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熊本地震本震から1年、何が分かり何が変わった?

福和伸夫名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

熊本地震から1年

熊本地震から1年が経ちます。4月14日21時26分頃、日奈久断層東部で発生したマグニチュードM6.5の前震と、4月16日1時25分頃に布田川断層で発生したM7.3の本震によって、観測史上初めて2度も最大震度7を記録し、さらに最大震度6強の地震が2度、6弱の地震が3度も発生しました。その結果、直接死50名に加え震災関連死などを含め228名の犠牲者を出しました。

住家被害も全壊8,697棟、半壊34,037棟を数えます。被害総額は最大4.6兆円と言われています。関連死が直接死に比べ3倍にもなった理由の一つは、全壊家屋数に対する直接死者数の比が兵庫県南部地震の1/10程度であることにあり、前震による揺れの恐怖で本震で倒壊した家屋に滞在していた住民が少なかったことが考えられます。

なお、活発な余震活動に続き、2016年10月8日1時46分には阿蘇山中岳第一火口で36年ぶりの爆発的噴火が発生しました。

内陸活断層地震の強い揺れ

熊本地震のような内陸直下の活断層による地震では、地震観測点と震源域とが近接するため、局所的に震度7の揺れに見舞われます。熊本地震では、前震では益城町で、本震では益城町と西原村で震度7を記録しました。過去、気象庁が発表する震度情報で震度7が記録されたのは、1995年兵庫県南部地震、2004年新潟県中越地震(川口町)、2011年東北地方太平洋沖地震(栗原市)の3度だけです。

東北地方太平洋沖地震を除くと、何れも、直下の活断層による地震です。活断層による地震では、断層近傍での強い揺れに注意する必要がありますが、極めて稀にしか活動しないため、最低基準である建築の耐震基準では活断層の地震による強い揺れは余り考慮されていません。熊本地震では、宇土市役所をはじめ、業務継続ができなかった防災拠点が散見されました。今後、重要施設の耐震設計の在り方を考え直すべきだと思われます。

また、熊本地震では、周期の長いパルス的な揺れが観測され、長周期地震動階級4も記録されました。こういった長周期のパルス的な揺れは、2015年ネパール地震のときにも、カトマンズ市内で観測されました。長周期パルスに対しては、長周期で揺れやすい高層建物や免震建物も大きな揺れになりますから、活断層の地震といえども注意が必要です。

活発な霧島火山帯と別府-島原地溝帯

霧島火山帯では、阿蘇山や桜島の活発な噴火活動に加え、2011年1月に霧島山の新燃岳が、2015年5月に口永良部島が噴火しました。この火山帯は、フィリピン海プレートが沈み込み岩石が溶け出す場所の上に位置します。霧島火山帯には、9万年前に噴火した阿蘇カルデラに加え、25,000年前に噴火した姶良カルデラ、7,300年前に噴火し九州の縄文文化を滅ぼした鬼界カルデラなど、破局的噴火をした跡のカルデラが沢山あります。

阿蘇山は、霧島火山帯と別府-島原地溝帯が重なった場所に位置します。この別府-島原地溝帯は、九州が南北に引っ張られてできた溝状の地形です。ここには、熊本地震を引き起こした布田川断層や日奈久断層に加え、別府-万年山断層などの活断層があります。さらに東には、我が国最大の断層・中央構造線が位置しています。また、阿蘇山に加え、九重山、雲仙岳などの火山もあります。

被災地・熊本の周辺には、危険度の高い活断層や火山も多いことから今後も警戒を怠らないようにする必要があります。また、火山活動によって堆積した地盤は軟らかいため、揺れやすく、また土砂災害も起こしやすいので地震に加え風水害にも注意が必要です。

強かった新しい木造住宅

熊本地震での全壊8,697棟は、兵庫県南部地震の約10万棟に比べ、約1/10です。熊本地震で震度7だった益城町と西原村の人口は合わせて4万人で、全壊棟数は約4,000棟でした。兵庫県南部地震で震度7だった自治体の人口は約180万人、神戸市の集合住宅の多さや熊本で2度も震度7を経験したことなどを勘案すると、この数は納得がいきます。

このことから、大都市の人口集中地域では、同時に多数の犠牲者が出ることが分かります。大都市の建物の耐震性を上乗せするなどの施策を考える必要があると思われます。

建築学会が建築研究所などと実施した益城町の激震地域での悉皆調査によると、1981年5月より前の木造住宅の大破、倒壊・崩壊無被害率は45.6%なのに対し、1981年~2000年は18.2%、2000年以降は5.9%となっていました。これは、1981年の新耐震基準の導入と、2000年の仕様規定の強化にあると考えられます。震災後、新耐震基準を満足する1981年~2000年の住宅に対しての簡易診断の方法や、診断・改修への補助についても検討が行われるようになりました。

