NiziUが韓国デビュー白紙って本当?現地の報道や評価は
NiziUは韓国でどう見られているのか?
昨年12月13日には、日本でこんな見出しの記事が掲載された。
“「NiziUは日本人」だからダメ?反日感情とバッシングで韓国デビューが白紙”
当然、韓国での活躍も期待されるところだ。果たして、本当にこういった雰囲気はあるのだろうか。
日々韓国のニュースをウォッチングするなかで、日本にあまり紹介されていない点があるのではと思い、調査・取材した。思うところがあり。
”Nizi Projectは韓国では未放映”…忘れるべからず
テーマを語る前提として、この視点がまず重要だ。
”未知”。
スポーツ京郷のイ・ユジン記者はこう言う。
「韓国ではNiziプロジェクトが放映されていないため、当然オーディションに対するストーリーが把握されていません。まだ韓国でパフォーマンスも披露していない。端的に言うと大衆は『反感』というよりは『無関心』だと思います」
イ記者は昨年12月の「韓国デビュー白紙」の報道を受け、韓国で「日本メディア『NiziUは反日感情のせいで韓国デビュー白紙』を主張」との記事を執筆した。ご本人に日本留学経験もあり、この件にいち早く反応したかたちだ。
確かにそうだ。日本でいくらブレイクしているからといって、韓国で同じように騒がれているということはない。「韓国デビューに向けて大きな世論のプレッシャーがある」という話では決してない。そもそもまだ存在が大きく知られていないのだ。
これまでの韓国での報道ダイジェスト
とはいえ、グループ関連の報道はないわけではない。決して少なくはない。名門芸能事務所「JYPの新人」として、プレスリリース内容や日本でのデータ・実績などが報じられている状況だ。
NiziUに関する報道を昨年6月のデビュー時から追ってみた。
2020年
6月26日「JYPに参加の日本人グループメンバーが決定」(Niziプロジェクトでのメンバー決定翌日に)
6月29日「第2のTWICEなるか、という報道」(ニューデイリー)。日韓でのプレデビューを控え。
6月30日 はじめて「反日=国内からの批判」と絡める報道
7月3日「日韓プレデビューで早くもアルバム売上が好調。JYP株価上昇」
8月13日「ミイヒ誕生日」初めてメンバー個人に関する報道
9月29日「韓国でのスケジュールを終え、帰国。日本で発売されるアルバム収録のため」
10月2日「12月2日に日本公式デビュー決定」
10月19日「日本でなわとびダンスが流行」
10月26日「日本でMステ出演」
11月6日「日本でコカ・コーラのCMに抜擢」
11月16日「紅白歌合戦出演確定」
11月25日「ふたたび韓国でのJYP株価上昇」
12月1日「明日日本でデビュー」
12月3日「デビュー曲早くも日本で大ヒット」
12月14日「韓国デビュー反日感情で白紙」
12月31日「Make you happyが2億ビュー突破」
2021年
1月13日「NiziUはK-POPなのか? 正体に揺れる日本の音楽界」とXportsが報道。
1月28日「NiziU、極秘裏に韓国入国…新曲の制作のため。(韓国での)テレビ出演はなし」
2月1日「新アルバムは4月7日発売@日本」
2月5日「日本でH&Mの広告モデルに採用される」
日本国内でどう話題になっているのかを伝える報道が中心だ。
数少ない”論評記事”から韓国の視点を見出すと…
日本での事象を追うストレートニュースが中心の流れのなかで、いくつか「韓国の見方」がうかがい知れるものがある。
「パク・ジニョンが選出 日本のガールズグループ『NiziU』誕生…第2のTWICEとなるか?」
(ニューデイリー)
”名門JYPのガールズグループ””J.Y.PARKが手掛けるグループ”。これはこの先も韓国で彼女たちが報じられる際の枕詞となっていく。
さらに翌30日、デビュー曲の「Make you happy」が日本のチャートで好成績を収めるや、早くも”批判的論調”が飛び出した。
「NiziU、日本人メンバーで構成されたJYP新ガールズグループ…多数のネット民『反日感情』激化」
この媒体のいう「反日」の要素が韓国であるとすれば次の理屈だ。
全員日本人のグループが、韓国の名門からデビューする。これに対して、韓国の一般的な認識だと「グローバルオーディションによる特別な企画枠のグループ」と捉えられてもおかしくはない。
しかし、これは「同社の流れを正統派として引き継ぐグループである」という。
ここがK-POPのコアファンにとって引っかかるのか、JYPから新たにデビューするグループが全員日本人である点について、ネット上で批判が集まっているという。
韓国での報道ぶりその2。やはり「9月29日の韓国出国時」のもの。この時は「旧盆で休むために日本に帰国」と報じられた。日本には旧暦での盆に休む習慣はないが、韓国国内が連休モードになるという意味か。「スタープラス」公式アカウントより
「まだまだ」との声ももちろんある!
