【心のコロナは癒せるか?】子ども・若者の声を聞こう!日本の未来のために【学校・友達・お金】
「心のコロナにかかっている」
「私たちの気持ちを一体誰がわかるんですか?」
「早く学校に行きたい」
「コロナにかかるのがこわい」
「お金のサポートがほしい」
「一斉休校で失われた教育機会に見合った成果があったのか、専門家が調査して説明してほしい」
コロナ災害の中で、子ども・若者たちが発している声のほんの一部です。
この記事を読むときには、子どもの日をすっかり忘れているであろう日本の大人に、あなたは子ども・若者を大切にしていますか?という思いをこめてこの記事を、子どもの日が終わろうとする瞬間に書いています。
日本は後進国である
子ども・若者の権利も尊厳も置き去りの国に未来はあるのか?
児童虐待や、子どもの貧困問題に関わる支援者・法曹家や研究者の間では、日本は子どもの・若者の権利も尊厳も置き去りにされている国、すなわち子ども・若者の権利後進国であることは共通の前提です。
コロナ前から、いじめ自殺の隠蔽、ブラック校則、教師による生徒の指導死、早朝から深夜まで勉強や部活付けにするとくに中学校や高校の指導法など、日本の学校現場は、子ども若者の権利の尊重から、かけ離れた状態にある状況も少なくありませんでした。
防げたはずの児童虐待死の背景にも、子どもが虐待から守られる権利を軽視し、児童相談所に十分な予算を配分してこなかった日本政府の姿勢は、従来国連から批判されてきただけでなく、「国家レベルで児童虐待している」と、世界の報道においても批判されてきました。
河合薫「小4女児虐待死で浮き彫りになった、子どもの権利「後進国」日本」
子ども・若者の権利・尊厳が軽んじられている状況を、日本の主要マスコミが報じないことも含め、後進国なのです。
日本の子どもの権利がいかに心配な状況かは、国連・児童の権利委員会「日本の第4回・第5回政府報告に関する総括所見」(仮訳・外務省HP)をご参照ください。
子ども・若者に理解しやすい日本語になっていない点も含め、後進国だなぁとは思いますが。
だからこそ、子ども・若者の声を聞こう!
3つの調査が伝えてくれる子ども若者の「心のコロナ」
子ども・若者の権利後進国である日本においても、子ども・若者の声や心に寄り添い、どうすればいいのだろうか、なんとかできないか、この瞬間も活動をしている大人たちもいます。
この記事では、3つの子ども・若者アンケートの内容を紹介しながら、子ども・若者がコロナ災害による休校長期化の中で、どのように過ごしどのような不安を感じているのか、とくに「心のコロナ」をどう癒せばいいのかを、考えていきます。
●公益財団法人あすのば「新型コロナウイルスに伴う若者への影響調査」(あすのば調査)
調査時期:2020年4月(調査継続中)
調査対象:38人、高校生6人、大学院・大学生・専門学生21人、社会人11人
調査方法:法人職員によるヒアリング
●公益財団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「子どもの声・気持ちをきかせてください!」2020 年春・緊急子どもアンケート結果(SCJapan調査)
調査時期:2020年3月17日~3月31日
調査対象:全国各地の小学生以上の子ども(18 歳くらいまで) 1422人
調査方法:アンケート方式(オンライン回答、郵送・FAX・メール回答・団体経由回答のいずれか)
● LINEリサーチアンケート(LINE調査)
調査時期:2020年4月(4月15日時点の状況を回答)
調査対象:高校生910人、大学生835人
調査方法:LINEを用いたオンライン回答
調査方法もそれぞれ異なり、回答者数も異なる3つの調査ですが、子ども・若者の現状に丁寧に寄り添おうという姿勢にもとづく調査である点は共通しています。
「学校が始まらない中で、生徒や学生の気持ちを丁寧に聴くことが後手に回っており、子どもや若者の気持ち・思い・声が置きざり状態になってしまっている」(あすのば調査)という憂慮すべき状況が、いずれの調査でも前提になっていると考えます。
小学生世代、中学生世代、高校生世代、大学生世代が、いまこのコロナ災害の日々をどのように過ごし、どのような不安を感じているのか3つの調査から、そのポイントを見ていきましょう。
(1) 外出できないストレス、人と会いたい気持ち(小学生~大学生・若者世代)
SCJapan調査からは、「困っていること・心配なこと・気になっている」ことについて、小学生~高校生世代のいずれも「日常生活が遅れていない・外出できない」、とくに「人と会えない・会いたい」気持ちが強いことがわかります。
