『誰でもいいから殺したかった:追い詰められた青少年の心理』『ふつうの家庭から生まれる犯罪者』等。監修:『よくわかる人間関係の心理学』等。

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