シリア武力制裁に備える米仏の戦力
化学兵器による攻撃が続くシリア内戦に、再びアメリカが人道問題として懲罰的武力制裁に乗り出そうとしています。1年前のアサド政権による化学兵器使用に対する武力制裁では地中海のアメリカ海軍イージス艦2隻からトマホーク巡航ミサイル59発を撃ち込みました。また今回はフランスも同調し攻撃を行う構えです。現地シリアにはアサド政権に協力するロシア軍が展開している為、これとなるべく衝突したくない米仏は長距離スタンドオフミサイルを中心とした限定攻撃を行うと見られています。
米空母は付近に居らず、仏空母は長期修理中
現在、シリア周辺の地中海やペルシャ湾にアメリカ海軍の空母は居ません。空母「ハリー・S・トルーマン」打撃群は定期任務の中東展開ペルシャ湾へ向かうために米本土東海岸のノーフォーク軍港を出発したばかりで、途中で通過するシリア沖に到達するまで早くても2週間近く掛かります。また本来の任務はシリア攻撃ではない為、投入されるかどうかはまだ決まっていません。なおフランス海軍唯一の空母「シャルル・ド・ゴール」は長期修理中で今年一杯は動かせません。
トマホーク巡航ミサイルとMdCN巡航ミサイル
今直ぐ投入出来る空母は無いので、攻撃の主力となるのは艦艇から発射される巡航ミサイルになると思われます。アメリカ海軍は巡洋艦、駆逐艦、原潜からトマホーク巡航ミサイルを撃つことが可能です。
フランス海軍は自国製のMdCN巡航ミサイルを使用可能です。MdCN巡航ミサイルは以前スカルプ・ナヴァールと呼ばれていた巡航ミサイルで現在は改名しました。ただし新型の為に運用できる艦艇がまだ限られ、現時点ではアキテーヌ級フリゲートのみが撃つことが可能です。潜水艦は新型艦の就役が遅れているせいで運用できる艦がまだありません。(注:フリゲートとは艦艇の種類で、一般的には駆逐艦よりやや小さめの艦。ただしフランス海軍では駆逐艦サイズも含めて幅広くフリゲートに分類する。アキテーヌ級は駆逐艦よりやや小さめ。)
MBDA社公式YouTubeより海軍巡航ミサイル(MdCN)
現在シリア付近に居るのは、最近までキプロス島に寄港していた米海軍イージス駆逐艦「ドナルド・クック」の動向が伝えられています。アメリカ海軍第6艦隊のスペイン・ロタ港に駐留するイージス艦は「ドナルド・クック」「ポーター」「ロス」「カーニー」の4隻ですが、地中海東部で活動しているのは現在「ドナルド・クック」だけで、他の3隻はまだ向かう様子がありません。ポーターは仏シェルブール港を出て北東に移動中、ロスは英ポーツマス港を出て英海軍と演習中、カーニーはロタ港で停泊中です。ただしヨーロッパ駐留艦隊とは別にアメリカ本国からイージス艦「ウィンストン・S・チャーチル」が中東展開任務のために単艦で移動中で、地中海に入って来ました。
なおフランス海軍はフリゲート「アキテーヌ」が地中海東部に居ると伝えられています。またイギリス海軍の駆逐艦「ダンカン」も付近に居ますが、ダンカンは対地巡航ミサイルを搭載していません。
海中に居る米海軍の潜水艦の動向は現在全く分かりません。ただし先月末に地中海のスペイン沖に巡航ミサイル原潜「ジョージア」が居たことがAISの情報で判明しています。(追記:日本時間4月12日22時ごろ、ジョージアは米本国に帰還。)
陸上基地から戦闘機による空中発射巡航ミサイル
海軍の艦船以外では空軍の戦闘機から空中発射巡航ミサイルで攻撃する場合が考えられます。フランス本土から空中給油機を連れての長距離作戦、あるいはシリアに近いキプロス島のイギリス軍基地を借りる場合、ヨルダンなど中東の国の基地を借りる場合が考えられます。複雑化したシリア内戦はトルコがクルド武装組織掃討を目的に地上介入している状況から、クルド武装組織を支援していた米仏と関係が悪化しており、トルコの基地は借りることが今は難しくなっています。
戦闘機を使用する場合はロシア軍との直接接触を極力避けるために射程の長いスタンドオフ兵器を選択し、アメリカ軍は空中発射巡航ミサイル「JASSM-ER」、フランス軍は空中発射巡航ミサイル「スカルプ-EG」を用いるでしょう。スカルプ-EGはイギリスとフランスが共同開発したもので、イギリスでの名称は「ストームシャドウ」と呼ばれています。
MBDA社公式YouTubeよりストームシャドウ/スカルプ-EG
大型爆撃機の出動の可能性
シリアにはロシア軍が展開しているので、アメリカ軍の大型爆撃機を乗り込ませて大型貫通爆弾を投下するような作戦は立て難いでしょう。大型爆撃機から発射する長距離巡航ミサイルもあるので、戦闘爆撃機と同様に長距離スタンドオフ攻撃を行う事が考えられます。
ステルス機の投入はロシア軍に能力を観測されてしまう恐れ
F-22戦闘機やF-35戦闘機、B-2爆撃機といったステルス機を乗り込ませて爆撃する作戦は隠密性が高いものの、現地に居る観測能力が高いロシア軍にもし気付かれた場合にはステルス機の実戦時におけるデータを与えてしまう恐れがある為、投入を控えるかもしれません。当初は気付かれなかった場合でも、後で報道などでステルス機が爆撃に来たと分かった場合、ステルス機の能力の高さをロシアに教えることになってしまいます。
ただし逆に小規模な投入を行いロシア軍がステルス機に気付くかどうか、アメリカ軍側が観測するような探りを入れる目的の作戦を実施する可能性も有り得ます。
・2018年4月12日更新、イージス艦「ポーター」の動向が判明したために改訂
・2018年4月13日更新、イージス艦「ロス」の動向が判明したために追記
・2018年4月14日更新、イージス艦「ウィンストン・S・チャーチル」の動向が判明したために追記