とくに小学生(低学年・学童保育以外)で強く、保護者が家にいて学童に行けていない年少世代の子どもたちにそうした気持ちがより強いことがわかります。
※すみません図表が小さいので大きくみたい方は、こちらのリンクのSCJapan調査p.20をご確認ください。
LINE高校生調査からも、外出する機会が減り(女子85.1%,男子70.1%)、やる気が起きないことが増えたり(女子53.4%、男子38.0%)、ことがあきらかになっています。
自由記述でも「友達ともなかなか会えず学生生活の楽しみがなくなった」(あすのば調査)、「友達に会えない遊べない」(SCJapan調査)、「早く学校に行きたい」など、友達や学校とのつながりを断たれ、そのことがやる気にも影響を及ぼしてしまっているという深刻なストレス状態があきらかになります。
(2)中・高世代の勉強ができない不安
SCJapan調査(図1)、LINE調査ともに、中高生世代ほど、勉強できない不安が強いことがわかります。
LINE高校生調査(図2)からは、「生活で困っていること」として女子の65.7%、男子の49.7%が「勉強が遅れてしまいそう」だという傾向があきらかになっています。
※こちらも図が小さいので、大きな図はリンク先からご確認ください。
運動不足、気分転換ができない、ネット・ゲーム依存など、ストレスが解消できない生活の中で、勉強の不安も強いという高校生の日々が心配です。
また全体として、女子のほうが勉強以外にも「困っている」と回答した項目が多いことも、特徴的です。
(3)お金の不安が強い大学生・若者世代
LINE大学生調査とあすのば調査からは、大学生や低所得世帯の若者たちがお金の深刻な悩みをかかえていることがわかります。
LINE大学生調査(図3)からは、悩みの上位4位は生活リズム等にかかわる困りごとですが、5位として「収入が減りそう/減っている」(女性43.4%,男性34.2%)があげられています。
※図3も小さいのでリンク先からご確認ください。
この調査は4月15日時点のものですが、そこから3週間を経た今、お金の悩みは一層深刻化していると考えてよいでしょう。
「学費減免など求める署名活動 160大学に広がる 新型コロナ」(NHKニュース・4月29日)
学費減免などを求める大学生たつの活動がひろがっているということは、お金の見通しが立たず、学びを続けることが難しくなっている学生がとても多くなっていることを意味します。
コロナ災害の長期化により多くの若者たちが追い詰められ、すぐにでも支援が必要な状況にあるのです。
あすのば調査は、もともと団体の独自給付金を受けている低所得世帯の若者が対象となったヒアリング調査を実施しています。
その結果やテキストマイニング分析からは、「元々が奨学金+アルバイトで生計を立てている者が少なくなく、コロナの影響に関わらず生活が厳しい状況でありそれに加えてアルバイトの減少が顕著に表れており、生活そのものの不透明感が増し、脅かされている実態」が把握されています。
「どうすればいいのかとお金に関して叫びたい気持ちにかられる」
「今一番心配なのはお金のこと」
「書籍購入費が心配」
「食費を我慢することも」
(あすのば調査より)
あすのばの関わる若者たちのお金の悩みは、とくに深刻です。
(4)コロナがこわい、マスクがほしい、学校ずっと休みがいい、様々な意見
図4はSCJapan調査で抜粋いただいている子ども・若者の直筆回答です。
あえて解釈はしませんが、子どもの「こまってないよ」という意見を、その字の通りに受けとってしまうのだとしたら、あなたは子ども・若者の現状に寄り添う目線が持てていないかもしれない、ということを自覚してください。
むしろ「こまってないよ」、「大丈夫」という場合こそ、子どもも大人も何かを抱えているのではないかというまなざしを持てるかどうかが、寄り添える大人であるかどうかの分岐点です。
※こちらの図4もSCJapan調査p.72からご確認ください。
コロナがこわい、マスクがほしい、学校ずっと休みがいい、様々な意見がありますが、ひとつひとつの言葉に宿った子ども・若者の心の叫びに私たちはどう向き合えばいいのでしょうか?
学校再開は、なるべく柔軟に、かつ迅速にというのが私自身の判断です。
コロナがこわい、家族に高齢者や基礎疾患保有者がいて感染することを思うと学校に行くのはためらわれる、そうした子ども・若者のためには、オンライン学習環境も整備し、柔軟な学校運営が求められます。
子ども・若者の声を大切にした学校再開についての考え方はこちらもご参照ください。
末冨芳 「学びの不安・心の不安は置き去りに?:一斉休校後の迷走の中で取り残される子ども・若者たちへの支援策」(2020年4月17日)
(5)「心のコロナ」は癒せるか?