2000年以降の住宅は、震度7の揺れを2度も経験したのに61.3%も無被害でした。これに対し、報道によると、震度6強以下だった熊本市内のマンションは、9割に何らかの被害があったとされています。新しい木造住宅は、鉄筋コンクリートの集合住宅よりもずっと耐震性が高いのかもしれません。また、市町村の庁舎や公的病院の中には、地震による損壊で、業務継続できない建物もみられました。災害時に拠点となるべき建物の耐震性の在り方について再考が必要だと思われます。

大規模災害時の公助の限界と小規模自治体への支援

大規模な災害では、同時に多くの業務が発生するため、自治体の対応力が大きく不足します。災害時の業務は自治体の規模によらず発生しますので、とくに小さな自治体では、職員が少ないため人員不足が深刻になります。また、一般に大規模災害に遭遇することが稀なため、殆どの職員は災害対応には不慣れです。このため、被災地外からの災害対応経験者の支援が大きな力なります。

ですが、被災自治体が混乱していると、必要となる支援者の人数把握や支援者への仕事の適切な配分が十分にできず、支援の力を有効に活用することができません。このため、災害前から、周辺自治体との連携や、遠隔地からの支援、被災自治体の受援などの体制を整備しておくことが大切になります。また、大規模災害発生時には公助に限界があるため、日頃から地域の自助力や共助力を育んでおくことが基本になります。

効率良い物資支援と備蓄の大切さ

被災地では、様々な物資が不足しますが、発災直後には、被災自治体の情報収集力の限界から、必要となる物資量を把握し、支援を要請することが困難になります。このため、被災自治体からの要請が無くても、物資を提供する体制を整備する必要があります。熊本地震では、初めて、本格的なプッシュ型支援が行われ、従来の災害に比べ、効率よく物資支援が行われました。ただし、物資や車両の調達、通行可能道路の把握、物資拠点での荷捌きなど、輸送システムの体制整備や、民間物流事業者との連携など、新たな課題も浮かび上がりました。

また、南海トラフ巨大地震など、熊本地震に比べ被害量のオーダーが異なる災害に対しては、被災地外からの物資支援にも限界があることが分かってきました。被災地内での備蓄を促進する必要があり、とくに家庭の備蓄に関しては、日頃利用しているものを多めに備えておくローリングストックを進める必要があります。

その他にも、産業界では、熊本の部品工場の被災などにより、全国の自動車生産に影響が及びました。また、損壊家屋の罹災証明書発行の遅滞も問題になり、被害建物の被害認定や応急危険度判定の迅速化が議論されました。一方で、SNSやビッグデータの活用など、新技術の可能性も見えてきました。

防災基本計画の見直し

熊本地震の被害を受けて、内閣府に「熊本地震を踏まえた応急対策・生活支援策検討ワーキンググループ」が設置され、多面的に検討した結果が、昨年12月に「熊本地震を踏まえた応急対策・生活支援策の在り方について」という報告にまとめられました。この報告を受けて、先週4月11日に開催された中央防災会議で「防災基本計画」の修正が行われました。修正点は、1)地方公共団体への支援の充実、2)被災者の生活環境の改善、3)応急的な住まいの確保や生活復興支援、4)物資輸送の円滑化、5)ICTの活用、6)自助・共助の推進、7)広域大規模災害を想定した備え、の7つです。何れも上に述べた課題に対する解決の方向性を示しています。

このように、我が国の防災対策では、幾多の災害を経験する中でその教訓を活かし、将来の災害を軽減する努力がし続けられています。

名古屋大学名誉教授、あいち・なごや強靭化共創センター長

建築耐震工学や地震工学を専門にし、防災・減災の実践にも携わる。民間建設会社で勤務した後、名古屋大学に異動し、工学部、先端技術共同研究センター、大学院環境学研究科、減災連携研究センターで教鞭をとり、2022年3月に定年退職。行政の防災・減災活動に協力しつつ、防災教材の開発や出前講座を行い、災害被害軽減のための国民運動作りに勤しむ。減災を通して克災し地域ルネッサンスにつなげたいとの思いで、減災のためのシンクタンク・減災連携研究センターを設立し、アゴラ・減災館を建設した。著書に、「次の震災について本当のことを話してみよう。」(時事通信社)、「必ずくる震災で日本を終わらせないために。」(時事通信社)。

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