上記のような”批判記事”はごくわずかなものだ。とはいえ、韓国内のコアなK-POPファンからは「まだまだ成長が必要」という声が聞こえてくるのも確かだ。
「パク・ジニョン(J.Y.Park)をはじめとしたスタッフが作ったのだから、NiziUはK-POPだと見ます。日本語の歌詞以外は、J-POPのカラーが出ていないと思います」
そういうのは、20年近くK-POPを見続けているというキム・ヨナン氏。ソウル郊外で出版社を経営する。93年からSOS、SES、FINKLE、ワンダーガールズ、少女時代、KARA、4minuteなどを見てきた。また日本の「モーニング娘。」の「ラブマシーン」なども好んで聴いてきたという。
K-POPだ、と考えているからこそNiziUにはより大きな成長が必要だと感じている。
「実力面で見ると、韓国で毎年デビューするガールズグループ全体のなかでは、競争力はそこそこでしょう。しかし『JYPのガールズグループ』として見た時、まだまだ実力は不足していると感じます。本来の同社水準に達しているのは2~3人。半分以上はおそらく韓国でのオーディション番組に出ていたのならデビューは難しかったと思います」
とはいえ、「韓国デビューはあるだろうし、むしろ必須」とも見ている。
「韓国でのデビューができないことはないでしょう。最近ではユキカという日本人ソロ歌手も韓国で活動しましたから。ただし韓日関係というのはやっぱり無視できないと見ています。韓国では嫌がる人もはっきり言っているでしょう。批判を減らそうと思ったら、やっぱり強力にインパクトのある楽曲と実力が必要でしょう。そして韓国語もしっかり喋ること。グローバルなグループとしてPR中ですが、K-POPの本国である韓国の音楽番組で1度くらいは1位を獲得しないと、そうは言い難いのではないかと思います」
「スポーツ京郷」 のイ・ユジン記者も同じく「韓国デビューはこの先あるだろう」と見ている。
「NiziUが韓国でデビューできないことに対する日本の記事を読みました。反日感情と連結させる論調のようでしたが、現地で状況を見る立場とすれば、それは同意ができません。すべてはJYPの戦略に沿って行われていること、と見ているだけ。NiziUは必ず韓国でデビューするでしょう。まだその時ではないということ。K-POP(韓国)で立場を確立してこそ、日本を始めとした世界の舞台でもよりビジネスが上手く行くでしょうから」
”あの上司”はどんな発言を?
では、当事者たるJ.Y.PARKは何を語っているのか。8月12日に地上波MBCの「ラジオスター」というトーク番組に出演。ここでNiziUに対する考えを披露した。
彼女たちについて「外国人の歌手だが、外国の歌手ではない」と持論を展開した後、こう続けた。
「10年前に会社でプランを立てた。まずは韓国人だけ(のグループ)でローンチし(デビューさせ)、外国人を含めた歌手(グループ)をローンチ、その後外国人だけでつくったグループをローンチするという計画だった。最後の第三段階では若干の抵抗があると予想していた」
新しいことをやろうとしているのだから、少々の批判は織り込み済み。これも10年以上前から計画してきたものだという。韓国デビューについても「でんと構えて状況を見ている」というところではないか。ちなみにJ.Y.PARKには「K-POPのノウハウを海外に流出させるのか」との意見が寄せられているのだという。
(同番組出演時の動画)
デビューが簡単ではないもうひとつの理由
最後にひとつだけ、筆者から。
「韓国語で歌う」というのは決して簡単なことではない点についてだ。
なぜなら、日本語よりも韓国語のほうが音の数が多いからだ。母音は日本語の5に対して10、子音は日本語の16に対して19。さらに子音で終わる単語が日本語よりもはるかに多い。二重母音や日本語にない強い音の子音もある。
これまで、日本に進出してきた韓国人歌手が日本語で歌うということは多く見られてきた。どうしたって韓国語にない音、「つ」「づ」「ず」の発音が弱い。しかし「母語にない音」が多いのは、はるかに日本語→韓国語の方が多いのだ。
デビュー直後のTWICEの楽曲を手掛け、パート割り当てなどを担当した作曲家ブラックアイドピルスンにインタビューしたことがある。デビュー直後の日本人メンバーの韓国語についてこう話していた。
「今は韓国語も相当うまいと思う。ただし、当時はパッチム(子音で終わる音)がまだまだ弱かった」
当座はカタカナ読みでカバーする、という方法が決して通用する世界ではないのだ。
韓国語の楽曲で韓国デビュー。完成度を高めるのは時間がかかる。だからまずは日本でやる、という考えはなんらおかしくないことだろう。
何より、彼女たちにはまだまだ越えるべき壁が存在する。この点こそがこのグループの楽しい点ではないか。トントン拍子のサクセスストーリーではない。困難をどう乗り越えるのかを観ていくグループ。その点も新しさではないか。
【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】