SCJapan調査,p.13から引用します。
SCJapan調査(p.13)から引用します。
” 北海道の高校2年生は突然不安になって泣いたりすることが多くてしんどい状況を「心のコロナにかかってる」と表現した。
恐怖や不安だけでなく、子どもたちの怒りも伝わってくる。
「黒板にカウントダウンをしていた日数が、急に1になりました。先生が、泣きそうな顔で、次に合うのは卒業式です。と、朝の会に言った時、みんなが呆然として、泣きそうになりました。」
「私たちの気持ちを一体誰がわかるんですか?カウントダウンが1になったあの日の私たちの喪失感を、誰が想像できるって言うんですか?」と社会や政治に対し怒りを露わにするコメントも少なくなかった(中3・都道府県無回答)。"
※安倍芳絵(工学院大学准教授/セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン理事)「子どもの声から何を読み取るのか?―子どもと共に新型コロナウイルス感染症へ向き合うために―」より引用
※レイアウトと太字は私が少し変更させていただきました。
安部准教授は、「気持ちの受け皿をつくる」ことが求められる、と提言してくださっています。
しかしその前に、専門家会議にすら諮られず、地域別の休校に踏み切ろうとしていた文部科学省の決定も無視して、一斉休校に踏み込んだのは総理大臣の独断です。
日本の総理大臣がある日突然「心のコロナ」に日本全国の子ども・若者を陥れた、そのことが私には悲しくてたまらないのです。
「一斉休校の独断、議事録もなく 危機に幅きかす権威主義」(朝日新聞5月4日記事)には、議事録すらなく、総理が独断で一斉休校を決めたことが書かれています。
「受け皿をつくること」を大事にしながらも、コロナ災害のもとで、子ども若者を「心のコロナ」に陥れる日本の政治を、社会を変えないと、何度でも同じことが繰り返されます。
“外で遊ぶな”、”土曜も休みも授業にする"など簡単に子ども・若者をおどかす虐待的な言動をしまう大人たちを、そのままに放置してしまうことになります。
そんな日本のままで、この国に未来はあるのでしょうか?
きっと後進国日本においては、ずっとずっと子ども・若者の「心のコロナ」は続いてしまうのではないでしょうか。
だとしても、この調査に取り組んだ団体のように、子ども若者の「心のコロナ」に向き合い、なんとかできないか、一生懸命な取り組みを続けているのです。
どうすれば「心のコロナ」が癒えるのか、それは簡単な問題ではありません。
ただこれだけは言えます。
突然に一斉休校をしたり、子ども・若者を脅かしたりする、偉そうな上から目線の大人は、子ども・若者の「心のコロナ」をさらに深刻化させるだけである、ということです。
でも、そんな中でも、大人がどうすればいいのか、子ども・若者に寄り添うために、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンは、子ども・若者の権利を重視し、7つの提言をしてくださっています。
1.あらゆる状況にいる子どもたちの意見を聴き、新型コロナウイルス感染症対策などに最大限反映してください。
(子どもの権利条約:第3条子どもの最善の利益、第12条子どもの意見尊重)
2.子どもたちに向けて、適切な情報提供とメッセージの発信を行ってください
(子どもの権利条約:第13条 表現・情報の自由、第17条 適切な情報へのアクセス)
3.すべての子どもの多様な育ち・学びを保障し、子ども同士の格差をうまない対策をすすめてください。
(子どもの権利条約:第2条差別の禁止,6,23,26,27,28,30,31条)
4.学校再開に際しては、各学校現場の取り組みに合わせて国の支援を行ってください。
(子どもの権利条約:第28条教育への権利,第29条教育の目的)
5.子どものこころのケアに配慮した中長期的な取り組みを国として支援してください
(子どもの権利条約:第6条声明への権利・生存・発達の確保,第13条,第24条,第39条)
6.休校要請など国の感染症対策による、子どもに対するインパクト調査・評価をおこなってください。
(子どもの権利条約:第4条 締約国の実施義務)
7.差別を助長しない取り組み、メッセージの発信を推進してください
(子どもの権利条約:第2条差別の禁止)
公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「提言・新型コロナウイルス感染症影響下における、子どもの育ち・学びの保障に関する提言」(SCJapan調査pp.4-7)
声をあげ、異なる意見も尊重する令和の若者
若者の声を聞き一緒に考えられるか、大人の姿勢こそ問われている
ここからは、いまホットイシューとなっている学校再開に関連して、若者の声を尊重すること、について私の見解を述べていきます。
休校の長期化の中で、9月入学を求める声も、9月入学に反対の声も若者からあがっています。
ネット炎上を含め、メディアや社会の思わぬ反応に傷つくリスクや、自分たち自身の未来や現在への不安もある中で、声をあげ発信をしてくださっていること、本当にうれしく思います。
