W杯ホスト国に快勝のなでしこジャパン。次の相手は欧州王者・イングランド
来夏のW杯に向けて、なでしこジャパンが成果を手にした。
10月6日に神戸で行われたナイジェリア戦(◯2-0)から中2日。長野に移動して、9日に行われた試合でW杯ホスト国のニュージーランドに2-0で快勝し、2連勝を飾った。
平日の夕方に行われたナイジェリア戦は1,671名と観客の少なさが目立ったが、この試合は4,110名。ゴール裏など一部エリアで声を出しての応援が可能になり、スタジアムに活気が戻ってきた。
ニュージーランドは大半の選手がアメリカやヨーロッパでプレーしていて、個のレベルアップを代表チームの強化につなげている。また、W杯開催決定を機に4年ぶりに国内で親善試合を行うなど、国を挙げて女子サッカーに力を入れている。
ただ、試合は日本が終止主導権を握り、ボール支配率66%、シュート22本(NZは5本)と圧倒した。ナイジェリア戦で初めて使った3バックのシステムをこの試合でも継続し、先発6名を交代。異なる組み合わせで、より躍動感あふれる攻撃を見せた。池田監督は、「中央の五角形をしっかり作ってから守備をすることなどを整理できました」と、中2日での修正力に手応えを示した。
前半44分に、MF遠藤純とのワンツーから左サイドで抜け出したMF宮澤ひなたが決めて先制。後半は、連続したポジションチェンジや長短のパスを使ってスペースを活かし、61分にはMF長野風花のクロスをFW植木理子が得意のヘディングで決めて2点目。5枚の交代枠を使って変化を加えながらニュージーランドの反撃を退けた。交代の中で、センターバックのDF熊谷紗希をボランチに上げるなど、新たな組み合わせにもチャレンジ。終盤の82分には17歳のMF小山史乃観が代表デビューを果たした。
この試合では、海外組のたくましい成長ぶりが印象に残った。左サイドで攻撃を牽引したのは遠藤だ。今年からアメリカのエンジェル・シティFCでプレー。代表では4バックのサイドハーフやサイドバックが主戦場だったが、今回はウイングバックで出場した。宮澤との縦の関係で持ち前のスピードを活かし、多彩なクロスを供給した。170cmを超える選手とマッチアップしたが、「(体格が)大きい選手を見てもビビらなくなりました。それが当たり前のいい環境でプレーできています」と、心身ともに成長した姿を見せた。
今回初めて海外組として参加したDF清水梨紗(ウェストハム)も、ピッチを広く使ったサイドチェンジなど、スケールアップを感じさせた。屈強な外国人選手も多いイングランドでは、「守備の寄せが深くて、ファウルがすごいです」と、守備の強さに刺激を受けているという。3バックで起用されることもあり、プレーの幅を広げている。
MF杉田妃和(ポートランド)はナイジェリア戦は左サイドハーフ、この試合ではボランチで出場。MF林穂之香(ウェストハム)とDF南萌華(ASローマ)はこの試合が初先発となったが、攻守で安定したプレーを見せていた。
国内組では、植木が1月のアジアカップ以来のゴールでチームに勢いを与えた。「自分の価値を一番示せる部分はゴールだと思います」と喜びを口にし、「前半は守備でうまくはめられないところがあったのですが、田中(美南)さんが外から見てアドバイスをくれていい形につながりました」と、ベンチも含めたコミュニケーションを成果に挙げた。
また、この試合で鮮烈なインパクトを与えたのが、代表デビュー2試合目でフル出場したMF藤野あおばだ。U-20W杯で準優勝に貢献した18歳は、スピードを武器にWEリーグではその価値を証明済みである。
スピードに乗ったドリブルが武器だが、この試合は攻守において90分間、ハイパフォーマンスを継続。U-20W杯では守備面で黒子としてチームを支える場面も多かったが、「なでしこジャパンでは、攻撃的な部分での役割を意識してプレーしています」と言う。「ナイジェリア戦では相手が見えていないところがあったので、前後半を通じて相手を見ながら前向きにボールを運べたのは今回、うまく行ったところです」と分析しつつ、「後半は走力が落ちてしまった」と、課題と向き合うことも忘れなかった。その姿勢はU-17の時から変わらず、毎試合、客観的にプレーを省みる姿が印象的だ。
3バックの一角で2試合に先発したDF高橋はなは、小山やFW浜野まいかも含めた10代の新戦力の融合に手応えを感じたようだ。「U-20の選手たちの実力は言わずもがなで、自分たちが合わせるというより、彼女たちが実力を発揮して、チームに融合してくれている。これから一緒にやっていくのが楽しみです」と、フレッシュな力を歓迎していた。
【真価が問われるイングランド戦】
今回、池田ジャパンはナイジェリア、ニュージーランドとの2連戦で3バックの新たなオプションを試し、2試合で無失点。国内組と海外組に加え、U-20代表から引き上げられた新戦力の融合が見られたこともポジティブな要素だ。
3バックも4バックでも、「攻守にアグレッシブに戦う」というコンセプトは変わらないが、所属チームで3バックを使う選手が増えたことで変化への対応がスムーズになり、戦い方の選択肢は増えている。キャプテンの熊谷は、「1試合目はみんないい位置に立てているけどなかなか前に進めなかった。今日は距離感がすごく良かったと思います」と話し、試合中のコミュニケーションの重要性を改めて強調。今回初招集となった小山も、「なでしこジャパンではコミュニケーションの質と、求められるプレーの質が違うと感じました」と、飛び交う「声」の質に刺激を受けたようだ。
チームとして実りのある2試合だったが、W杯本番のスピード感やプレスの強度という点では、FIFAランク上位の強豪国との対戦がバロメーターになる。その意味で、来月にアウェーで欧州王者のイングランドと対戦できることが非常に大きい。イングランドは7月の女子ユーロで優勝し、最近は世界ランク1位のアメリカに勝つなど、勢いのあるチームだ。
久々となる格上との試合は、チームのモチベーションを高めている。
「この時期にヨーロッパのチャンピオンと戦うことでいろんなことが見えてくると思うので、そこで見えたことを来年に繋げていきたい」と池田監督。熊谷は、「ここで勝たないとW杯では勝てないですから」と、言葉に熱を込めた。
また、リーグでイングランド代表選手たちと対峙している林も、同国との対戦を心待ちにしている。
「これまでは自分たちがボールを持つ時間が長かったので、相手にボールを持たれたり、組織的に強度の高いプレスをかけられた時にかわせるか、個人で違いを出せるかどうかは次の試合で明らかになると思います。拮抗した試合や1点を争う試合がW杯では絶対にあるので、その中で自分がどれだけできるか、チームにいい影響を与えられるかを楽しみにしています」
なでしこジャパンは、11日に非公開でニュージーランドと練習試合を実施。その後は一旦解散し、1カ月後の欧州遠征に向けて、それぞれの場所で再スタートを切る。
インドではU-17女子W杯が11日に開幕した。8月のワールドカップで準優勝したU-20代表に続く躍進が期待されている。また、10月22日にはWEリーグがいよいよ開幕する。日本女子サッカーにとって重要な2カ月間が始まった。
*表記のない写真は筆者撮影