「「青春取り戻す」、高校生の「9月入学」署名に2万人超」(5月1日 alterna記事)
9月入学反対派の署名をしている若者がこう述べています。
「この署名は、賛成している方と争うために作ったものでもありません。反対する人もたくさんいるということ、反対の意見を持つものから見たデメリットを世間に知ってもらい、両方の意見を踏まえ検討してもらうための署名です」
声をあげ、異なる意見も尊重する令和の若者たち、彼女ら彼らの勇気や行動力、発信力を尊敬し、その声は置き去りにせず、大切にしていかないといけません。
私自身は、拙速な9月入学には反対の立場をとっていますが、賛成派も反対派も含め、みなさん方の意見は受け止め、大切にします。
そうしなければ、コロナ災害のもとで「心のコロナ」を打開することはできません。
日本の大人のひとりとして、強くそう思います。
政治家も変わりつつあります。
5月6日に野党合同で、野党合同『#つくろう学生支援法』WEBヒアリングが行われるそうです。
ツイキャスのコメント欄でみなさんのコメントも届けられます。
(マスコミ・フルオープンですので、みなさんのコメントもそのまま読んだり表示されたりする可能性があります。)
困窮した学生を支援するための法案作成のためのヒアリングですが、若者の声を聞き、ともに考えようという政党政治家の努力は、いいものだと思います。
もっともこうした試みが与野党問わずひろがってくると、子ども・若者を利用しようという政治家も増えてきます。
だからこそ、子ども・若者の権利を大人が、とくに教師や政治家、マスコミなど権力を持った大人が学び、尊重する必要があるのです。
学校の教員のみなさんは、政治家のみなさんは、マスコミのみなさんは尊重していますか?
日本の大人は大切にしていますか?
子ども・若者の声を?権利を?尊厳を?
青春を、学校生活を取り戻したい、入試や就職の不安
出口戦略は若者と大人で一緒に考えるべき
昨年度(2019年)の大学共通テストについても、英語民間試験・記述式を含め延期判断に至るまでに、この改革はおかしい、と声を上げ続けた若者たちの存在がありました。
「共通テスト中止を」 高2生 文科省へ署名4万筆(東京新聞・2019年11月7日)
国語記述式 高校生「中止を」 独自調査で「自己採点困難」(中日新聞・2019年11月14日)
私自身もその前から、貧困状態の若者たちの入試改革への不安を受け止め、研究者として声を上げ続けていましたが、若者のみなさんの声や行動からはたくさんの勇気をいただき、有効なアクションにつなげることができました。
文部科学省の大学入試のあり方に関する検討会議委員としても、コロナ災害への対応だけでなく、より良い入試のあり方については、若者のみなさんの声を聞いていただけるよう文部科学省にもお願いしています。
去年声をあげ、行動してくれた「共通テスト第一世代」となるはずの高校2年生のみなさんが、いま高校3年生になり、特にオンライン学習等に対応できていない方たちが休校長期化の中で苦しんでいること、つらいです。
青春を取り戻したい、入試で不利にならないようにしてほしい、友達と学校生活を楽しみたい、部活をしたい、進学や就職が不安だ、その気持ち、痛みとともに受け止めています。
何もできていなくて、ごめんなさい。
理不尽な一斉休校も止められなくてごめんなさい。
一斉休校に際しては、総理記者会見直後から、文部科学大臣含め知りうる限りの政治家、省庁、首長、教育長に意見書を送りましたが、効果はありませんでした。
(内閣府文書となっていますが内容は同じです。緊急対応であったため誤字脱字はお詫び申し上げます。)
また一斉休校以降、教育政策の研究者としても、教育分野における子どもの貧困対策の専門家としても、できる努力を精一杯してきましたが、オンライン学習を含め思うように学校再開には結びついていません。
でも、この瞬間にも私以外の大人、政治家も、省庁も、医師も、何人もの大人が学校再開にむけて努力しつづけています。
信じてもらえないのは結果がでていないからですが、それでも本当のことです。
受験や就職を控えたみなさんたちのための「コロナ出口戦略」のアイディアは、別途まとめる予定です。
みなさん方の声が出来る限り効果的に届くように、一研究者に許される範囲ですが、精いっぱいの努力はします。
もっとこうしてほしい、それは違うのではないか、このようなケースはどう考えたらいいのだろう?
様々な声がいただける仕組みも考えてみます。
しかし、こうした努力をする大人がもっと日本社会に増えなければ、子ども・若者を大事にし、声を聞き、ともに社会を変えていく日本には変われません。
とくに日本政府は、一斉休校以降、子ども・若者を放置してきた無責任と向き合い、入試や就活といったコロナの出口戦略については、若者と大人で一緒に考えるべきだと思います。
最後にもういちど繰り返しましょう。
子ども・若者の声を聞かなければ日本の未来はありません。
そして大人が子ども・若者の声を権利を、尊厳を大切にする日本は、もう、すぐそこにあるはずだと信じてもいます。